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06話

 ワイルドハント部隊に与えられた格納庫で機体を休める8脚の多脚装甲支援機体、ストライドユニットAT-SLRでは大型機ではあるが、それほど大きくない内部でラヴァリー、マッツ、第1小隊の5名が戦術ミーティングをしていた。


彼等はそれぞれの肩がぶつかる程に密集して、静かに佇んでいる。


「そろそろ拠点が欲しいところだな。現在、防諜がしっかりしている所はこの中しかないからな。狭くても我慢するしかないが……」


ロマンスグレーの髪を垂れ下げてマッツが苦い顔をしていた。


「先に潜入させている者から、もう少し時間が欲しいと連絡を受けています。もう少々お待ちください」


メイド姿のシーケイがそう言うと申し訳無さそうにしている。


ラヴァリーが空間に戦術マップを表示させた。


「では、良いかな諸君。始めるぞ」


レーザーポインターが内蔵された指示棒を伸ばし、ラヴァリーはムチのようにしならせて己の手のひらを叩き音を出す。そうして、ブリーフィングの開始を宣言すると各自の顔つきが厳しくなった。


「防衛隊とのトラブルの後、司令官に呼び出されて、倒した防衛隊の代わりにある前線を担当しろと言われた。補給の話をしている時に割って入ってきたフォーヴェル隊長とか言う防衛隊の男だ。そのことが問題となった。奴らが言うには精鋭が怪我をして数日間、任務を行えない。その穴埋めをしろと命令してきた」


ラヴァリーは密談をするかのように小さな声で言う。


「あれで精鋭だと。手加減したと言うのに、綺麗に意識を刈ってやったのだ。後遺症が残るはずもないというのにと、適当に文句をくれて任務を断ってやった」


一呼吸置いてから勇ましく語りだした。


「だが、それは我々の作戦のために煽ったのだ。戦線を突破して援軍に来たというのに。補助戦力として戦線の端での任務が与えられて、我らは燻っていたからだ。司令官の連中を煽り散らかした結果、前線、シエラ戦区に配置されることになった。これを利用し、陽動がてら派手なことをして、相手の動きを見てみようと思う」


不敵な笑みでラヴァリーは語りを続けながら、レーザーポインターの光を弄び始め天井で円を描き遊ばせていた。


「それにしても司令部の連中が激怒してくれて、大変に楽しかった。皆に見せてやりたかった」


ラヴァリーは嬉しそうに仲間に語る。


「狂犬がガブリと噛みついて、本領を発揮したと言うことか」


マッツは呆れ顔をして呟いた。


「うむ。目論見通りだ。前線での任務が与えられた。これが命令書時だ。時代錯誤と言うか。見てくれ……司令官の直筆の命令書だ。内心は激怒していたと言うのに実に落ち着いて書かれておられた。実に有り難いことだ」


ラヴァリーは命令書をひらひらと片手で軽く揺らし、最後には丸めてゴミ箱に投げつけた。


投げられた命令書は、ゆるい放物線を描き、吸い込まれるようにゴミ箱に入っていった。


「激怒していたというのに大変に綺麗な字で書かれている。お貴族様は大変優雅でいらっしゃる」


ラヴァリーはゴミが入ったのをじっくりと見届けると、ラヴァリは指を鳴らして部隊全員を注目させた。


「これより死地に入る。敵はこの状況を利用して私を誅殺しようとするだろう。そこで諸君らに問う。我々はどうするべきか?」


ラヴァリーは皆に問いかける。


現在、ラヴァリーの指揮下にいる第1小隊はラヴァリーの護衛についている。その5名は金髪や銀髪の少女たちである。大人びた雰囲気であるが高校生辺りの年代である。


第1小隊はラヴァリーの親衛隊として付き従っている。


彼らはラヴァリーと同じような丈の短いタクティカルジャケットとラバー製に近い素材でできたパイロットスーツを着ていた。


「強化兵にそんな曖昧な問いかけをするな、お嬢」


マッツが小難しそうな顔をして、ラヴァリーの問いかけに文句をつけた。


「どれを撃破すればいい?」


5名のうちの隊長格をしている金髪ショートのアルヴァが橙色の瞳をラヴァリーに向けて応えた。


「我々の眼前に出てくる敵の全てだ」


「了解した」


アルヴァの応えに満足そうな表情を浮かべるとラヴァリーは戦域全体のマップを表示に変える。


「そもそも我々は援軍に来た。都市の者たちは見捨てられていないと、その事を示すのだ。前線の兵に我ら援軍の姿を見せ、敵を屠り戦果をあげるのだ。辺境討伐部隊の存在意義を見せてやれ」


