14話
地表からの砲撃の残響が、重く響いてくる。
薄闇に包まれた地下壕の入り口から、ラヴァリーは鋭い眼差しで中を睨みつけた。
また、砲撃の残響が鈍く響き、地面の底で獣が唸っているかのようだ。
機体からハンドサインを出し、前進を促す。
低く、しかし張り詰めた金属音と足音が静寂を切り裂く。
ラヴァリーの機体の後に強化兵たちは続いた。
機体の頭部のカメラから送られる映像は、機体が作り出す操縦席を含む、仮想空間に映し出されていた。
眼下に広がるのは、暗く冷たいコンクリートのスロープ。
そのひんやりとした空気が、狭いコックピットにいるはずの自分を包み込み、それは、まるで自分自身の感覚となる。
張り詰める緊張感の中、長いスロープを慎重に下りていく。
通路は漆黒の闇に吸い込まれ、通路にある照明の細い光だけが唯一の頼りだった。
スロープを降りきると、そこにはまっすぐな通路が果てしなく伸びていた。
天井からは砲撃の振動の度にコンクリートの破片が落ちる音が不気味に響く。
歩みを進めるたびに、砲撃の合間に重苦しい機体の足音が壁に反響して不気味さを煽る。
壁のところどころには、黒く焦げ付いた跡が不規則に広がっている。激しい戦闘があった証しを確認できた。
「戦闘があったようだな」
だが、奇妙なほどに静かだった。
敵の姿も、物音もない。
ただただ、ひたすらに続く通路と、自分たちの機体の発生させる音と息遣いだけがそこにあった。
まるで、時の流れが止まったかのような空間。
この静寂こそが、何よりも不気味な敵のように感じられた。
ラヴァリーたちの機体は、ただ前だけを向き、銃を構え続ける。
この先の闇に潜む、見えない何かに備えてラヴァリーたちは地下壕の通路を進む
薄闇を進むこと数分、ようやく通路の終端に、重厚な金属製の扉が姿を現した。
その堅牢な造りが、内部に重要な何かがあることを示唆していた。
「地図によると、この先は大きな広間だ」
ラヴァリーは扉を睨みつけ、6機のVFは入口手前で停止。
僚機に通信用のワイヤーを飛ばし接続する。
そして静かに内部を確認する。
マルチセンサーを起動すると、冷たいコンクリートの壁の向こうが透けて見える。
微かな熱源が複数、蠢いていた
「敵機マークだ」
一人、また一人。ぼんやりとした輪郭が、ゆっくりと動き出す。
ラヴァリーは情報を共有する。
先頭を行く機械兵は、やや猫背で、片腕に機関銃を内蔵し、まるで獣のように周囲を警戒している。
その横の機械兵は、損傷して動きが鈍く、頭部の光学センサーをだらりと下げていた。
動作はさらに鈍くなり、まるで潤滑油が足りないかのように、動きがぎこちなくなった。
さらに奥には、二機一組で背中合わせになり、互いの死角をカバーしながら周囲を警戒する機械兵の姿があった。
その動きには無駄がなく、明らかに熟練した機体だとわかる。
そして、広間の中心には、何事かを指示している指揮官機らしき姿も見えた。
敵の数と配置が、徐々に明らかになっていく。ラヴァリーは深く息を吐き、静かに銃を構えた。
ラヴァリーは入口を睨み、指令を下す。
機体をそっと滑らせて壁に張り付き敵を窺う
ラヴァリーは暗視センサーから送られてくる映像をマルチカメラに切り替え、広間の内部を細かく探っていく。
広間の壁際に無数の部品の山が散乱していた。。巨大な鉄骨や分厚い装甲板、そして無骨なキャタピラの連結部品。
それらは、味方の戦車とは異なる規格で丸みを帯びていた、どうやら敵の戦車や多脚戦車のものらしい。
カメラを切り替えて、さらに奥へと視点を移す。
そこには、数部隊の兵士たちを一度に乗せられるほど巨大なエレベーターが見えた
その扉は頑丈な鋼鉄製で、周囲の壁は搬出入の際に付いたと思われる傷だらけだった。ここが、地下深くに隠された退避壕の搬出口なのだろう。
そして、広間の最深部へと視点を移すと、そこには異様な光景が広がっていた。
ラヴァリーは、マルチカメラの視点を広間の最深部へと向けた。映し出されたのは、あまりにも異様な光景だった。
そこには、30m級の巨大な骨組みだけの兵器が、中途半端な状態で放置されている。
複数のクレーンが、まるで悲鳴を上げるかのようにきしみながら、巨大なパーツを宙に吊り下げている。
その途方もない重量に、広間の鉄骨までもが震え、軋む音が響き渡る。
それらが精一杯の仕事なのだと、その重苦しい動きが物語っていた。
