目覚め
白と黒が入り混じる空間
混沌の中に一つ、温かい火が灯る。
あなた
起きて
あなたはみんなを救って
あの子も待ってるから
さあ
行きましょう
「なあ、お前さん」
!?
ボスの声により現実に引き戻される。
「お前さん、大丈夫かい? うんともすんとも返事しないからさ、壊れちまったのかと思ったよ」
「・・・あ、ああ。問題ない」
なんだった、今のは・・・
自前の外部メモリーと混ざったのか?
「あんた、第二世代サイボーグなんだって? 初めて見たよ。第二世代は欠陥が多いそうじゃないか。今おかしくなっちゃ、この子が悲しむよ」
「おじさん、大丈夫・・・?」
ハルカとマココがこちらまできており、不安げに顔を伺っていた。
サムは厨房に戻っているらしく、パーティーの席に姿は無かった。
「いや、頑張って復元しようとしていただけさ。ボス、これもダメみたいだ」
「なんだい、残念だったねえ」
外部メモリーを外される前にもう一度再生しようとしたが、さっきまであった音声データのファイルが消えている。この外部メモリーのデータは1つだけのため、どこか別のフォルダを見ている可能性はない。
さっきの空間は? しかもあの声・・・
思い出そうにも、霞がかかっているかのように何も分からない。
「ありがとうよ、お前さん。これで依頼は完了さね」
「い、いや、力になれず、申し訳ない」
「さあて、あたしも飯にありつこうとするかね。サム!」
「ちゃーんと用意してるぜ、ボス!」
扉の奥からサムが顔を出し、ボスはパーティーの席へ歩いていった。
「じゃあおじさん、また後でね!」
「ああ・・・」
変な目覚めだ
第二世代特有の症状なのだろうか
だがあの声は・・・
「「い〜ざや〜〜た〜のし〜きま~~~ど~いっ!せっ!ん~~~~!!」」
「「あっはっはっはっはっはっは!!」」
まったく、サムと意気投合して・・・
ボス、マココ。上手いとこで止めてくれよ
楽しいパーティーは終わりを告げ、ハルカは毛布に包まり、満足そうな顔で部屋の隅に転がっていた。
ゆっくり横になれるのも久しぶりだろう。
運転をサムに任せ、ボスとマココはハルカの機体の整備をしていた。
「へ~ハルカちゃんがこれを1人で・・・。すごい才能だ」
「にしても、これで太陽の街を・・・ふふっ、まだまだ子供だねえ。親は苦労してるだろうねえ。なあお前さん」
「・・・そうだな。少々元気が過ぎるところがあるな」
「あっはっはっはっは!そうかい、お前さんも大変だろうねえ、あっはっはっはっはっ--」
俺は今、番犬を倒す作戦を練っていた。
ハルカを前線に立たせたくはない。
だがこの作戦では、どうやってもハルカを番犬に近づけさせてしまう。
安全に倒すなら、もっと人手が欲しい。
できれば、あと3人・・・
傍に並ぶ3機の強化外装に目をやる。
1機はレールガンを搭載した大型
1機は平凡な外見の汎用型
1機は細いシルエットの高機動型
あの機体なら、あるいは・・・
「なあボス、マココ」
「なんだ?」
「どうしたんだい?」
「あんたたちに提案がある」
~~~~~~~~
私は夢を見ていた。
怖い夢だった。
おじさんがいて
おじさんはたくさん悲しんで
みんなを殺して
キャラバンのみんなも殺して
私がいて
太陽の街に入って
そして・・・
私は冷たくなっちゃって
みんな真っ暗になっちゃった
また夢を見た。
キャラバンのみんなと出会って
さっきみたいにいっぱい御馳走してもらって
それで・・・
私は独りになっちゃった
独りは嫌だから
私はまた冷たくなっちゃった
そしてまた夢を
「いいぜ! やってやろうじゃねーか!!」
「・・・。~~~」
サムの大声で目が覚めめてしまった。
寝ぼけ眼で声の方を見ると、おじさんのところで3人が何かを話し合っていた。
「確かにメリットはあるが、しかしなあ・・・」
「やられっぱなしは性に合わねえ! おいマココ。まさかお前、ビビってんじゃねえだろうな~?」
「・・・っ、お前なあ--」
「・・・・・・・・・」
サムとマココは意見が分かれ、ボスは険しい顔で沈黙を保っている。
俺の提案はシンプル。
番犬を倒す手伝いをしてくれというだけ。
サムは《《貴重な商品》》をやられた、と言っていた。
