誘惑の魔女エリーゼ
誘惑の魔女エリーゼ視点
荒野の風が死を運んでくるわ。もちろん、あいつらの死をね。
私の作戦は完璧だ。死角は無い。
魔王様もナターシャの首を待ち通しく思っているわ。ふふ、これをきっかけに魔王様と結婚出来たりして。
フフフ、顔が火照ってしまうわ。
ナターシャめ、我らの配下に成れば死なずに済んだのにね。でも魔王様の隣に来られても面倒。結局私に殺されてたわ…おあいにく様。
私のテンプテーション…1番効いてほしい魔王様には効かない…皮肉なものね…もっとも…私たちは既に恋仲…だけどね。
ただ、他の奴等は実績があるけど、私にはない。ナターシャ…あなたの死体が仲介役になるのよ、光栄に思うのね。
さて…ナターシャあなたを天国…違うわね…あなたに相応しいのは冥界ね。送り届けるわ。
さぁ、私の兵士たちよ! ナターシャとその眷属を倒せ!
数百のテンプテーションで操った兵士たちを戦場に送る。
ふっ、この兵士たちは捨て駒だけれどね。ナターシャの魔力を消耗させる為のね。
甲冑に纏った兵士共が私の指令で動き出す。
荒野に彼等の軍靴が荒野にこだまする。
まるで…兵士たちの悲鳴にも聴こえる。可哀想な兵士達。あなた達の死は無駄にしないわ。
…私の幸せを願って死になさい。
あなた達の血を血判にする。それこそが、私の愛を証明礎よ。
私は目を見開いて彼等の死に様をこの目に焼けつけようと、荒野に視線を向ける。
だが…現れたのはナターシャじゃなかった。
ナターシャの眷属の男か。
私は笑って口元に手を置く。
なるほど…彼女も同じく操り人形を使うか。
消耗を避ける狙いね…うん?
私は驚きを隠せなかった。彼女の眷属だと思っていたが、そうではないのか?
あまりにも強すぎる…なんだアレは?
兵士がまるで歯が立たない。
戦場の兵士が渦になって1人の男を取り囲むが、それをもろともせず、その男は兵士を倒しながら前に進む。
兵士の咆哮が悲鳴へと変わっていく。
彼の鋭い拳が兵士の鎧を砕く。まるでそこに鎧は無かったように。
何をやってるの! 剣で突き刺せ。
私は情けない兵士共に号令を出した。
こんなことなら、私の部下も連れて来ればよかった。でも…私1人の力でナターシャを始末することこそ意味があるのだ。
それにしても…ただの人間がここまでやるなんて…召喚者ナターシャ…あの人間もやはり召喚したやつか。
彼は剣すら木の棒に変えてしまう。兵士の力では彼の身体に傷ひとつつけられないんだわ。
彼が欲しい…ふふ、私の一番の配下になりそう。これ以上無駄な戦いは意味をなさない。
私は兵士に撤退の合図を出す。
彼は兵士の後ろ姿を見て、呆然としているようだった。
でも、私はこうなることは想定していた。
私に油断などない。最善の手を常に考えているの。
戦いは数でも実力でもないの。戦いはやる前から既に勝者は決まってるのよ。
私はトウマという男の前に自ら進み出た。
もちろん、彼をテンプテーションに掛ける為。でも…まずはナターシャをどうにかしなければいけない。
操っていた者から彼の情報は手に入れている。実力も彼女と同じだと聞いた。
だが、彼は女性と戦うのは躊躇うようだ。
つまりナターシャと私を戦わせるのに、賛成なのだ。
私はあなたと戦うつもりはないわ。犠牲は少ない方が良いでしょう?
ナターシャの元に連れてってくださるかしら?
もちろん、あなたも側に見守って良いわ。
この申し出に彼は頷く。
…なんだかいやらし目で私を見るわね。
テンプテーション…この男にはいらないんじゃないかしら?
彼の背後を見つめて、私は最強の兵士になる男だと思うつつ…気色悪さを放っていることに鼻を鳴らした。
ナターシャの姿が見えた。味方の兵士達も彼女を守るようにいた。
「久しぶりの対面ね。元気にしてたかしら?」
「お陰様でね。あなたの顔を数時間後には永遠に見られなくなるのが…ちょっと嬉しいわね。」
ふん、相変わらず嫌味な女ね。でも貴女はもう罠に掛かったの。今更許してくれと言っても無理よ。
まんまと姿を見せたわね…まともに私が戦うと思った?
残念でした。貴女の味方の兵士は私に既に操られてるの。ナターシャのいる場所は既に魔法陣が敷いてあるのよ。
「さぁ、兵士達よ! 魔力を解き放て!」
私の号令でナターシャに重力の魔法が、黒い砂時計の様に彼女の範囲にのみ降りかかる。
彼女は地面に手をついて、苦悶の表情を浮かべている。
「無様ね、良い姿よ。」
私は靴で彼女の頭を撫でる。だが、私の足が重力にやられ、数本足の指が折れてしまった。
忘れてたわ…勝利の余韻に酔ってしまった。
私は痛みを堪えて、何事もなかった風に振る舞う。
でも痛い…泣きそう…目を抑えて痛みを我慢する。
ナターシャという心配そうな声が聞こえ、私はトウマという男を見る。
「貴女の首を切って憂さ晴らししてやるわ。」
私は男にテンプテーションをかけた。
これで私の思い通りの人形。さぁ、ナターシャの首を斬るのよ。
兵士から剣を渡されて男はナターシャに近寄る。
そして男が振りかぶった。鈍い音が鳴った。
私は恍惚として目をつぶる。目を開けると頭が空中に舞っていた。