組立途中の分厚い装甲板が、壁に立てかけられたままになっている。
床には無数のケーブルが無数に絡み合い、各部のパーツが雑然と転がっていた。
作業ロボも動きを停止して、溶接機や工具類も無造作に放り出され、まるで作業中に突然、時間が止まったかのようだ。
周辺に散らばる敵戦車や多脚戦車の部品が、まるでおもちゃのように見えてしまう。
数台の戦車砲塔が積み木のように胴体の近くに無造作に置かれ、多脚戦車の脚部ですら、この兵器のパーツの一部にしか見えない。
周囲には様々な口径の砲身や機銃、弾薬ベルトが、無造作に転がり散乱している。
まるで多砲塔戦車の残骸を寄せ集めたかのようなその無様な姿は、しかし圧倒的な巨大さを誇っていた。
この地下壕の主たちは、よほど急いでいたのだろう。
急ピッチで組み立てをしていたであろう痕跡が、この兵器の途方もないスケール感を、さらに不気味に際立たせていた。
「やつらは、ここにセンスを疑うような武装の百貨店のような巨大な多砲塔戦車を隠していた。しかも、かなり焦って組み立てていたようだ」
ラヴァリーの言葉が、機体から各機に繋がる通信ワイヤーを通じて各機体に言葉を伝えられた。
「アルヴァ。グレネード用意。突入に備えろ」
グレネードを装備する機体が既に発射準備を完了させていた。
ラヴァリーの共有情報から次の動きを推測して、突入の準備はすでに終わらせていたようだ。
ラヴァリー機が静かに腕部を上げ、仲間に準備を促す。
ワイヤーアンテナが振動し、機体から剥がれ落ちた。その後、通信ワイヤーが巻き戻され、機体に収納された。
機体の腕を下げる。
グレネードを搭載する機体がバンカー入口に移動して内部へ投射した。
砲撃の騒音が辺りに反響し、その影響で辺りの砂煙を巻き上げる。
数秒後、轟音と閃光が内部を揺さぶる。爆風が埃を巻き上げ、出入り口から熱気と煙が吹き出した。
「突入!」
ラヴァリーの近距離無線による号令で、一斉にバンカーへ突入。
駆動する脚部が床を叩き、センサーが暗闇を切り裂く。
ディースが左隅をスキャン、赤外線で敵捕捉。
破損したアームから火花を散らしながら武器を構える敵を、精密射撃で粉砕した。
「左隅、クリア!」
同時に、アルヴァが右側を制圧、敵歩兵型ロボの残骸を蹴散らす
「右隅、クリア!」
ラヴァリーは中央を進み、遮蔽物越しの敵をバースト射撃で貫通破壊した。
「広い地下壕だな」
「オールクリア! 広間制圧。敵残存なし」
真っ先に索敵していたラーズが宣言した。
「ご苦労。敵機体から情報を抜き出せ。共有情報から状況を確認する。それにしても、あの部品からするとここは格納庫でもあるようだ。これは巨大なエレベーターか。これはお手柄だな。脱出口が見つかったぞ」
その直後、バンカー内部を震わせる轟音と振動が耳と腹の底に響き渡っていた。
「間に合ったか……では諸君、我らを狙う砲弾を、ここで凌ぐとしよう。各自、機体の損傷確認をせよ。警戒を怠るな」
冷静に告げながらも、ラヴァリーの胸裏にかすかな震えが残る。
遅ければ、砲弾の奔流に呑まれ、乗り込んでいるVFは鋼鉄の棺にされていたはずだった。
戦場の女神は、やはり我らを試すか。
だが、別の女神、幸運の女神は確かに微笑んでいた。あの一瞬、彼女が我らの背を押し、死地を逃れさせてくれたのだ。
ほっと息をついた瞬間、ラヴァリーの心の中でその女神の笑みが変わった。
やわらかな慈愛は消え、冷ややかな口角だけが浮かぶ。
まるで愚か者、まだ終わってはいないのだと囁くかのように。
砲弾の残響の奥に捉えた不穏な音に、予期していた不安が確信に変わる。
それを感じて、背筋にぞわりとした悪寒が走った。
壁を伝うひび割れが、一本、また一本と増えていく。それはまるで、巨大な蜘蛛の巣が広がるようだった。
不安は的中する。
「総員、エレベータに逃げ込め!!」
次々に舞い落ちる砂塵が、照明の中で無数にきらめく。
ラヴァリーたちは機体を急加速させて走り込む。
天井の多くの鉄骨が軋む、不気味な音がした。
まるで、巨大な生物が断末魔をあげているようだった。
次の瞬間、轟音が響き、激しく揺れた。
天井から大量の瓦礫と土砂が降り注ぎ、視界を塞ぐ。
ラヴァリーは幻視の中で、眼前にいる女神に悪態をつく言葉を探した。
「性根の悪い女神め」
地下壕全体が崩落する轟音の中、ラヴァリーの叫びは掻き消されていった。