ラヴァリーは自分に言い聞かせるように檄を飛ばす。


「それに我々が派手に戦うことで注目を引き付ければ、裏で調査がやりやすくなるものだ、本来の目的を果たすために……コードに関して別働隊が調査を進める。頼むぞマッツ、シーケイ」


名を呼ばれた二人は小さく頷く。


ラヴァリーは頷きを確認して微笑んだ。


ラヴァリーの視線をメイドが受けると小さくウィンクをしてアピールをした。


「わかっていますよー。きっちり証拠を掴んできます。朗報をお待ち下さい。ただ気をつけてくださいね。お嬢様にお怪我でもされたらと考えるだけで私はどうにかなりそうです」


「これでも、死地に行くんだがな……普通は心配していたら、死なないでとか言わないか?」


「えっ? お嬢様、死なないでしょ? 死ぬわけないし。玉の肌に傷を作るくらいでしょう? それはそれとして問題ですが、戦果報告を楽しみにしてますね」


マッツがこのやり取りを生暖かい目で見ていた。そして、耐えられなくなり口を開く。


「これまでの行いがな……コヤツ、心配すらしておらんぞ。俺は後方で砲撃データをお前たちに送りながら、コード情報を探す。シーケイ、潜入は頼んだぞ」


マッツがシーケイに視線を送り、シーケイはそれに答えてウィンクをする。


「オッケー! 任しといて。オジちゃん」


ラヴァリーは仲間の軽口に付き合い笑みを浮かべる。


「ンンッ!! 諸君、よろしいかな?」


ラヴァリーはわざとらしく咳をして注目を引いた。


「司令部に入った時に頼まれてた微小機械群を撒いてきた。撒くくだけで良かったんだよな?」


ラヴァリーはマッツに確認を取る。


「あぁ、すでにデータを回収している。そのために騒動を起こして司令部まで行って、小言を聞いてきたのだろう?」


マッツが意地の悪そうな顔をして自分の髭を弄りつつ、ラヴァリーに視線を送った。


「あれは……気に入らなかったからやったまでだ。深い意図はない」


「そういう事にしておこう」


目をつぶり頭を振ってマッツは自分を納得させる。


「それで戦域はここだ。頂戴したデータを追加してだ。モノの見事に激戦地に配置されているな」


マッツが腕の携帯端末を操作しながら戦域データに詳細を表示させた。


「ソフトターゲットは機械兵。金属製フレーム、樹脂製の外装に人類と似たような銃火器を使用する歩兵だ。侮ると対戦車火器で損傷を受ける。うまく盾でしのげよ」


滑らかな流線形のボディと、灰色の樹脂の外装に覆われた四肢を持つ、機械兵が表示される。


「次にハードターゲット。装甲車から戦車、自走砲、多脚戦車まで豊富に揃っている。塹壕をうまく使い射線を切り優先的に叩け。もしくは煙幕弾を使用しろ。機関銃なら耐えうるがセンサーをやられるから注意しろ。大口径砲に関しては光学検知し射線情報で予測して避けろ。人型の利点を最大限活用しろ。避けられなければフレームを破壊される覚悟しておけ」


戦車や装甲車が走る映像が流れ、分厚い装甲の情報が別窓で表示されていた。

しばらくすると映像は切り替わり、無骨なシルエットを持つ多脚戦車が表示され、不気味な動きで地面を這い回る映像が流れた。


「敵大砲群は最深部に布陣している。少数の機動兵器で先行する限りではそれほど脅威ではない。もっと効果の高い歩兵の陣列や大砲を狙うからな」


広大な平野を埋め尽くすかのような砲兵陣地が表示されている。堡塁と塹壕が築かれた、その奥に守られるように巨大な主砲を持つ自走砲や、牽引式の長距離砲が整然と並べられていた。


