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交渉

「おい、そこの小娘」


見上げている機体から声が聞こえた。

機械音声特有のノイズが混じっているが男性の声だ。親方と同じくらいの年齢だろうか。それぐらい年季の入った渋い声だ。

話しかけてくるとは思わず、気の抜けた声がでる。


「は、はいぃ〜」


「そこで何をしている」


やっぱり聞かれた。しかしなんだか話が通じそうな雰囲気だ。

ここは何もしていないと清廉潔白を主張しよう。


「い、いえいえ、私はちょっと珍しい機体があるなと思って近づいただけでして、決して防衛軍の人に何かしようとは思ってなくて、いやこの工具は別に吹雪が収まったからこ機体の整備をしようと思って、ちょうど風除けになりそうなものがあったのでここに今陣取ってるだけでして、決してジェネレーターを貰うだの装甲を剥がそうなどとは、毛ほども・・・」


自分でもかなり早口で言ってしまったことを自覚する。

さっきまで死の恐怖と未知の強化外装オーバーフレームに出会った興奮が棺桶を携えて一緒に走ってきていたのだ。そんな中で冷静になれというのは無理な話だ。

しかし私は途中で弁明をやめた。



目の前の機体は何やら考え事をしているみたいだ。

機械の視線や表情がわかるわけではない。

ただなんとなくそう感じたのだ。この機体はまるで人間のようにモノを考えている。軍人なのに、随分と人間臭いことをするなと思う。


防衛軍人特有の冷酷は雰囲気は、目の前の機体からは微塵も感じない。

もしや軍人では無いのではないか。

そう認識が変わると、だんだんとこの機体の奇妙な点が見えてきた。


まず防衛軍は私が生まれる前に大幅な軍縮がされている。

わずかなに残った部隊は太陽の樹の警護を命じられているそうだが、この人は今かなり離れた場所にいる。


そして右の背面から伸びる砲身だ。

一目見た時から思ったが、外装と比べるとかなり

異質な見た目をしている。損傷しているものの、機体の錆やヘタレ具合から見ても、あの武装だけは後からぽん付けしたみたいだ。

まさか軍用の機体に違法改造された武器をくっつけているのだろうか。

そうなるとこの機体はレジスタンスのものということだが、レジスタンスは単独行動をしない。単騎では防衛軍に勝ち目がないことは明白だからだ。



となるとパイロットは一体何者なんだろう。

軍人でもレジスタンスでもない、ならAi?

いや、もしかして私と同じようにコロニーに嫌気がさして、飛び出してきた人なのかもしれない。

そうなら手を貸してはくれないだろうか。

軍用の強化外装があるなら百人力だ。太陽の街の外壁も簡単に壊せるだろう。

正直、旧式のパイルバンカーだけでは心許なかった。


聞いてみる価値はある。

まずは人が乗っているかどうかからだ。

確か強化外装の中にはAiで自律駆動する機体があったはず。

もしやコックピットハッチが開かなかったのはそういたことだから?

自律型なら頼み事は聞いてくれない。

念の為だ。


「あ、あのぉ〜」


「何だ、まだ何か用か?」


「い、いえ、今誰か中にいるのかな〜って」


わずかな間をおいて、意外な答えが返ってきた。


「いや、誰も乗ってはいない」


「へ? じゃどうやって動いてるんですか? 自律制御? 遠隔操作?」


「遠隔操作は軍では採用されていない。吹雪では使い物にならんからな。あとAiの制御だったらこんな風に話さないだろう。この機体は俺の脳を直接繋いで、自分の意思で動かしている」


「へぇ〜、え、え?! じゃあサイボーグってことですか?! しかも脳を直接ってことは、フルサイボーグ?!」


衝撃的だった。

たしか、フルサイボーグ技術は未来の技術のはずだ。

人間の臓器を機械に置き換える技術があるのは知っていた。実際おばあちゃんの腎臓と肺は機械式だからだ。

しかし脳を取り出して機械の体を制御することは夢物語だと思っていた。

そうか、あのジェネレーターの裏にあった装置はその脳を生かすためのものだったのか。


点と点が線で繋がる。

脳が再び興奮状態に入り、口が反射的に動き出す。


「フルサイボーグって本当ですか?! 図録にはまだまだ先の未来の技術だって書いてあって、でも今それが目の前で動いて話している所をみると、やっぱりその技術はちゃんとあって、じゃあ軍の極秘技術ってことですか! いま私どんな風に見えてるんですか? 寒さとか感じないんですか? やっぱり--」


