正装に泣く
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午後5時にはぽっちりとした夕食が終わった。
………後で何か食ってやる。絶対食ってやる、と思いながら私は侍女さん達に囲まれていた。
先ずは湯浴みとな。
「髪やお肌に食事の匂いが移っていますから、湯浴みは必須です」
なんか偉い感じの人が言った。
………貴族令嬢ってのも大変だ。焼きそばとかたこ焼き食べた日には問答模様で風呂入らせられるんだろう。
あちこち丁寧に磨かれた後、バスローブのバッタ物のような服を纏って私は鏡の前に座らされた。
自慢ではないが、あまり美容に関心がない私は、こうしてじっくりと自分の顔を眺めるのは初めてだ。ささっと身支度を済ませる時、なんだか薄紫色の髪と目の色だなあ、程度に見知っていたくらい。
優しい手つきでお手入れが始まった。デパコスか!?きっとデパコスレベルに違いない。頬に手を添えると、お肌はもっちもち、かつてない弾力を感じる。
お手入れが終わると、薄っすらと色を乗せて行く。白粉はほんの少し。目元は薄紫、チークとリップは紫色の瞳を引き立てるようなほんの少し青みがかった色合いである。
「おぐしは、着付けが終わった後に致しましょう」
そう言うと、また別の侍女さんがうやうやしくドレスを掲げてやって来た。
なんと言うか…………あまりにデパコス色で、見ているだけで恥ずかしい。光沢のあるグレーのシルク素材に銀糸の刺繍。婚約者がいるとこんな見せ物のような格好をしなければいけないのか。
私はため息をつきながら侍女さんに手伝って貰ってドレスを身……………
身に纏えないではないですか!
「おかしいですねえ」
とドレスを持って来てくれた侍女さんが首を傾げる。
「アルテミシア様と言えば、当代きっての細い腰をお持ちだと有名でいらして、他のご令嬢方の憧れでしたのに………」
そりゃあ、3週間近く食っちゃ寝してれば多少は………多少?は…………と私は自分の腰回りを見下ろした。
「……………締めましょう」
偉い感じのほうがキリッとまなじりを上げた。
心得ました、とばかりに退室した侍女さんが、やがてコルセットを持ってやって来る。
そりゃあ、読みましたよ!?風と共に去りぬで読みましたよ!?あれですよね、ぎゅうぎゅう締め付けるあれですよね。
でもまさか自分がそんな拷問道具に拘束される日がやって来ようとは、日本人なら思うまい。
……………貧血を起こしそうだ。
「ではおかけ下さい」
無理。
立っているだけで精一杯。
座ったらさっき食べた物全部出そう。
「……………座って頂かないと、お髪を結う事が出来ません。姿勢さえ保てばそれ程苦しくは無いはずです」
そう言われて恐る恐る座る。確かに骨盤立てて背筋を伸ばすと、立っている時と同じくらいの圧迫感で何とかなる。器用な手つきで、髪が綺麗な夜会巻に結われた。
「アクセサリーはこちらを、とエインズワース公爵から言付かっております」
ぱかっと宝石箱が開かれると、綺麗な薄紫の宝石で出来たネックレスとイヤリング、そして髪留めが入っていた。
「事故に遭われた時と全く同じ装いでは、アルテミシア様の気持ちが塞ぐかもしれない、と先程お届けになられました」
え!もう戻って来てるのか。
「お支度が整いましたら呼んで欲しい、と閣下の執務室でお待ちです」
まさか薄紫色の服なんて着てないだろな、と思って私はちょっと笑った。
「本当に仲がおよろしいんですね」
と、厳しい表情一辺倒だった偉い的な侍女さんが相好を崩した。
いや、それ勘違いだから。
「さあ、出来ました!なんてお美しい。公爵もお喜びになるでしょう」
そう言って、全員が退室し、程なくデパコスが部屋にやって来た。
…………流石に薄紫の服は着ていなかった。もし着ていたら『紫のスーツの人』というあだ名をつけてやろうと思っていたのに残念だ。
……………ん?
心なしか、シルバーグレーのスーツの色は私のドレスと明度も彩度も似通っている。おまけに、ピアスとカフスボタンは、いや、同じ石から取りましたよね?と聞きたくなるほどそっくりだ。
ペアルックかよ!
最早私は泣き笑いするしかなかった。
「………貴女の正装姿を見るのは久しぶりですね」
「あのー、立って話してもいいですか?」
これ以上体を折り曲げたく無い。
「もちろん。立って良く見せて下さい」
そう言う意味じゃねえんだよ!
「とても良く似合っています。俺も鼻が高いですよ」
ではそろそろ、とデパコスが腕を差し出した。
「王太子殿下は国王陛下とご一緒にお待ちです」
やがて、王様のごくプライベートな私室、と言う部屋の前に辿り着いた。
ドアの両脇に居た衛兵が静かに扉を開く。
私達の装いを見た途端に、王子が「うわ、えげつね」と呟いたが、えげつない、などと言う下品な言葉を知らないであろう国王陛下とデパコスは綺麗に聞き流していた。
「これはこれは。ファーレンハイト嬢。急な呼び出し、申し訳なかった」
温厚な低音。
成る程、中嶋室長だあ!
「お初にお目にかかります。アルテミシア・クララベル・ファーレンハイトにございます」
国王陛下は、ふふ、と笑った。
「デビュタントの時に一度挨拶は受けている。まあ、そう固くならずに。今日は………そなたの仕事ぶりもともかく、そなたが目を覚まして以来、王太子が目に見えて明るくなった事を、ただの父親として感謝を伝えたいと思って来て貰った」
目に見えて明るくなったなら、嫁嫁とプレッシャーかけてやるなよ、と思いながら私は粛々と頷いた。
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