未来へ
おじさん・・・・・・?
私は夢でも見ているのかと思った。
ボスに手を引かれ、あの黒い強化外装に突撃していく彼の後ろ姿を見た。
光の球に届く直前、彼の体を閃光が貫いた。
落ちていき、飽和攻撃を受ける彼の姿をみた。
もう助からないと。
私の大切な人は、理不尽にも殺されてしまったと。
ぐちゃぐちゃの感情に心を引き裂かれる。
涙が零れ落ちそうになったその時。
絶望したその時、中央の建物から1本の光が伸びた。
その光は太陽の塔の外壁よりも、真上にある光の球よりも強く、温かく輝き、街全体を包み込んだ。
眩んだ目をゆっくり開けると光の柱は消えており、代わりに光を放つ誰かがいた。
人間のように細い手足と頭のある姿。
その周囲を強化外装のパーツのようなものが浮かんでいた。
誰? とは不思議とならなかった。
その姿は紛れもない・・・
おじさん!!!
私の・・・・・・
『超大型熱源 確認』
『エネルギー量測定・・・』
『・・・エラー エネルギー量測定不能』
『優先排除目標とします』
『目標変更 超大型熱源』
『コード デストロイ』
懐かしい感覚だ。
私に触れる風も
温かな光も
もう手放したはずなのにな。
ゆっくりと両の目を開く。
眼の奥にある誓いは蒼き炎となり、私を動かす。
正面には銃口を向ける黒い強化外装。
奥にはハルカとボス、マココの機体。
「来い!!!!!」
燃える魂は声帯を震わし、声を上げる。
周囲の装甲が私の元に集い、変形し、新たな強化外装の形作る。
元の孔だらけのくすんだ色の装甲ではなく、白く輝く装甲に漆黒の線がところどころに差し込まれている。
胸部の円形の窓からは第一種永久機関が生み出した太陽の光が溢れだす。
全身に装甲が纏い、最後にバイザーがかかる。
撃破対象 暴走状態の最終防衛機体
コード 「おとうさん!」「あなた!」
「がんばれ~~!!」
システムの音声を遮り、ヨシノとハルカの声が響く。
ふふっ
まったく、あの2人は・・・
心に愛の熱が宿る。
バイザーの奥から差し込む光は木漏れ日のように未来をそっと指し示した。
「「せ~のっ、戦闘モードへ移行しま~す!」」
『殲滅モードへ移行します』
防衛機体はゼロ・ブレイカーとレールガン、ミサイルを一斉に放ってきた。
さっきは世話になったなあ・・・。
着弾する直前、弾頭の進行方向にワームホールを生成し、出口を防衛機体の周囲に繋げる。
対象に向けて放ったはずの総攻撃が全て自身に返り、防衛機体は回避運動する暇もなく、プラズマと爆炎の嵐に包まれた。
爆炎の中から防衛機体のジェネレーターがはじき出される。
ギリギリでパージしたか。
しぶといやつめ。
『被弾原・・・不・・・明』
『機・・・損・・・率88・・・%』
『コー・・・ドスク・・・プ&ビ・・・ド』
『・・・・・・確・・・認』
『実・・・し・・・』
急いで向かうも、既に巨大なナノマシンの山が街を喰らい始めていた。
ジェネレーターさえ仕留めれば・・・。
全武装、太陽のエネルギーを放出するレーザー4門が蠢く山に照射するも、ナノマシンの分解と増殖は収まるどころか更に加速する。
『分解範囲拡大』
『銃火器の無効を確認』
『近接戦闘へ移行』
黒い山は巨刃を生成し、光の装甲に振り下ろす。
迸る閃光
黒き刃は大きく弾かれた。
ナノマシンの刃は装甲を分解するも無限のエネルギーに耐えられず崩壊、山をも超える刃は輝く鎧にかすり傷すらつけることが出来なかった。
『・・・大質量による攻撃を実行』
『分解範囲 無制限に変更』
まずいな。
こいつ、塔まで食う気か。
巨大化する山は津波となり、街中を分解し始めた。
この街を飲み込めば次は陽だまりの塔の外壁、太陽の樹を分解し始める。
大気圏にまで増築を繰り返した太陽の樹は、枝のようなアンテナ部も国1つを覆えるほどまでに大きく広がっており、一帯を照らしている。
そんなものがもし倒れようものなら、巨大な隕石の衝突のように人類絶滅のきっかけになるほどの衝撃が発生するだろう。
ハルカたちは今・・・。
広域レーダーを凌ぐ範囲のスキャナーでハルカたちの位置を確認する。
既に街からは脱出しており、さらに遠くへ移動している。
マココとボスの機体に挟まれ、無理やり連れていかれているようだ。
ありがとう、ボス。
よし、十分離れたな。
近づいてくれるなよ!
