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待機

カクヨムにも掲載しております。


順次こちらにも公開していきますが、先を読みたい方はカクヨムまでどうぞ。

うーん


き、気まずい・・・


初対面の人とこんなにも長く共に過ごしたのは初めてのことだ。

コロニーでは皆生まれた時から顔を合わせているからか、特に気を使うことなく話しができている。そのため全く素性を知らない人との接し方など、知るはずもないのだ。


こういう時はなんて話せば・・・

そうだ、まだ名前を聞いていなかった

緊張で力んだではいたが、意を決して通信機のスイッチに手をかけた。


「ねえおじさん、おじさんの名前何ていうの?」


「知る必要はない。好きに呼ぶと良い」


「え〜、ケチ〜。じゃあ、おじさんでいいや。あ、私ハルカ、よろしくね!」


知る必要はないって、随分と偏屈な人だ

名前ぐらい教えてくれてもいいのに


ここで会話が終わってしまうと更に気まずくなる。

もう少し会話を続けよう。


「ねえ、おじさん。おじさんはなんで塔に向かってるの?」


「答える必要はない」


またか。あんなところで1人いたのだから軍の特戦部でもないだろうに。

となると残る線は・・・。


「え〜また〜? おじさん軍の人でもないのに、教えない教えないって。もしかして、中央研究所の人?」


「・・・ああそうだ。そこで方舟の開発していた。もう随分と昔のことだがな」


「そうだったの! しかもおじさん方舟作ってたの!? ちょー偉人じゃん!」


やっぱり中央研究所の人だったか。しかも方舟開発の関係者となると中央研の中でもかなり優秀な人らしい。なら太陽の街についても何か知っているのではないか。


「大したことはしていない。皆人類を救うため、やるべきことをやったまでだ」


「でもすごいよ〜。じゃあの街に居たことあるんでしょう? 教えてよ〜どんなところなの?」


「あそこに居た時はまだ街は塔も含め開発中だった。よくは知らん。ただ世界中の金持ちやら権力者やらが我先にと居住区の取り合いをしていたことは記憶している」


「え〜なんかそれヤダな〜」


「なんだ、行く気が失せたか?」


「ううん、全然! お金持ちの人ばっかりってことは、美味しい料理しかないってことでしょ?」


「どんな料理があるのかなぁ。やっぱり2号成形食もひと味違うのかなぁ〜。いや」


私の街への夢想は、おじさんからの緊張した通信で突如終わりを迎えた。


「敵影だ。一度停止する」


「て、敵?! わかった」


ブーストの出力を落とし、減速する。

敵、敵って、私たちを襲うやつ?

初めて耳にする言葉に戸惑いを隠せない。


「敵って、戦うの?」


「分からない、できれば戦闘は避けたいが」


クソッ、とでも聞こえそうな勢いでおじさんは自身の言葉を遮った。


「ハルカ、ここで待っていろ。片付けてくる」


「片付けるって、おじさん大丈夫なの?」


戦闘は避けられないみたいだ。

私のレーダーには何も映っていない。不安が更に大きくなる。

敵はこちらに向かってきているのだろうか。しかし何のために。

疑問と困惑で頭がいっぱいだ。

おじさんに心配の声をかけるのがやっとだ。


「こちとら軍用だ。そう簡単にはやられん。行ってくる」


「お、おじさん・・・」


行かないでと手を伸ばすも、その背中は既に小さった。

行ってしまった。


吹雪の中、私は再び1人になった。

今まで通り、冷たい世界の中に取り残された。

すると急に恐ろしくなった。

なぜかは分からない。

おじさんに会うまで、コロニーを出てからずっと1人だった。旅立ちの時も、食事の時も、寝る時も、ずっと1人でやってきたのだ。今更怖いことなどないはずだった。そのはずだった。


