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ヴァルキリー・アンサンブル 塹壕令嬢かくありき  作者: 深犬ケイジ
第2章 強化兵

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31話


敵陣を裂くように、小隊は突き進む。


中央に指揮官機、その左右に標準射撃機が配置され、陣形を保ちながら敵陣から味方陣地へと突き進む。


前面にはバルカン砲を装備した掃討担当機。その護衛を務めるのは巨大なシールドを構えた近接機で、銃身を守るように盾を傾け、火花を散らしながら敵の弾丸を受け止める。


「前方制圧開始する!」


ミニガン機体の短い命令が響いた瞬間、銃身は回り始め咆哮する。銃弾の嵐が塹壕に潜む敵を叩き潰し、砂塵が爆ぜて視界を覆う。そこへシールド持ちが割り込み、飛んでくる反撃の弾を受け止め、残敵を掃討する。


指揮官の両脇を固めていた標準射撃機は、陣形からふらっと離脱しては自由に獲物を狙う。


敵隊列をかすめて隊列の薄いところを肉薄し銃と近接攻撃をしては走り去る。


その機影を追って敵が集まると、既にその姿はなく、また指揮官機の側に戻って元の位置を取る。


右へ、左へ、まるで獣の群れが一斉に跳ね回るかのように、小隊は形を変えては敵を翻弄する。


敵前線は撹乱され、銃口は散り散りに方向を失う。ミニガン機は再び前進し、シールド機が壁となって突破口を広げる。砲撃の雨が降り注ぎ、炸裂音が絶え間なく耳を叩く。


幾度も敵と遭遇しては小隊の前に立ち塞がる敵を蹴散らし、敵塹壕を突破し、荒れ果てた瓦礫地帯を駆け抜け、ラヴァリーの元へ、ようやくたどり着いたようだった。


辺りの不穏な空気に即座に反応してラヴァリーを護衛するように紋章騎士を蹴散らしながら展開する。


対峙するは貴族の紋章騎士たちであった。


一瞬の間、全機体が硬直して次の動きに備えていた。


突如、逆方向から大きな爆発音が聞こえた。足を止め索敵を行うと塹壕を幾度も超えた先、深い塹壕の影から巨体が現れ立ちはだかった

高さは8メートルを超え、分厚い装甲に覆われた多脚の戦車型兵器。複数の武装を巨体に装備させ、キャタピラとクモのような脚を併せ持つその異形のキメラタンクは、砲塔上部の頭部と思われるメインセンサー部を赤く光らせ、真正面からの打撃を一切通さぬかのように鎮座していた。


ラヴァリーは指揮官機より、小隊チャンネルに低く命じた。


「でかいのが来たな。貴族の騎士共は私が相手する。大型機はアルヴァに指揮を任せる。やってみせろ」


各機のVFの操縦席となるVR空間で命令が響き渡った。


アルヴァは即座に反応する。


「包囲旋回でセンサーと武装を叩け。動きを止めるな」


『了解』


5機の機動兵器は一斉に散開し、砂塵を巻き上げながら巨獣の外周へ走り込む。装甲の巨体が旋回砲を振り回すよりも早く、軽快な四メートル級の機体達が円を描きながらを獲物を取り囲む猟犬のように、円を描くような高速旋回に移った。


ラヴァリーは静かに周囲の敵を蹴散らしながら仲間の動きを観察していた。


「訓練の成果は出ているな。悪くない」


巨獣に断続的に火花が走り、装甲で弾かれた跳弾の閃光が空を裂いた。


標準射撃機が旋回しながら連射を浴びせ、装甲の継ぎ目やセンサーを削る。


ミニガン機は周囲に散らばる残骸を利用して近づき。砲塔を注意しつつ移動しながら至近距離から連続した火線を流し込む。


盾を持つ近接機がその側面を庇い、飛来する機関砲弾を受け止めるたびにシールドが火花を散らした。


巨体は火砲を放ち、搭載銃器を乱射する。数カ所のマルチセンサー群が襲撃者を探し首を振っては光り、取り囲む5機を捕捉しようとする。だが、その動きを嘲笑うかのように、彼らは外周をクルクルと回り続け、一定の間隔で前方に飛び出しては銃撃を浴びせ、またすぐに離れては射線から遠ざかる。巨獣の隙を見てはセンサー群を削りなぎ払う。


取り囲む猟犬の群れは止まらない。まるで獲物をいたぶる獣の群れのように、足回りを近接攻撃で抉り、銃弾を装甲板の継ぎ目に撃ち込み、隙を見せたらセンサーに狙いを定め集中攻撃を仕掛ける。


ミニガン機は背後に巨獣に回り込みをかけ後背部に火線を撒き散らす。巨獣は急旋回して砲撃し、爆炎が近くに落ち土砂と破片が機体を叩くが、それらの砲撃後を縫うように回避し、幾度も大型機に攻撃を仕掛けヘイトを稼ぐ。


標準射撃機二機が間合いを取って旋回しつつ、巨獣の正面に据えられたのメインセンサー部を狙い撃つ。連射されたライフル弾がメインセンサーを撃ち抜き、破片と青白い火花を撒き散らす。攻撃を継続して周辺の赤外線ユニットを破砕し、敵の照準精度をさらに鈍らせる。だが、巨獣はまだ怯まない。苛立ったように砲塔を振り回すが獲物を捉えることはできない。残存するセンサーで必死に目標を捉えようとする。


指揮官役を務めるアルヴァは命令を下す。


「メインセンサは死んだ! 煙幕展開後にパイルを突き立てろ」


すかさず射撃機体2機からグレネードが発射され、弧を描いて飛び煙幕グレネードが白い霧を噴き出し巨体を包み込む。


二機の対装甲機がパイルバンカーを準備動作をさせ、左右から煙幕に突入した。


テラヘルツセンサーが敵の装甲板を叩く、おおよその位置を割り出した一機が取っ付き右側装甲の隙間を貫き火花と爆音を撒き散らす。直後に反対側から二機目が飛び込み左腹を装甲をこじ開ける轟音が響かせ撃ち抜いた。


パイルバンカーを両脇から突き立てられた巨体は震え、装甲の奥で何かが軋み、爆煙が装甲の裂け目から吹き出した。


二重の衝撃に巨体がよろめき装甲は悲鳴を上げ、内部の機構が電撃を噴き、圧縮油圧の唸りが響く、やがて巨獣の脚は自重を支えることができなくなり、その身体を大地に鎮めた。


アルヴァ機がとどめを刺そうと正面から近づき、腕のヒートブレードを装甲の隙間から滑り込ませる。だが最後にまだ辛うじて稼働する半壊した頭部の駆動部品が動きを見せた。


アルヴァ機は落ち着いた動作でヒードブレードが作った破壊孔に銃口を突き刺し、冷徹に引き金を絞った。


銃弾が内部を跳ね回り内部構造を完全に粉砕した。すると黒煙を噴き上げて巨獣は完全に沈黙した。


「よし。上出来だ……次はもっと速く仕留めてもらう」


ラヴァリーの落ち着いた声が小隊の通信に再び響いた。


倒れ伏す巨影を背に、五機は再び陣形を組み直し、ラヴァリーの元に集う。



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