ドス黒いナノマシンの津波が外壁に到達する直前、空間の歪みを街が包み込んだ。
残されたのは大きくえぐれた街と、徐々に光を失う太陽の樹だけだった。
「ボス! 待って!」
「ダメダメハルカちゃん! あんな奴勝てっこないって!」
「そうさね! 命が惜しけりゃ、時には逃げることだって大事さね!」
「旦那のことは残念だったが、生きてりゃこういうことも」
「おだまりサム!! 縁起でもないこと言うんじゃないよ!」
「おじさん・・・・・・」
光の柱から現れたあの影は間違いなく彼だった。
・・・そうでいてほしい
みんなで幸せになると決めたのだから
ずっと傍にいてほしいと願っているのだから
薄暗い大地がゆっくりと闇を取り戻し始めた。
太陽の樹が光を失い始めたのだ。
「ボス! 太陽の樹が!」
「なんだいマコ・・・! こりゃ・・・一体・・・?」
「な、なにが起きてんだあ?」
おじさん・・・!
彼なら、きっと大丈夫
泣きそうになる目を擦る。
さっきまでのの心が嘘のように、彼を失う恐怖は塔の光と共に消えていった。
「よう、見えるか・・・?」
地球を背に対峙する。
白と灰色で覆われた地球には、大小いくつもの光が灯っていた。
「あれが全部・・・命の光なんだぜ・・・?」
世界中に各地に建設された陽だまりの塔
その光は、本来であれば分厚い雲を突き破って届くことは無い。
だが今、世界中の太陽石は共鳴し、強く光を放っていた。
黒く燻る太陽を背に蠢くナノマシンの塊
無重力化の制御ができず散り散りとなり、同じく光り輝く太陽石のジェネレーターがあらわになっていた。
「さあ、そろそろ起きる時間だ」
銀翼の飛行ユニットを広げ、光の速さで突撃する。
防衛機体はなんとか生成したであろうレールガンとゼロ・ブレイカーで応戦する。
着弾するも、弾頭は装甲に1ミリの傷すらつけることができず、あっけなく弾かれる。
絶対零度のプラズマ球は一切を凍り付かせることができず、光速の衝撃に吹き飛ばされる。
右の手の指を1本1本丁寧に折り曲げ、親指を添え固く握る。
憎しみも後悔も絶望も
明日への愛を込めて
腕をまっすぐとジェネレーターに伸ばし
拳が永久鋼と太陽石のジェネレーターに触れ
『未来への一撃』
振りぬいた。
外が・・・明るい・・・
太陽の樹の光は失われた。
闇が大地を全て包み込む寸前、雲の上から見たこともない、白く温かい光が降り注いだ。
その光は大地を白く焦がし、岩のような灰色の雲さえも切り開いていった。
生まれて初めてみる雲の向こう側
どこまでもどこまでも
無限に青が広がっていた。
「「「「・・・・・・」」」」
街を照らしていた光の球とは全く違う
見るだけで目が焼ける光。
これが・・・太陽・・・?
