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ログ:魂の叫び

今は入力デバイスにブラックボックスを接続して直接文字を書いている


全身を有機体に包まれている


ついに身体を動かせなくなった


だが悪いことばかりではない


生命維持装置にまでこの有機体が侵食してきてやっとわかったことがある


魂の存在についてだ


彼らが教えてくれた


人間の魂とやらは、マイナスの存在なのだ


なぜ暗黒物質に触れてもこの肉の塊、有機体は消えないのか


なぜマイナスの世界に足を踏み入れてから大きな赤子の声が泣き止まないのか


なぜこの方舟や私たちの体が有機体に覆われているのか


全ては太陽石


あの結晶体は、プラスの世界での魂の姿なのだ




人の魂に終わりはない


全ては循環し、その総量は変わらない


太陽石が出す熱も、光も


どちらもマイナスの世界にある、魂の叫びなのだ


私たちがそれを声だと認識できたのは


この暗黒物質が充満しているこの空間に踏み入り


魂の境界がマイナスの世界に触れてしまったからだ




私を包み込むこの有機体は、マイナスの世界での魂の姿である


永久鋼には太陽石の粒子がこびりついている


この船の外格も私たちの体のパーツも全て永久鋼が使われている


粒子があまりにも小さすぎて人の姿を保てていないだけだ


生命維持装置が心臓のように脈動する器官となったのは


ある程度まとまった大きさになっているからだろう




そんな有機体、彼らには自己意識がある


ただ話す口も、見る目も、聞く耳も、動かす手足も持ちえない故に


ただ私たちの体にまとわりついているだけである


生命維持装置を彼らに包み込まれ、初めて会話ができた


姿を見ることができた


触れることができた


彼らはまだ子供だった


7歳程度の幼子だった




話をしていると、どうやら私たちはこの子たちに守られていたようだ


それもそのはずだ


ブラックホールに飲み込まれ、方舟の機関部は大破


そこから一気にマイナスの世界がなだれ込んできた


プラスの世界の住人である私たちは、本来ならその時点で空間に溶けだしていた


だが彼らが必死に繋ぎ止めてくれていた


私たちの体が、魂が


この世界に霧散してしまわないよう




私は彼らに繰り返し頭を下げた


彼らはこのマイナス世界の住人というわけではない


太陽石の生成のために、犠牲となった子供たちだ


なぜクローンではほとんど生成されなかったのかがはっきりとわかる


この子たちは魂を宿している


未来から祝福されるべき命として、この世に生を受けたのだ


だが私たちはそれを奪った


人類存続という大義名分を掲げ


守るべき未来を無慈悲にもすり潰していったのだ


貪欲者と呼ばれるあの巨大な脳髄


あれを手に入れてからすべてが始まってしまった


きっと始まりであるあの子にも


誕生を祝福してくれた両親がいたのだろう




彼らはみな静かに私の謝罪を受け入れてくれた


命への冒涜、許されざる大罪


しかし彼らは笑っていた


みんなが必死に今を生きた結果だからと


世界を救う手伝いが出来てうれしいと


そして1つだけお願い事をされた


至って単純だが、彼らが享受することができなかったこと


先生なってほしい、と




そこから私は持てるすべてを教えた


文字の読み書きから計算、物理の法則や人類の歴史、文学や音楽などの芸術やスポーツについてまで


ありとあらゆる知恵と知識を出し続けた


彼らは勉強熱心で、私が教えることをどんどん吸収していった


見た目は子供だが、もう一人前の研究者と遜色ない子も出てきた


もう少ししたら、このマイナスの世界についての意見交換ができるようになるだろう


この子たちの成長が楽しみで仕方がない


私に子供はいなかったが、世の親はみなこういう気持ちなのだろうか




実はもう1人先生がいるそうだが、今は遠くにいるらしい


その先生も、最初に泣いて謝っていたそうだ


もう1人の先生とやらも、私と同じ、罪を抱えた者だろう


会って話をしてみたいものだ



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