表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/32

プロメテウスの火

『あなた・・・』

『おとうさん・・・』




誰だろう


私を呼ぶ声がする


随分と心地よい声だ


まるで私が愛した人の・・・


「あなた」

「おとうさん!」


「うわあっ!」

私は白がどこまでも広がっている空間で目を覚ました。


私は、今まで一体何を・・・


「おはよう! おとうさん!」


「あ、ああ、おはよう・・・」


ベッドの傍には雪よりも白い髪をした少女と、私が愛した女性の姿があった。


「おはよう、あなた」



夢ならば、どうか醒めないでおくれ


幻覚なら消えないでおくれ


あの日、幸せを誓い


あの日、守れなかった人


そして、失った人


その人が


愛するヨシノがそこにはいた


「あっ、ああっヨシノ!」


いそいそとベッドから立ち上がり、ヨシノと対面する。


「ええっと・・・、あ・・・。んん・・・」


もう一度会いたいと何度願ったことか

何度神に縋ったことか


最愛の人を目の前にし、思考が固まる。

まさか本当に再会できるとは思わなかったからだ。

心のどこかで諦めていた、いやそれが正常なのだ。

にもかかわらず延々と彼女を思い続けてしまっていた。

なんと滑稽なことだろうか。


「ふふっ、あなたは相変わらずね」


彼女は困り顔で、優しく微笑みを向ける。

その美しさたるや・・・


ああ、この声、この笑顔

間違いなく、ヨシノだ


「・・・・・・ヨシノ!」


「なあに? あなた」


「・・・! 会いたかった・・・!」


「私もよ、ロバート」


その場で立ち尽くし、泣き顔を隠す私をヨシノは優しく抱きしめてくれた。

私も彼女の白く長い髪をそっと撫でる。


非力な野ウサギ野郎と馬鹿にされ続けてきた名前

耳を塞ぎ込んでしまうほどに嫌いな名前だったが、今は何度でも言ってほしい。


私の顔は、今ひどいことになっているだろう。

だがここには私を嘲笑うものなどいない。

ただ2人だけの、幸せな空間だ。


ん? 2人?


「やっぱり、お似合いさんだね!」


1人の少女が満面の笑みを向けていた。


誰だ? とは不思議とならなかった。

その子は紛れもない・・・


「ハルカ、大きくなったな」


「うん!」



私の一人娘だったからだ。







よしよしとハルカの頭を撫でまわす。


「えへへ~おとうさんの手、おっきくてあったか~い♪」


「はっはっは、い~っぱい撫でてやるぞ」


そうだ、この子は私たちの子だ。


ヨシノとの愛の結晶


私たちが守り続けていく世界


これから創り続けていく未来


しかし甘えんぼさんだな

もう生まれたときか・・・ら・・・・・・


「おとうさん?」


「・・・・・・」


「おとうさん、大丈夫?」


「・・・あ・・・あ゛あっ、ハルカ・・・! うぅ・・・・・・」


「んんっ!」


大粒の涙を流しながら我が子を抱きしめる。


守れなかった分まで


助けられなかった分まで


幸せにしてあげられなかった分まで


せめて、この瞬間だけは


この子に、愛を教えてあげたい


「ハルカアァ・・・! ずまない゛・・・!! 守っで・・・やれなぐで・・・」


大の大人が情けなく子供に縋り、泣いている。


「だずけて・・・・・・やれなぐで・・・・・・!!!」


心に閉じ込めていた


忘れ去ろうとしていた感情が


堰を切ったようにあふれ出し、止まらない。




ヨシノも私たちを優しく抱きしめる。


どうしようもなく、わんわんと声を上げた。


永遠に近い時間泣き続けた。


2人は咎めるでもなく、ただ慈愛に満ちた表情で、私の思いを受け止め続けてくれた。




涙に底が見え始めた頃、ヨシノがそっと囁くように話しかける。


「あなたは、もうたくさんの人を救ってきたのよ。あの子だって、ずっと守ってきてくれたじゃない」


「・・・ズズッ・・・いや、私は・・・誰も救えていない・・・。お前たちでさえ・・・、助けられなかった・・・」


「・・・いいえ、ずっと守ってきたわ。あなたが助けるのは、これからの未来よ。あなたはもう託されてきたんでしょう?」


「・・・でも、それじゃあ」


「私たちは未来を創り、そしてそれを守り続ける。そうじゃなかった?」


「・・・・・・!」


そうだ


そうだった


思い出した


私が太陽の樹を目指した目的


貧しい生活を強いられているレジスタンスのコロニーで唯一、第二世代フルサイボーグ手術に成功した私は、太陽の街を訪ね、陽だまり石を手に入れるために、ここを目指していた。