白く熱い光の球から、1つの影が浮かび上がってきた。
真っ黒な球は強化外装に形を変え、ゆっくりと降下してくる。
外装は一つ、また一つと人の形となり、街で最後に見た姿となった。
「おじさあーーーん!!」
私は機体を飛び降り、白の世界を走り出した。
空気が熱い
ヘルメットを脱ぎ捨てた。
ひんやりとした優しい冷気が頬をくすぐる。
同じ世界に降り立った姿は
指先や首元は皮膚と白い金属が隣り合い
高い背で、私と同じ真っ白な髪をなびかせて
優しく微笑む
幼き日に見た父の顔そっくりだった。
でも父でないことはすぐに分かった。
その声は・・・
「ハルカ、ただいま」
私の愛する人の声だった
「おじさ~~~ん!!!」
駆け寄るハルカを胸いっぱいに受け止め、両の手でこれでもかと抱きしめる。
「ハルカ、無事でよかった・・・」
「おじさんも・・・・・・ほんとに・・・!」
ハルカは笑顔で泣いていた。
その顔は結婚式で見せたヨシノそっくりだった。
「本当にすまない、心配かけたな」
「ううん・・・帰ってきてくれるって・・・信じてたから・・・!」
降り注ぐ太陽の光が、頬を伝う涙を宝石のように輝かせる。
拳を当てた瞬間、ジェネレーターとナノマシンにあるシステムを組み込んだ。
防衛機体のジェネレーターに使われている太陽石は、陽だまりの塔に使われているものと同じ大きさであった。
私のこの体を動かしている第一種永久機関には、マイナスの世界で生み出したエネルギーを集めるホワイトホールが組み込まれている。
このホワイトホールは臨界状態の太陽石を発散させることで生まれた。
陽だまりの塔と同じ大きさである太陽石から、もう1つの第一種永久機関を作り出すように、ジェネレーターに付着していたナノマシンに命令を与えた。
結果、わずかに残った太陽のエネルギーを元手に、無限の分解と生成を繰り返すナノマシンの永久機関を作ることができ、太陽は旧時代と変わらない光を、消えることのないエネルギーを放ち続けることができるようになった。
「ねえ、おじさん・・・」
「なんだ? ハルカ」
ハルカが面と向かって何かを言いたげだった。
頬を赤らめ、モジモジしている。
何となく予想はついたが、ここは黙って受け止めるのが大人というものだ
「ふぅ」と一息つき、覚悟を決めた燃えるような目で声を上げた。
「おじさん!」
「ああ」
「ありがとうーーー!!!」
ハルカは再び私の胸に飛び込んできた。
ハルカ、私からも言わせてくれ
君と出会えて本当に良かった
ありがとう
本当に
ありがとう・・・!
ああ~~言っちゃった言っちゃったどうしよ~~
火が起こせるぐらいには顔が熱い。
遂に内に秘めた思いを伝えてしまった。
なぜかとても恥ずかしい。
穴があったら入りたいとはまさにこのことか
愛の叫びまでは言えなかった。
でも大丈夫
私は今、この人の心と繋がっている
いつか、ちゃんと伝えるから
待っててね、私の恋心!
「なあ、ハルカ」
「な、なあに? おじさん」
真っ赤な顔のハルカの目を見る。
無限に続く空のように、どこまでも澄んだ青色だった。
「ハルカのコロニーに行ってみたいんだ。多分、君のお婆さんと会ったことがある」
「え、そうだったの?! じゃあ早く行こうよ! 私もみんなに早く会いたいんだ〜!」
「おおーそれならあたし達が連れてくよ〜」
「ボス!」
気づくとボスが後ろまで来ていた。
「なんせ、まだ取引したことないコロニーだからな、いってて・・・」
「新しい繋がりを開拓するのも、おれたちキャラバンの責務だ」
「そう言う訳さね。さぁ、そうと決まれば早く列車の戻るよ! こんなめでたい日にゃ、一杯飲みたいもんだからね! アーハッハッハッ・・・・・・」
ボスは笑い声を上げ、マココとサムがそれを追う。
相変わらずだが、今日は一段と豪快な笑い声だ。
「おじさんも、早くいこ!」
「ああ」
ハルカに手を引かれ、私たちは輝く光に歩み始めた。
新たな太陽は凍てつく大地を煌々と照らす
やがて世界を閉じ込めた闇は風となり、全てを動かす流れとなる
停滞した時間は融け出した水と共に進み始める
失われた熱は火となり生き物たちは目を覚ます
冷たい、けれどどこか優しい風が私たちの背中を押す
雪解けだ
ジャワジャワジャワジャワ・・・・・・
ミーンミーンミーンミーン・・・・・・
うう~ん、暑い~・・・
気温は28℃
あの日の優しい陽の光はどこにもなく、地球を焦土に帰すのような殺人的な光が水の張った泥地を照らしていた。
キャラバンが大華王国から持ってきたこの「コメ」という食べ物が、旧時代のみんなのお腹を満たしていたらしい。
しかしこのコメとかいう植物、育てるのが大変面倒くさい。
今からやっとの思いで大きくなったコメの子供たちを、この泥地に植えていくところだ。
しかしこの暑さでは何もできない。
しばらく日陰で休んでいよう・・・
「ハルカー、スイカを貰ったぞー!」
遠くからおじさんの声が聞こえる。
スイカ
これもキャラバンが大華王国から持ってきたものだ。
こっちもこっちで赤くおいしく熟れるまでが長い。
まあコメよりは幾分マシではあるか。
「はあ~い、今行く~」
あの忌々しい雪の冷たさが、今だけは恋しい。
絶対零度のプロメテウス END
ここまでお読みいただきありがとうございました。
カクヨムで掲載したものをこちらでも掲載いたしました。
小ネタを多く含んでおります。
是非コメントください。
重ね重ねありがとうございました。




