戦闘
少女と出会って丸一日が経過した。
小娘との会話はというと「ちょっと眠たいから休憩させて」だの、「ご飯食べるからちょっと速度落として」だの、通信での事務連絡程度しかしていない。
別に構わないのだが、気まずくはないのだろうか。
ここは何か話題を提案した方が良いのではないか。
いや、わざわざ話す必要も無いだろう。
塔まで連れていってくれとくれと小娘自身が頼んだのだ。
それ以外のことをする道理も義理もない。
しかし妻と出会ってまだ間もない頃「もう少し愛想良くした方がいいですよ」と注意されたことがある。
愛想良くしなくなくても、やることをやっていれば文句を言われる筋合いはないだろうというのが自論なのだが。
どうしたものかと頭を悩ませていると、ブツッと通信のノイズが入る。
やれやれまた休憩か。たしかにこんな吹雪の中では眠くもなるだろう。
「ねえおじさん、おじさんの名前何ていうの?」
おや
気まずさに耐えかねたのか小娘が話しかけてきた。
「知る必要はない。好きに呼ぶと良い」
「え〜、ケチ〜。じゃあ、おじさんでいいや。あ、私ハルカ、よろしくね!」
結局おじさんに落ち着いた。
もうお爺さん呼ばわりされる年齢だが、言わないでおこう。
にしても・・・ハルカ、か
あの姿で、あの顔立ちでその名前は・・・
・・・・・・
もうこの世界には無縁の言葉だ。名付け親は何を思ってその名前にしたのだろうか。
「ねえ、おじさん。おじさんはなんで塔に向かってるの?」
「答える必要はない」
「え〜また〜? おじさん軍の人でもないのに、教えない教えないって。もしかして、中央研究所の人?」
よく喋るな
子供というのはこんなにもおしゃべりな存在なのか?
両親も手を焼いているだろう。しかも今はコロニーを1人で抜け出して冒険中だ。
しかしこれ以上の“教えない”は子供相手だと駄々を捏ねられる可能性があるな。
仕方ない
「ああそうだ。そこで方舟の開発していた。もう随分と昔のことだがな」
「そうだったの! しかもおじさん方舟作ってたの!? ちょー偉人じゃん!」
方舟
それは外宇宙へ人類存続の鍵を探す果てのない旅に出た宇宙船。元々は旧時代に富裕層向けの宇宙ツアー用に建造されていたが、太陽の冷却が始まるや否や外宇宙探索計画が実行され、外宇宙への旅と長期間の研究を可能にする改修が行われた。
「大したことはしていない。皆人類を救うため、やるべきことをやったまでだ」
「でもすごいよ〜。じゃあの街に居たことあるんでしょう? 教えてよ〜どんなところなの?」
「あそこに居た時はまだ街は塔も含め開発中だった。よくは知らん。ただ世界中の金持ちやら為政者やらが我先にと居住区の取り合いをしていたことは記憶している」
「え〜なんかそれヤダな〜」
「なんだ、行く気が失せたか?」
「ううん、全然! お金持ちの人ばっかりってことは、美味しい料理しかないってことでしょ?」
食事にはかなりこだわりがあるようだ。
太陽の街に行きたい理由も、温かい飯を食べたいから、とか言ってたっけな。
「どんな料理があるのかなぁ。やっぱり2号成形食もひと味違うのかなぁ〜? いや--」
おいおい金持ちが成形食を食べるわけな
大型熱源 確認
む、広域レーダーに反応だ
塔からはまだ遠い。警備の強化外装ではないはずだが何者だ。
「敵影だ。一度停止する」
「て、敵?! わかった」
ハルカの減速を確認し、ブーストを弱める。
「敵って、戦うの?」
「分からない、できれば戦闘は避けたいが」
大型熱源 接近
くそっ、向こうのレーダーにも引っかかってしまったか。
「ハルカ、ここで待っていろ。片付けてくる」
「片付けるって、おじさん大丈夫なの?」
「こちとら軍用だ。そう簡単にはやられん。行ってくる」
「お、おじさん・・・」
不安そうな声が聞こえてくる。
心配してくれているのか
優しいな、つい昨日出会ったばかりなのにな
戦闘モードへ移行
破壊対象を大型熱源に設定
破壊対象 大型熱源
コード レッド
戦闘モードへ移行します
ハルカの姿が遠ざかる。
その姿はまるで、離れていく親を引き留める子供のようだった。
やつも広域レーダーを搭載しているとなると防衛軍のものか
こちらを捕捉してすぐに接近、しかも単機だとすると自律型。おおよそ、民間に横流しされたやつだろう
こちらの武装は右手のライフルと左手のエネルギー障壁発振器