交易とも言っていたから、何かしら貴重品があるはずだが、この列車に後続車両は無く、ここも見渡す限り整備の道具ばかりだ。
つまり番犬の警戒範囲の中に、その商品とやらを置いてきたのではないか。
だが問題なのは、商品と自分たちの安全、どちらを取るかだった。
番犬を撃破できれば商品を回収でき、交易を再開できる。
番犬を撃破しなければ、商品は失うものの命は保証される。
最終判断はボスに委ねられた。
こればかりは賭けるしかない。
「ん~~、おじさん~?」
「ああっ、やっべ・・・」
「すまない、起こしてしまったか」
ハルカを起こしてしまった。
起きたばかりなのか、まだ目がトロンとしている。
ボスが固く組んだ腕を解き、あくびをしているハルカの前に屈む。
「ねえ、ハルカちゃん」
「ァ~~~。~なあに、ボス?」
「お前さんは、どうしたいんだい?」
「・・・? 街に、行きた」
「何をしに、街に行くんだい?」
ボスの目は品定めをするかのように、私の目をじっと見つめている。
ボスの優しく、でも厳しい言葉に、私は完全に目覚めた。
「あったかい、ご飯を食べに・・・」
「そうさね、みんな食べたいさ。でも、ここでさっき食べちまっただろう?陽だまりの塔のエネルギーが余っているコロニーにいけば、いつでもあったかいものが食える。だから別に、街を目指す必要は、無いんじゃないのかい?」
「・・・・・・・」
「ハルカちゃん。あたしはね、ハルカちゃんの未来が知りたいのさ」
「未・・・来?」
「そう。あたしはね、このキャラバンを通してね、世界中を繋ぎたいのさ。そして、また昔みたいに、みんなが手を取り合って、助け合う世界を取り戻したい。それが、あたしが目指す未来」
「初めて聞いたぞ?」
「バカ、拾われたときに聞かされなかったのか」
「おだまり!」
「「はいっ!」」
「ハルカちゃん、もう一度聞くよ?」
「お前さんは、どうしたいんだい?」
私の夢
毎日あったかい水で体を洗って、あったかいご飯を食べて、寝る前に強化外装の図録を読んで、あったかい布団で1日を・・・
ううん、違う
ボスは、この先のことを聞いてるんだ
私の、夢の始まり・・・
『じゃあ私、またみんながいっぱい食べれるように頑張る!』
そうだ
いつの間にか、私だけのものになってた
だけど、そっか
私、みんなのこと、大好きだから
「ボス!」
「なんだい?」
「私、みんなをお腹いっぱいにして、みんなを幸せにしたい!」
「ほう・・・?」
「私、この旅で、独りは寂しいって。この旅で、初めて独りぼっちでご飯を食べて、分かったの。さっき、みんなで一緒に食べて分かったの! 今まで自分の夢だけ叶えばいいと思ってた。私だけ幸せになれば、それでいいと思ってた。でも、それじゃ全然ダメ!」
「・・・」
「みんなでお腹いっぱいにならなきゃダメなんだ!! みんなが幸せにならなきゃダメなんだ!!!」
「・・・」
「おじさん!」
「な、なんだ?」
「あの陽だまりの塔なら、太陽の樹なら、できるんだよね。みんなを助けるために、方舟も旅立ったんだよね!」
ハルカの覚悟に、俺たちは圧倒されていた。
俺を見つめるその目は、出会った日に見た憧れの眼差しや、助けを求める怯えた目などではなかった。
まっすぐと、未来を見る目。
その目の内には、火が、燃え盛る炎が見えた。
決して子供がしていい目ではない。
もっと段階を踏み
多くを経験をし
己の魂と向き合い
残りの人生をかけて
やっと到達できる決断
それを、たった
この世界に産声をあげてからたったの14年しか過ぎていない
1人の少女が決めたのだ。
否定することなどできない。
あの日、方舟の旅立ちの日
あいつらの目と同じ
あいつらが宿した火と同じ
未来のために、全てを捨てる覚悟をした目
そして俺が
私がかつて宿し
消えてしまった火
いや、消してしまった火
木はどんなに朽ちても、全てが火を宿している。
土に還らぬかぎり、火は起こせる。
火が傍にあれば、自然と燃え移る。
ありがとうハルカ
私の火は、まだ消えていなかったようだ。
「そうかい・・・」
ボスの顔は見えない。
だが・・・
「お前さん、もちろん作戦は、あるんだろうね?」
俺の顔に豪快な笑みを向ける。
彼女の奥にもまた、火が着いたようだ。
「ああ、とびきり安全なやつがな」




