自由という風とともに
春の訪れとともに、王都は新しい季節を迎えた。
蒼銀商会の本店では、リセルが開発した新しい魔道具の発表会が開かれていた。
その名は「風写」――風の流れを記録し、気候や環境の変化を可視化する装置だ。
「これは農業だけでなく、災害の予兆を察知するための道具でもあります。魔法を、人間の命を守るために使う――それが、私たちの理念です」
リセルの堂々とした声に、会場の人々は大きな拍手で応えた。
誰も、彼女が“子を持たない女”であることを非難しなかった。
いや――その生き方こそが、多くの人に希望と信念を与えていた。
◇ ◇ ◇
その夜、丘の上にある自宅のテラスで、リセルはアレクと並んで夜空を眺めていた。
アレクがぽつりと口を開いた。
「この家、静かだな。子どもの声がしたら、きっと賑やかなんだろうな」
リセルは笑った。
「そんな日もあるかもしれないと思ったこともあったよ。でもね、今はこの静けさが好き。私たちの時間が、私たちのものだって感じられるから」
「そうだな。自分たちの生き方を、自分たちで決めたんだからな」
リセルは、グラスを手にとって夜風にかざした。
「この風、自由だよね。誰のものでもなくて、でも誰かの頬を撫でていく。私も、そんなふうに生きたい」
アレクはうなずいた。
「君はもう、そう生きてる。俺も……君の風に背中を押されたんだ」
◇ ◇ ◇
その後も蒼銀商会は、軍の管理下に置かれることなく、独立した技術機関として王国に貢献し続けた。
リセルとアレクは子を持たなかったが、彼らのもとで働く技術者たち、生まれた魔道具たち、そして救われた市民たちが、彼らの“家族”のように生き続けた。
誰かと同じ人生を歩まなくても、誰かを育てなくても、
自分の意思で選んだ道が、世界をほんの少しでも良くするなら、それは確かに“生きた証”になる。
リセルは、風に向かってそっと目を閉じた。
「ありがとう、私の人生。
子を持たない私にも、風は吹いてくれる」
そして、微笑んだ。
「私は、自由という風とともに、生きていく」
――蒼銀の風は、今日もまた、自由に舞う。
その背には、リセルとアレクが刻んだ未来が、静かに、そして確かに乗っていた。
完
拙い文章ですが最後までお読みいただき、ありがとうございました。
強い女性を描きたくてこの小説を書いてみました。
文章を書くって難しいですね。