ホログラフィックにより立体的な戦場の俯瞰図が浮かび上がる。敵と味方の陣形が追加されて進路と戦闘区域が次々に浮かび上がる。予測される互いの進路や戦闘区域が矢印や目立つ赤や青色などが点滅し、戦術シュミレーション映像が簡易的に表示され、各種敵情報が小さく表示されていた。


ラヴァリーは腰に手を当て、胸を張って言い放つ。


「味方は通常歩兵、パワードスーツに各種車両、それに火砲だ。常に移動しながら戦え、味方の砲撃が飛んでくるぞ。可能なら隣の非貴族軍の防衛軍担当区になだれ込むことも頭に入れておけ。ここの軍の半分は貴族軍だが。実態として殆どが市民だ。純粋な貴族は少ない。腹が立っても誤射してよいのは貴族所属の紋章騎士だけだ。覚えておけ」


ラヴァリーは迷いのない視線を皆に送り注意を促す。


その言葉を聞いてマッツが頭を抱える。


「ジョークで誤射を使うな。そのへんの区別は強化兵には難しい」


「ジョークを訓練として情操教育をだな」


「本題に戻ろう、ラヴァリー」


「了解した」


ラヴァリーは少し残念そうに応えた。


天井から幾筋もの光線が降り注ぎ、淡い蒼光が室内に広がった。空中に立体映像がまばらな雨のように流れ出て、やがてはっきりとした人型兵器の輪郭を形作る。西洋鎧を感じさせる銀灰の装甲を身につけたフレームが現れる。映像はゆるやかに回転し、機体の全容を映し出す。


「ヴァリアブルフレームカスタム機体、フランベルジュグリーズ。我らの部隊を担当する八郎太主任の手で、最高の仕上がりを迎えている。まずは射撃主体の本機からだ」


ラヴァリーの声は低く引き締まり、場の空気を一層緊張させた。次に指先で空を払うと立体映像が拡大した。


アサルトライフルを携えた、シンプルな兵装の機体シルエットが浮かんだ。


「標準射撃機、主兵装は30mm&5.56mm複合アサルトライフル。腰部ラックに予備を積む。近接用にヒートソードを腕部に固定。盾は左側、標準中型シールドになる。肩部は選択式だが今回は右肩にグレネードキャノンを積め」


「アルヴァ、戦闘時は私の右側のポジションだ」


「……ンッ」


短く息を詰めるように応じたのはアルヴァ、陽を透かす麦わらのような髪を軽く撫でつけたミディアムショートの少女だった。橙色が差す瞳に揺れるのは、燃えるようなラヴァリーへの忠誠心が見えるようであった。


「ディースは左側だ」


呼ばれた銀糸の髪を持つ少女ディースは、長い髪を背に垂らし、無造作にジャケットのポケットへ片手を突っ込んだまま、小さく頷いた。瞳は同じ橙色ながら、揺らぎのない静かな光を宿している。


ラヴァリーはゆっくりと指を動かし、払うような動きさせた。


次に映し出されたのは火力支援機。手に持つミニガンが強調されている。背へ伸びる弾帯は大型の弾薬コンテナに繋がっていた。


「火力支援機。パティスだ。20mmミニガンで弾幕を張り、敵を掃討しろ。近接は腕部のブレードのみ。弾を使い尽くしたらミニガンと弾薬コンテナは捨てよい。機体を軽くして、仲間の予備武装を使え」


指示を受けた少女はパティスは長い黄金の髪を頬を撫でるように垂らして、後ろの髪はひとまとめにし、ルビーのような瞳で真っ直ぐラヴァリーを見つめ返した。


「次は対装甲機。ラーズ、ティール」


ラヴァリーの指の動きに合わせて映像は変わった。重厚だが小型寄りのシールドを抱えた機体へと変わった。


「射撃兵装は射撃機と同じ弾薬を使用する。ショートモデルのアサルトライフルだ」


誰もがラヴァリーの説明するアサルトライフルに注目してはいなかった。


皆、シールドを見ていた。映像は替わりシールドの内側に隠された杭が鋭くせり出した動きを見せた。


その時、皆に衝撃が走り視線は鉄杭に注ぎ込まれていた。


「試作装備ステイクシールド。火薬と電磁作動を組み合わせたハイブリッド型パイルバンカーをシールド内側に取り付けている。コレは中々の浪漫兵器だ。だが侮ってはいけない威力はある。利き腕と反対側に装備しろ、精度はいらないからな。力任せに叩きつけろ」


