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極低温原子凍結エネルギー発射装置

少女と出会って丸一日が経過した。


彼女との会話はというと「ちょっと眠たいから休憩させて」だの、「ご飯食べるからちょっと速度落として」だの、通信での事務連絡程度しかしていない。

別に構わないのだが、気まずくはないのだろうか。


・・・もしや警戒されているのか?

なにしろ出会ってから数分で街に連れていくことになったからな、無理はないか。

しかし共に行動するというのに、これでは彼女もおちおち寝られないだろう。


「・・・なあ」


「ひゃあっ、な、なに? おじさん」


「・・・驚かせてすまない。なあ、・・・まえ・・・」


「え?」


「おまえ、名はなんていうんだ」






よ、よかった。

こちらからお願いをしていて失礼なことだが、怪しい人ではなかったみたいだ。

ただ教えてくれた名前で呼ばれることは嫌がっていた。

「ロバートおじさん」は別に変な感じはしないのだが、結局「おじさん」呼びに落ち着いた。


変わった人だな、と思うところはあるものの、ひとまず気まずい雰囲気は脱すること

はできた。

そういえばおじさんも街に用事があると言っていた。

私と同じ志を持っているのなら、何をしたいか聞いてみよう。

とりあえず、私は温かいご飯とやらにありついてみたい。


「ねえ、おじさん。おじさんはなんで街に向かってるの?」


「・・・答える必要はない」


「え〜なんで〜? おじさん軍の人でもないのに、教えないって。もしかして、中央研究所の人?」


「・・・ああそうだ」


「そうだったの! じゃあの街に居たことあるんでしょう? 教えてよ〜どんなところなの?」







太陽の街

地球に残された最後の楽園とされ、今でも旧時代と変わらない営みがあるという。

だが俺のあの街への印象は最悪だった。


中央研に居た頃は街も完成間近だったため、世界中の名だたる富豪や為政者による居住区をめぐる争いが後を絶たなかった。

方舟の乗組員は、みな外宇宙での何光年にもおよぶ研究と生存可能な能力を有する、エリートの中でも選りすぐりの人間が選ばれていた。


しかし地球で命を繋ぐために残された人間が、権威と財力で殴り合うことしか能がない、何も生み出すことができない凡人だけとは、防衛軍と中央研のトップは何を考えていたんだ?

あの街の文句を書き連ねると、人を殴れるくらい分厚い論文ができそうだった。


「あまりいい場所ではないな。みな金と権力にしか興味がない人間ばかりだ」


「え〜なんかそれヤダな〜」


「なんだ、行く気が失せたか?」


「ううん、全然! 偉い人ばっかりってことは、美味しい料理しかないってことでしょ? どんな料理があるのかなぁ。やっぱり2号成形食もひと味違うのかなぁ〜。もしかして3号もおいしかったりするのかな~?」


食事にはかなりこだわりがあるようだ。



たしかに各地の陽だまりの塔はコロニーでの生活に必要なエネルギーを発生させている。

ただ、そのエネルギーは料理を温めることに使われる事はない。

ほとんどが食料の生産と空調機能に使われ、特に空調機能は絶対に停止が許されない。


冷凍時代が始まり早半世紀

地球の平均気温はマイナス80℃、この地域はマイナス120℃まで下がる極寒の地であり、コロニーの外に出るためには防護服スーツが必須となる。

そんな状況で空調機能が止まってしまっては最後、それはコロニーの死を意味する。食事を温める余裕は、陽だまりの塔にはない。


「おいおい金持ちが成形食を食べるわけな」


大型熱源 確認








おじさんは突然会話を打ち切った。

どうしたの?と声をかける間もなかった。


「ハルカ、敵影だ。一度停止する」


「て、敵?! わかった」


ブーストの出力を落とし、減速する。

敵、敵って、私たちを襲うやつ?

