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ログ:無題

このログを残す時間が全く取れなかった


あまりに多くのことが起きてしまい、まだ混乱している


ストレスからか赤子の声のような幻聴も聞こえる


ちゃんと時系列順に書き残すよう努める




ワームホールの移動先の状況は常に正確なシミュレートができていた


この銀河に有益な星は無く、隣の銀河に渡ろうとしていた


だが移動先の銀河が丸ごとブラックホールになっていることは想定外だった


ワームホールを通過直後に方舟は巨大なブラックホールに引き寄せられた


死を覚悟した


地球を旅立つ前にもできていたが、何ひとつ地球を救う発見をできないまま

消えてしまう恐怖に心がすくんだ




空間がねじれる激しい衝撃を耐えると、方舟は無限の黒が広がる空間に出た


この空間には何かが満ちているらしく、宇宙であるのに深海に潜っているような感覚だった


ブラックホールの重力でも方舟はバラバラになっていなかった


30年かけて骨組みと外装を張り替えたことが功を奏した


あの時クラウス長官に歯向かわなくて良かった


ただバラバラになっていないとはいえ、第一機関部は大破、第二機関部もジェネレーターが動かない状態となっており、戻ることも進むこともできなくなっていた


総員で舟の状態を調べていると、方舟の外装と船内の一部に奇妙な有機体の発生を確認した


その有機体は一見すると生きている肉片に人間の皮膚を被せたかのようであり、ビクビクと蠢き、脈を打っていた


この時は俺も遂にエイリアンに襲われたと思った


実際、その有機体は機関部に降りた隔壁の隙間からゆっくりと湧き出てきたからだ


急ぎ第一機関部を切り離したが、その切り離した途端有機体に覆われ、また染み出すように方舟内部に侵入してきた


僅かに配備された銃火器で侵食を食い止めようとしたが、潰れたところから再生を始め、抵抗はまったくの無意味だと分かった




その後、事態は最悪の展開となった


第二機関部へ足を踏み入れたマリス艦長の全身を、有機体が侵食していた


第二機関部に外的損傷は確認されなかったものの、部屋全体が有機体に侵食されていたそうだ


引き戻したクラウス長官の右腕にも有機体が侵食していたが、切り離すことで事なきを得た


ただマリス艦長は生命維持装置はおろかブラックボックスの一部にまで侵食が進んでおり、手の施しようがなかった


そんな状態で、マリス艦長は俺たちに命令を与えた


「私の体の全てを使い、この現象を解明せよ」




俺たちは有機体の解明に尽力した


細心の注意を払い、カッターと有機体に触れ合う



機関部の切り離した直後に始まる侵食


第二機関部は外の空間と繋がっており、その部屋に入るだけで侵食


永久鋼製である方舟の外装と俺たちの外骨格


ここから導き出される仮説は、

「この空間を満たしている謎の黒い物質に永久鋼が干渉または暴露することで有機体げ発生する」

というものだ


なんとも奇妙だが、俺たちにとっては天敵となる性質だ


方舟には宇宙服と呼べるものは無い


フルサイボーグである俺たちは宇宙服無しで活動ができるからだ


そんな俺たちにできることは、侵食範囲からできる限りの距離をとることだけだった




ブラックボックスまで侵食され、ただの肉塊となったマリス艦長の体に刃を入れる


胸部を切り開き最初に目にしたのは、この機械の体になる時に捨てたはずの心臓だった


本来であれば太陽石を使った光放つ生命維持装置があるはずなのだが、まるで最初からそこにあったかのように、心臓らしき器官は規則正しく脈動していた


ただ切りつけても血液や組織液が溢れるわけでもなく、ただただ有機体がぱっくりと割れるだけだった


俺たちはマリス艦長の蠢く亡骸をシーツに包み、彼女の部屋に運び込んだ




事態は終息したかに見えた


しばらくして今度はクラウス長官に侵食の症状が現れた


腕を切り離してもあの時には既に手遅れだったようだ


長官には幻聴の症状が出ており、しきりに「子供たちの声がする」と伝えていた


この幻聴はラスカーにも聞こえ始めているらしく、俺たちも知らず知らずのうちにこの有機体に侵食しているようだった


確かにこの舟の外装は既に有機体に覆われている


隙間から微小な有機体が降り注いでいても不思議ではなかった




半身が肉塊と化したクラウス長官から論文の草稿を受け取った


内容は謎の有機体と、この空間についてだった


「プラスの世界とマイナスの世界」


「魂の姿」


絶対的零アブソリュート・ゼロの証明」


突拍子もない仮説と飛躍した論理の数々


ブラックボックスまで侵食が進んでいるのだろうか


だが侵食して見える世界があるとするなら


我々には観測できないだけで、彼には見えている法則があるのなら


信じるしかなかった


これが地球を救う技術になると


有機体に包まれながらも、長官は穏やかに笑っていた




残されたのは俺とラスカー、デーラの3人


この草稿を2人に共有し、まずはこの空間の観測と有機体の解明を急ぐことにした


俺たちもいずれ肉に包まれる


動けなくなる前に


考えられなくなる前に


1つでも多くを証明する




人類を救うために、俺たちはここまで来たんだ




我々の魂に導きの火があらんことを




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