ラヴァリーは試作スティクシールドをあっさりとした説明で終える。


「近接主武器は二種類、赤銅の戦鎚とヒートバイブレーションソード。これはどちらも実績ある信頼性のある装備だ」


「じゃあ、私は戦鎚を使う」


肩に届くほどの長い髪を、ゆるやかな波のように垂らしたラーズが声を上げる。茶の瞳には無表情からは感じられない興奮混じりな少女の期待が見えるような気がした。


「私は普通のがいい」


もう一人は冷静に無表情に答える。整えられた銀髪が少女の首筋を滑り、青い瞳は澄んだ湖面のように落ち着いていた。ティールは迷わずソードを選んだ。


「ラヴァリーのは?」


マッツがラヴァリーに問いかける。


「似たようなものだ。標準仕様アサルトライフルをダブルトリガーだ。中型シールドにパイルバンカーを追加。両肩後部にラックと追加弾薬を装備する。腰には試作の折り畳みショートレールガン。あと一つは秘密だ」


画像を切り替えるとラヴァリーの機体が表示される。隊長機として頭部に飾りがあるが他は同じ仕様であった。


「その背中のでかい包は何だ?それが秘密か?」


「そうだ。教えないぞ。味方優勢になったら使おうと思っている」


マッツの問いかけにラヴァリーはいたずらっぽく言い放った。


機体詳細がとりあえず終わると、武装した6機のシルエットがホログラム上で肩を並べるように配置され映像に変わった。


「試作品は性能に関して再検証品として、ここに送られてきている。不具合や動作不良は改善している。我らの技量ならば使える。使いこなせる。だが一応、この後に装備を取り付けフレームをヴァリアブルさせ馴染ませておけ。出撃前に必ず動作確認と運用試験を済ませろ。いいな」


ラヴァリーはホログラムの中心を指で貫くように差し示し、部下たちの顔を順に見渡した。


「白兵戦が見込まれる。お前たちの判断が部隊の生死を分ける。以上だ。必ず生き残れ」


ホログラフィックを終了させ辺りが暗くなる。


薄暗い中、マッツがラヴァリーに問いかけた。


「何故ゆえ、そんなにパイルバンカーを使用する? 浪漫武器すぎる」


「装甲目標がそこそこいるのでな。レールガンだけでは心細い」


「わざわざ接近する必要があるのだが」


「そこはいつも通り塹壕をうまく使う」


「まともな試作品を回して欲しいのだがな」


「まだ、マシな方だ。こないだなんか、ガトリンクパイルバンカーとかサンダーランスとか怪しいものがリストにあった」


「無論、断ったのだろうな?」


「あぁ、うん」


「おい、目を逸らすな。こっちを見ろ。お嬢」


「断ったさ。流石にな」


「断ったのならば良い。だがなんだ、その残念そうな顔は」


「ちょっと使ってみたかった」


「安全なところでやってくれ。それなら構わん」


「助かる、一応な。制作部からのレポートを頼まれていてな」


「使わずともVRテストで十分だと思うのだがな」


「何事も現実で使ってみなければわからないのだ。受け売りだがな。少なくともAIでなにか有効だと判定して作られたのだ。光るものがあったんだろう」


「それはそうと補給はどうなった? 」


「それに関してはいい話がある」


「多少は補給支援も確約させた。流石に激戦区で補給無しでは露骨すぎるのだろう。バックアップ用の銃火器も送ってくれる。だが、素直に補給品を渡してくるとも思えない。この司令部からの配置は罠だからな。特に武器弾薬は大事に使ってくれ。何があるかわからんからな。では、各自十分に注意してことに当たるように。まぁ、そのなんだ。誅殺されないように頑張ろう」


ラヴァリーの言葉にマッツが締まりの無い顔で首を傾けてくぐもった声をひねり出した。


「もう少し、気合の入るような言葉はないのか? お嬢」


「では……エレガントに事にあたれ」


ラヴァリーは麗しく号令をかけた。


マッツは眉間にシワを寄せて目を閉じた。


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