やりようはある
破壊対象がスキャン範囲に入りました
対象 防衛軍所属 型式DF-02-C
DF-02-C、対人用の高機動型か
なら向こうの武装は大したことないな
よし、こちらの射程圏内に入ったな
ガン、ガン、ガン
牽制の3発、ライフルが火を噴く。
敵機体 射程圏内に入ります
素早くエネルギー障壁発振器を起動し、前方に盾として展開する。
遅れて吹雪の向こうから無数の弾丸が飛来する。
障壁から外れた弾丸が機体の角にあたり、火花を飛ばす。
対象 ロックオン
弾丸が飛来してくる方向が変わる。
ロックオンに合わせ、ライフルを放つ。
ガン、ガン、ガン、ガン
ゴッ、ギンッ
闇の中で2つ、大きな火花が散る。
しかし弾丸の雨はこちらを捉えて続ける。
流石に正面は無理か
軍用の強化外装は基本的に正面は硬く、背面は脆い。
武装も基本的には関節部や側面、背面への攻撃を想定して作られている。
高機動型ならば側面ですら攻撃できるか怪しい。
関節部はこの速度では現実的ではない。
ならば
ブーストの出力を一気に上げ、敵に急接近する。
相手も距離を離そうと後退しているが、まったく速度が出ていない。
強化外装は近接戦闘を想定して作られてはいない。
強化外装相手に近づいてくるやつは爆弾を抱えて特攻してくるやつだけだからだ。
発振器の出力を上げ、障壁の強度を上げる。
対象との距離 500
弾丸の雨が激しくなる。ブーストの出力を上げる。
250
弾丸の嵐と障壁が激しくぶつかり合う。更にブーストの出力を上げる。
100
ギッゴガガッギッゴンッ
障壁が防げなくなった弾丸が機体にぶつかり始める。ブースト最大出力。
50
いまだ
ブースターを垂直に立て、大地を強く蹴り、機体が前のめりに浮き上がる。
同時にエネルギー障壁の向きを進行方向に対し水平、大地に垂直に構える。
強化外装の正面装甲を突破する方法は主に2つ。
1つはレールガンのように超高速で大質量をぶつけること。
2つ目は高温で装甲を融解させること。
エネルギー兵器共通の弱点は、大気中でのエネルギーの減衰が非常に大きいことだ。発振器から5メートルも離れれば放出時の6割は消える。吹雪の中ではその減衰は更に大きくなるため、武器として扱える距離はせいぜい2メートルまで。
しかし高密度に圧縮・放出されたエネルギーは、様々な鋼材の切断・加工に用いられる。
故に至近距離であれば、あらゆる装甲を両断できる。
前傾した機体が相手の頭上に差し掛かる頃には、天地が逆転していた。
前に突き出していた左腕の先は相手の正面を捉え、プラズマの刃は相手の正面装甲の触れた箇所を一瞬で融解させる。
手を振り上げ、一気に刃を通す。
相手の頭上を過ぎると脚は大地に吸い寄せられ、徐々に機体が起き上がり、強い衝撃と共に再び地に脚をつける。
スラスターをふかし、通り過ぎた相手に視線を向ける。
両断とは行かなかったが、ジェネレーターを大きく破損した相手は体勢を崩し、地面に倒れると同時に爆発した。
対象の撃破を確認
通常モードへ移行します
無人機でよかった
人が乗っていればあんな曲芸じみたことは出来なかっただろう
しかしジェネレーターまで切る必要は無かったな、できればパーツをハルカの機体の改修に当てたかったが・・・
ともかく脅威は去った
あの子の元に戻ろう
あの子には武装がない
装甲も無いようなもだ、もし他の戦闘用強化外装に出くわそうものなら一瞬でお陀仏だろう
ハルカの機体が見えてきた。
ちゃんと待っていてくれたようだ。
「遅くなった」
「おじさん! 怪我ない? 大丈夫?」
少しだけ震えた声が聞こえる。
そこまで心配する必要は無かっただろうに。
「ああ、問題ない。弾丸を幾らか使っただけだ」
「そう、なんだ・・・。はぁ〜〜、よかった〜」
「心配しすぎだ。さあ、進むぞ」
「もう〜こっちの気も知らないで〜。爆発が見えた時は気が気じゃなかったんだからね」
「あんなの戦場じゃ日常茶飯事だ。早く接続しろ」
「む〜~。は〜い」
ハルカは不貞腐れた声で牽引ワイヤーのアンカーを掴む。
人を思いやれる優しい子だ
両親も鼻が高いだろうな
と思ったがそんな子は1人コロニーを抜け出して強化外装で外を走り回らない
やはり不良娘だ
「おじさん、いいよー」
しかしまあ、子供というのはこれぐらい自由な方が良いのだろうか