その時託されたのだ。

私たちの未来を、希望の火を、紡いでくれ・・・と


見送る中には、私を訪ねてきた男もいた。


男は怒り狂い、叫んだ。


「なぜ復讐しない?! 地球人類は、お前の愛する妻と娘の仇ではなかったのか?!!」


あの資料を読んだ日の絶望を思い出す。


確かに揺らいだ。確かに壊れた。

私の復讐心は、全てを壊すことを望んでいた。

このコロニーを復讐の始まりとして、旅立つ選択肢はあった。


ただこのコロニーに来て分かった。

皆、今を必死に生きているのだ。

そこには怒りも恨みも悲しみも、そして逃れられない罪もあるだろう。


それでも彼らは信じていた。


いつかまた、幸せな未来が来ると。


また太陽の下で、笑って暮らせる日が来ると信じて。


希望を捨てなかった。


その懸命に生きる彼らの姿は、私の愛する人との約束と重なった。


ヨシノが子を授かった時


この子のためにも、幸せな未来を創ろう、守っていこう


あの日交わした約束は、今も私の心を動かしていた。





「おとうさん」


「・・・なんだ?」


「おとうさんはね、私のために、たくさん頑張ってくれたんだよね」


「・・・ああ」


「でもね、私はもう大丈夫!」


「・・・?」


「今度は、みんなを助けてあげて!」


「助けてって・・・ここからどうやって」

「お~~い、ロバートー」


?!

突然、光の彼方からの声が現れた。

そこには地球の未来を任せた、永遠の別れを告げたはずの友の姿があった。


「よう、久しぶり! 何光年ぶりか? いや、お前がまだ生きてるってことは、100年も経ってないってことか、ハハハ」


「あら、タク。お久しぶり」


「ヨシノさんも、相変わらずお綺麗で」


「もう、よしてくださいな」


「タク?! お前、なんでここに?!」


「なんでって。そりゃ、あの子たちに教えられてな。なーみんなー」


「「「「「「ハーイ!!!!!」」」」」」


私たちの周りは、いつの間にか子供たちで埋め尽くされていた。

皆10歳にも満たない幼い外見をしていたが、タクとは知り合いのようだった。


「ねね、先生! この人が探してたお友達?」


「ああそうさ、みんな、お手柄だったぞ~」


「ああ~いいな~」

「せんせー、僕もなでてー!」

「わたしもー!」


「おいおい、みんな押してくれるなよお~っと」


・・・・・・

タクは寄ってきた子供たちの頭をわしゃわしゃと撫でている。

この子たちは、一体・・・


「ああ、そうだ。君たち親子に、謝らなければいけないことがある」


タクは柔らかだった表情引き締め、姿勢を正し、頭を深々と下げた。


「許してもらおうなどとは思っていない。ただせめて、直接謝りたかった」


「タク・・・」


「俺は、俺たちは許されないことをした! 君たち親子の絆を、魂を穢してしまった。本当に、申し訳ない・・・!」


しばしの静寂が流れた。

どういう顔をしていいか分からない。


タクは、中央研の連中は、確かにおぞましい罪を犯した。


だがそのおかげで守られた命は、紡がれた未来は確かにあった。


私に彼を責める権利は無い。


後は2人がどうするかだが・・・


「タク、顔を上げて」


「・・・・・・っ」


「私たち、別にあなたを恨んではいないのよ?」


「・・・・・・でもっ・・・!」


「人類を救うため、お互いやるべきことをやった。あなたの届けてくれたた論文も、その結果でしょ? 願いだから、顔を上げてちょうだい」


「・・・・・・本当にすまないことをした」


顔を上げたタクの目は真っ赤に腫れあがっていた。


そうだ、お前が泣く必要はない。

ヨシノの言う通り、みな命を懸けて、この絶望に戦ったのだから。


「泣かないでよタクおじさん。論文のお手伝い、結構楽しかったよ? ね、みんな!」


「「「「「「ハーイ!!!!!」」」」」」


論文の手伝い?