初めて耳にする言葉に戸惑いを隠せない。


「敵って、戦うの?」


「分からない、できれば戦闘は避けたいが・・・」

「ハルカ、ここで待っていろ。片付けてくる」


「片付けるって、おじさん大丈夫なの?」


「こちとら軍用だ。そう簡単にはやられん。行ってくる」


「ま、待って! おじさん!」


私は反射的におじさんの右手をつかんでいた。

あと一歩遅ければ、おじさんは吹雪の中に消えていっただろう。


「独りは・・・怖いよ・・・」


どう見ても異常だった。

おじさんからすれば、私はついでに連れて行ってもらっているお荷物に過ぎない。

しかも我が子ではなく、つい昨日知り合ったばかりの、どこの馬の骨とも知らない子供だ。そんなやつがいきなり縋りついてきたのだ。

手を振り払われても仕方のない状況だ。

でも私はおじさんの手を離さなかった。

また独りぼっちになりたくなかったから。


おじさんに会うまで、コロニーを出てからずっと1人だった。旅立ちの時も、食事の時も、寝る時も、ずっと1人でやってきたのだ。今更怖いことなどないはずだった。


そのはずだった。

コロニーの外での孤独は死を意味する。

齢14の少女が生まれて初めて直面する絶対的な恐怖。

それと再び相対する力は、私には残されていなかった。






「・・・分かった、一緒にいるよ」


「えぇ、いいの?」


通信は涙ぐんだ声で満ちていた。


もう独りにはさせない。


おれはこの子に、ハルカに何かを見いだしていた。


昨日出会ったばかりであり、お互いのことは全く知らず、碌に会話を交わしていない。

にも関わらず、その決意は確固たるものになっていた。


「敵は正面から来ている。俺の後ろに」


「う、うん。でもおじさん、大丈夫?」


「まあ、何とかなるさ」



武装は幸いにも両手、両肩のすべてが使用可能。

特に左手のゼロ・ブレイカーが使えるのは大きい。


極低温原子凍結エネルギー発射装置

通称“ゼロ・ブレイカー”

中央研が開発していた、あらゆる兵器に対する回答

-273℃に限りなく近いブラックホールを模したプラズマ球を射出、接触した対象を構成するすべての原子の動きを完全に静止させ、崩壊させる。



破壊対象 大型熱源

コード レッド

戦闘モードへ移行します



やつも広域レーダーを搭載しているとなると防衛軍のものか。

こちらを捕捉してすぐに接近、しかも単機だとすると自律型。おおよそ、民間に横流しされたやつだろう。

やつの射程範囲に入る前に仕留める。



破壊対象がスキャン範囲に入りました

対象 防衛軍所属 型式DF-03-A


対戦車用のカスタム機か。

問題ない。


ゼロ・ブレイカーに空気すらも凍り付く青白い光が集まる。


対象 ロックオン


発射ファイア






「ハルカ、終わったよ」


「え? もう?」


私はついさっきおじさんの後ろに隠れたばかりであり、白い光が見えたかと思いきや、緊張する間もなく戦闘終了を告げられた。

眼前は駄々をこねた時と変わらない、暗闇と吹雪しか映っていない。

なにがなんだかさっぱり分からない。


「敵、やっつけたの?」


「ああ、もうカチコチさ。今頃風にあおられて、吹雪の一部になってるはずだ」


「そ、そうなんだ・・・」


「さあ、先へ進もう」


「う、うん・・・」


私は少し怖くなってきた。

争いは、たくさんの人が死に、たくさんの人が悲しむ恐ろしいことだと教わった。

だが今この人は焦ることなく、一瞬で戦闘を終わらせた。

敵、つまり人が乗っていたということ。

それを躊躇なく・・・命を奪ったということ。

そんな人に、私はついていってしまっているのだ。

とても安心できる一方で、とても恐ろしい。


しかし命の恩人であることに変わりはない。

私一人では絶対に太刀打ちできないからだ。


「おじさん・・・」


「ん? なんだ?」


「えっと、助けてくれて、あり・・・がとう・・・」


「なに、お安い御用さ」


この人は一体、塔に行って、何をしようというのだろうか。

もしや塔に行く目的を答えられないのは、そういう理由があるからなのだろうか。

おじさんに対する不信感はあるものの、私はただ、ついていくことしかできなかった。






再出発からしばらくして、ハルカの方から話しかけてきた。

先の戦闘は一瞬だったとはいえ、まだ小さい子供に戦場の雰囲気を味あわせてしまった。元気をなくしていないようでなによりだ。


「ねえ・・・おじさん」


「なんだ?」


前言撤回だ。

かなり落ち込んでいるのがわかる。

やはり何も言わずに飛び出しておくべきだった。


「さっきの戦いって・・・人・・・だったの?」


・・・?

なるほどそういうことか。

たしかに、ハルカからすれば、俺は子供の前で人を殺めた罪人だ。

弁明しておかなければ、怯えさせてしまう。


「いや、さっきのは無人機だった。人が搭乗している強化外装がこんなところに出るはずないさ。多分民間の手にわたって管理をほったらかした結果、ああやって襲ってきたんだろう」


「そ、そうだったんだ。よかった・・・」


「宇宙開発時代にもたびたびそういう事件があってだな、気に病む必要はないさ」


襲ってきた相手の命の心配をするだなんて、このご時世珍しい子だな。

いや、こんな時代だからこそ、他人を思いやることができる人が必要、か・・・。



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