嘘と真実、そして夕陽の色
「俺のこと! えーと……俺中学生の頃両想いだった子がいてさ…俺の片思いだと思ってた…だけど…両思いだと後から知った…そう…想いを伝えれなかったんだ。」
「それでそうなったのですね。」
「ああ…もし伝えていれば…と……俺も好きだって言えなかった…俺も病気だったから…俺だけ治った。」
「…それで…グスッ…トウマ…辛かったね。」
「ふふふ、なんてな。全部作り話さ!」
「はぁ? 最低過ぎる…このゴミ!」
ナターシャが、眉間に皺を寄せて怒りを露わにした。
……全部本当の話なんだけど、彼女が俺に対して、態度変わって欲しくないって言うね…なんて間抜けな男なんだろう。
恭子さんに合わせてくれて、想いを伝えさせてくれた。この恩は必ず返す。
まさか…亡くなった子が恭子さんだったなんて…名前が同じだから、もしかしてと思ってたら。いや……確証はないが。
正直違うかもしれない……それを確認する前に彼女は亡くなってしまったから。でも…もしそうなら、転生した人間の選抜方法は何か法則があるのかも。
それに俺は、恭子さんの死を利用してナターシャと良い関係は、築きたくない…くだらない理由だろうけど、俺にとっては譲れない理由だ。
なら初めから言うなって感じだ。だけど、彼女に言いたかったんだ、どうしても。
それにしても……服の血の匂いが臭すぎる。集中出来ないほどに。ナターシャにそれを伝えると、港町に買いに行こうと提案された。
ここで買わないのかと再度尋ねたが、ここを早く離れたいとの事。魔族だと気が付かれると、面倒だからとういう理由を聞いて、俺は深く頷く。
俺とナターシャは、怪しむ兵士の視線を無視して、この荒野から港町に向かった。
歩きながら、俺は彼女にある思い浮かんだ疑問を口にした。
「俺なんか気がついた。どうしても納得いかないことがある。」
「なんですか? 私が惚れない理由が納得いかないって言ったら、本気で怒りますよ?」
「違くないけど、違う。テンプテーションのことだよ。あんなチートスキルがあるのに、それを上手く使わなかったのか。だってあんなの使えば人間滅ぼすの容易いだろ?」
俺はナターシャに話を振った。正直話をしたいのもある。
ただの話題作りのネタではあるが、敵の重大な謎でもある。
「確かにそうですね……テンプテーション使えば、女性だけ殺すことも出来たはずですね。実際メイド達さえいなければ誤魔化せたはず。トウマはどう思いますか?」
ああ、俺を見る彼女の目の色が違う。思わず口元が緩んでしまう。これはもう惚れるのも時間の問題! 良し…ここは真面目に答えないと。ま…いつも真剣なんだけど、それが彼女には伝わらないだけだ。
「敵がバカなだけだと助かるんだけどさ、もし意図的にしたとしたら? 俺が殺した相手は……そもそも仲間に見捨てられたか、もしくは………。」
俺は言葉を留めて言った。ナターシャの続きを聞かせろと、甘えを誘うためだ。
「…エリーゼは多分四天王になってそれほど時間は経っていないはず。出世して魔族の嫉妬で孤立していた……と考えても、テンプテーションを使えば世界すら支配できるでしょう。それを踏まえると、確かに謎が残りますね。」
エリーゼっていうのか。結構美人だった…ああ、惜しいな。仲間にしたかったな…手にまだ殺した感触が残っている。
いや、彼女を守る為だ。考えないようにしよう。
それにしてもナターシャ、甘えないのかよ! 推理披露して終わるのかい。
でもさすが…俺の嫁だな。惚れ直すよ、本当に。なんて魅力的なんだ! 良し、褒めまくって、好感度上げよう。
なんか、女性の対応上手くなって気がする。
俺は彼女の容姿を改めて満遍なく見つめると、凄い嫌そうなひきつった顔をして俺を悲しませた。
見るぐらい良いだろ! 落ち着け。名誉挽回するんだ、俺の言葉で。
「そう、敵はエリーゼを危険に晒すなんて悪手を打ってきた。解せないだろ? 魔王の判断なのか? それとも幹部が彼女を亡き者にしようと、俺たちにぶつけたか。」
港が近くなってきたな。海の独特な塩の匂いがしてきた。
こびりついた血の匂いが鬱陶しい。さすがに風呂にも入りたいな。そして一緒にナターシャと風呂に入れたら…思い残すことはないと思ってたら喉が鳴った。
彼女は今なにを考えてるのだろう? やっぱり嘘って言ったこと怒ってるかな? それとも真面目だから、魔王軍の真意をしっかり洞察してるんだろうか?
待てよ? そもそも俺が相手してる四天王の魔王って、どの目的のやつなんだ? ナターシャに確認してなかった。
そこに気が付かないのは、俺はやっぱり詰めが甘い男だ。もっと頭を働かせていたら、最初の村で恭子さんを失うことはなかったんじゃないか? ああ、胸が詰まる思いだ。
今更後悔しても彼女は蘇らないのに。
いや…それがあるから俺は今こうして、深く考えてるんじゃないか。
彼女が作れたと浮かれていた……はは、前世も今の俺も同じじゃないか。
俺はナターシャを守る…どんな手を使っても。でも人を平気で殺める人間にはなりたくない。この2つ天秤にかける時が来るのか?
空を見上げる。いつの間にか昼間から夕陽の空になっていた。この変化の速さの様に俺は変わっていく。
「空に何かあります?」
彼女が俺と一緒に頭上を見上げた。
「ナターシャの胸のような夕陽があるよ。」
彼女がため息を吐いて、笑顔を見せた。
「はい、バカキングに戻りましたね。黙って歩きましょう。」