ハルカが?

この子たちも?

どういうことだ・・・?


「なあ、タク。その論文っていうのは・・・」


「ん? ああ、永久機関についてだな。向こうので散々な目にあったが、なんとか形になったぜ」


「永久機関? なあ、ちょっと読ませてくれ」


「いいぜ、ほい」


タクから論文の冊子を受け取り、サッと目を通す。


今までの私たちでは考えられない理論の数々。


だがそれはどこも破綻しておらず、不可能とされた永久機関についての証明が延々と書き記されていた。

しかし証明は途中で終わっていた。


「なあタク、これ書き終わってないじゃないか」


「ああ、それは俺が死ぬまでに書いた文章だ。残りはそろそろあいつが持ってくるんだが・・・。おっ!」

「タクせんぱ~~い!」


再び光の彼方からの声が聞こえてきた。

子供たちに手を引かれているその男は、タクが面倒を見ていた後輩のデーラだった。


「あ~~やっと見つけた。探しましたよ~」


「あっはっは、すまないなデーラ。で、首尾は?」


「へへっ、完璧っすよ!」


デーラが得意げに冊子を掲げる。

タクに貰った証明の続きのようだ。


「おおっ、どれどれ・・・」


「ああ、タク、私にも読ませてくれ」


「あ、先輩の分もありますよ。はいっ」


「デーラ、私にも1つ頂けるかしら?」


「ハルカにもちょーだーい!」


「はいはい! お2人もどうぞ~」


デーラから残りの冊子を受け取る。

先ほどまで切れていた理論の道が再び切り開かれていく。


すごい・・・確かにこれなら・・・・・・


「すごいだろ? 超常現象じゃなく、俺たちの科学の力で掴み取ってきたんだ。これはまさに、プロメテウスの火と言っても、差し支えないんじゃないか?」


「それじゃあ、私たちはいつか破綻してしまうことにならないかしら?」


「そうならないための絶対零度循環システムっすよ!」


プロメテウスの火・・・ね・・・

2人が持ってきた、いや人類の英知が導いた第一種永久機関

これはきっと、人類の未来そのものなんだろうな


「ねーねーデーラせんせー、これどういうこと?」

「これ前に教えて貰った加速式じゃダメなの?」

「「「教えて教えて~!」」」


タクと一緒に来た子供たちが貰った論文への質問を投げかける。


こんない小さいのに・・・すごいな・・・

これなら人類の明日も、きっと明るい




「あっはっは、じゃあみんな! 物理のお勉強だ!」


「「「「「は~~~い!!!」」」」」


はしゃぐハルカと子供たちに微笑むヨシノを見ていると、聞きたいことがあったことをふと思い出した。


「なあ、ヨシノ」


「なあに? あなた」


「ちょっと前に言ってた、あの子って・・・」


「あら、私の可愛い妹の孫娘よ? ずっと・・・そばで守ってくれていたんでしょう?」


「・・・・・・!」


一目見て生き写しだと思っていた顔と優しい雪のような白い髪


ヨシノが見せたことがあった4人家族の写真


両親と微笑むヨシノ


そしてもう1人


髪を短く切り、ヨシノと瓜二つの顔の少女が映っていた


「おてんばな子でしょ? 妹も随分とやんちゃしてたから、性格も遺伝ってするのね~」


「ヨシノ・・・それって・・・・・・まさ--」


真っ白な世界が霞み、私の声はかき消された。


『あの子をお願いね、あなた』


ヨシノ・・・!


『そっちのハルカちゃんにもよろしくね~!!』


ハルカ・・・!!!






世界が光に包まれる



光は1つにまとまり始め、暗黒の世界が光を覆う



蝕む闇の中、光は大きく揺らめき始める



光は1つの火となり、私の右の手の平に舞い降りた



温かい



小さな火を握りしめ、胸元に寄せる



溢れんばかりの太陽の光が世界を包み込んだ


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