「あー、分かったから。少し落ち着け」


止まらない思考のアウトプットに静止の声が割り込んだ。

私の良くない癖だ。強化外装の話になるとすぐこれだ。


「ところで小娘、こんなところで何をしている。なぜ1人なんだ?」


ゔ、嫌なことを聞く。

この謎の機体は私のコロニーとは何も関係ないのだが、親方に悪戯が見つかって言い訳を考えている気分になり、興奮で登った頭の血が降りてくる。


「え? ええっと、・・・それは・・・」


うーん回答に困る。だがここで正直に答えないと目的が果たせない。

気は進まないが白状しよう。


「えっと、太陽の街に・・・行きたくて・・・」


「なぜ街を目指す。コロニーに居れば安泰だったろう」


「・・・あったかいご飯が・・・食べたくて・・・・・・」


そうだ、あったかいご飯だ。

もうたくさんだ。あんな冷たい、食べるだけで凍ってしまいな料理は。

それだけじゃない。

もうあのコロニーにいるのはたくさんだ。

あそこに居れば確かに安泰だろう。

だか私の心は擦り減って、いつか凍りついてしまう。

そんなふうにしか生きていけないのならばと、私は少しでも可能性に賭けたかった。


「気持ちは分かるが街に行きたいって、お前、居住権持っていないだろう。門前払いされて終わりだ。諦めな」


それは知っている。

だからやっとの思いで掘り起こしたパイルバンカーを持ってきた。

心許ないが。


「あれでコロニーに孔をあけて、そこから入るからいいの!」


「そんなことして中に入っても、システムに通報さてれ、延々と命を狙われるだけだぞ」


「え、そうなの? え〜〜、うーん・・・」


それは知らなかった。

私のコロニーにはそんなものはないからだ。

コロニーの外壁が壊れた時には空調管理システムの警報が鳴る。

それだけだった。

街の外壁に一瞬で孔をあけて、大ごとになる前に隠れれば万事解決。

そう思っていた。



だが現実は違った。

どうしてそんなことをするんだろう

同じ人間なのに、まるで害虫みたいに

私はただ、温かいご飯を食べたいだけなのに

なんでそれすらもさせてくれないんだろう


悔しい

でもここまで来たんだ

決めたじゃないか。あの日コロニーを抜け出したときに

だから考えるんだ、あの街に入る方法を



・・・そうだ

いいことを思いついた

多分これでいける。そうじゃなかった時は考えたくない

さあ、交渉の時間だ


「じゃあさじゃあさ、おじさんがあの塔まで連れて行ってよ!」


「・・・はぁ?」


「なぜそんなことを頼む。こっちは軍人だぞ?お前ごときに構っている暇はない」


当然の反応だ。


「え〜でもおじさん軍の機体だけど、軍の人じゃないよね? ここコロニーから随分と離れてるよ。軍規違反だよ? あとその右肩壊れたの武装も見たとこ無いやつだし。おじさんレジスタンスの人?」


向こうの反応を待たずに言葉を重ねる。


「レジスタンスだったらあの街に行きたいでしょ? だったら一緒に行こうよ!」



私の作戦はこうだ。

まず相手にレジスタンスかと問う。

そしてレジスタンスじゃなければお願いモードに入る。


それだけだ。

コロニーに住まう人たちにとって、レジスタンスは権力に立ち向かった英雄的存在ではなく、ただ暴力を振りかざしただけのテロリスト同然だった。

そのため、レジスタンスの構成員はどのコロニーからも追い出されているという。

ただ構成員からするとそんなことはなく、今でも名誉ある行いだったとして、レジスタンスであることを誇りに思っている人がほとんどだそうだ。


だからレジスタンスの人かと聞かれ、はぐらかしたり、嫌な顔をする人はそれ以外の人。

笑顔で過去の実績を語り始めたりしたらレジスタンスの人。

ただ相手が怒ってしまった場合の対策を考えていなかった。


頼む! 理解のある優しい人であってくれ!


「ええい、うるさい」


「俺はあの塔に用があるんだ。邪魔しないでくれ」


待っていました

よし、このまま押し切るぞ


「そうなの?! じゃあ一緒に連れてってよ! このままだと着く前に食べ物が無くなっちゃうよ〜。お願い!」


私は深々と頭を下げ、合掌した手を頭の前に掲げる。

これが私の奥義、誠心誠意お願いモードだ。

親方相手にはもう擦り過ぎて微塵も効きはしないが、初対面のまともな人なら断りずらいはずだ。


しばしの沈黙が流れた後、相手は観念したかのように口を開いた。


「分かったよ、連れて行けばいいんだろ? さあ早くお前の機体に乗れ。牽引する」


「え? ほんと?! やったー! おじさんありがとー!」


作戦大成功だ。

今年の運勢をもう全部使ってしまった。

だがこれで少なくとも生きて塔に辿り着く道筋ができた。

早速牽引の準備に取り掛かろう。

私は心からの笑顔と感謝の言葉を送り、機体に向かって駆け寄る。


「腰あたりにアンカーが見えるだろ。そこから引き出せ。引き出したらそっちの機体の牽引孔に通せ」


「分かった!」


相手の背中、というより脇腹の後ろあたりからフック付きのワイヤーが伸びていた。私は意気揚々とワイヤーを引き延ばし、自身の機体の牽引孔に引っかける。


「おじさん、繋いだよー」


「じゃあ発進するぞ、機体の姿勢制御に気をつけろよ」


「はーい!」



機体がゆっくりと前に進む。

これからどんな困難が待ち受けているかはわからない。

その恐怖よりも、夢の実現への第一歩を再び歩み始めた私の胸は嬉しさでいっぱいだった。


ああ、早く明日にならないかな


私の知らないことがたくさん待っている。

明日への希望に、操縦桿を握りしめた。


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