だが久しく忘れていた。誰かがいつもそばにいてくれていたこと、そして密かに安堵していたことに。

コロニーではいつも周りに人がいた。おばあちゃん、親方、みんなの兄貴に、同じお手伝いの子。

他にもたくさんの人囲まれながら生活していた。孤独とは無縁だった。

だから旅立ちの時には少し戸惑った。

でも冒険に別れは付き物だと、絶対にみんなのところに帰ると。

そう誓ってコロニーを飛び出した。



だが今、その誓いが揺らいでいる。


怖い


昨日までは忘れていた、いや、必死に我慢していた感情。


コロニーの外での孤独は死を意味する。

齢14の少女が生まれて初めて直面する絶対的な恐怖。

どうすることもできない事実を、つきつけられていた。


おじさんのことは確かに心配だ。

彼がいなくては街に着くことすら叶わなかったかもしれないからだ。


しかし1人になった私にそんな余裕などなかった。

早く帰ってきて欲しいと祈ることしかできなかった。


昨日出会ったばかりの、フルサイボーグの他人に、安心感を抱いてしまった。

確かにまともな会話は無く、事務的な通信が終われば沈黙が続いた。

しかし私は確かに安堵していた。私の機体を牽引する大きな背中に、幼き頃に亡くなった父の姿を重ねてしまうのだ。



コロニー整備の事故で亡くなったそうで、父のことはよく覚えていない。

その頃私は3歳だった。

寡黙だが腕のいい職人だったと親方から聞いた。

生きていたら、こんな背中だったのかな、と彼の機体を見つめ、思いを馳せていた。



そんな人が今、戦っている。

命を落とすかもしれない。

おじさんは怖くないのだろうか。なぜ私を置いて行ってしまったのだろうか。

もしかして私を置いていく都合のいい嘘ではないのだろうか。


おじさんには無理を言ってお供にしてもらっている。

おじさんからすると私はどう考えても足手纏いだ。

あの街に行く用があったと言っていたから、足手纏いは適当なところで切り捨てておくのが合理的だ。


ならなぜここまで連れてきてくれたのだろう。そんなことをするぐらいなら、最初から私なんか無視してくれればよかったのに。そうすれば私はそのうち食料が尽きて、コロニーに戻ることも叶わず、雪に埋もれていただろう。



自暴自棄に陥っていたところに、遠くで爆発が見えた。

かなり大きな爆発だ。


ジェネレーターの爆発?

おじさん?!


爆発の光と炎が、私を現実に引き戻す。


おじさん、もしかして・・・


最悪の事態が浮かぶ。

敵がこちらに向かってくる。

私の機体には武装と呼べる武器はない。

あのおじさんの機体でも勝てなかったのだ、私なんて一瞬でスクラップだ。



喉が渇く


まばたきがせわしない


レーダーに反応があった


来る、逃げなきゃ


でもどうやって?おじさんが勝てなかったんだから逃げれるわけないよ

覚悟を決める間も無く、通信が入った。


「遅くなった」


半日ぶりとも感じる懐かしい声が聞こえ、一気に気が緩む。

よかった、無事だったんだ

無数にあった不安が一気に解消された。

おじさんは戦いに勝って、自分のところに戻ってきてくれた。

見捨てられたわけではなかったことに、心から安堵した。


「おじさん! 怪我ない? 大丈夫?」


声が震える。

恐怖とおじさんが戻ってきてくれた感動が入り混じり、変な声が出てしまった。

今はおじさんの容体が心配だ。見たところ何ともなさそうだが大丈夫だろうか。


「ああ、問題ない。弾丸を幾らか使っただけだ」


「そう、なんだ・・・、はぁ〜〜、よかった〜」


「心配しすぎだ。さあ、進むぞ」


「もう〜こっちの気も知らないで〜。爆発が見えた時は気が気じゃなかったんだからね」


「あんなの戦場じゃ日常茶飯事だ。早く接続しろ」


「む〜。は〜い」


私は不貞腐れた演技をしながら、笑顔でおじさんの機体に近づく。


やっぱり無愛想な人だなと思う。

でもそんな彼の言葉の節々に温もりを感じる。

彼にも子供がいるのだろうか。

どことなく、そんな感じがする。


「おじさん、いいよー」


いつもの無骨な背中が目に入る。


しかしその背中は昨日よりも大きく、優しかった。



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