ディナーの後で謎のメモ
料理を食べながら、俺たちは敵の四天王についての情報を教えてもらっていた。
「かなり非道な奴で、多くの兵士がやられた。」
愚痴るように兵士の1人が涙を溜め、眉をひそめた。
「そんなことより、四天王が男か、女かについて教えて貰いたい。」
雰囲気が悪いので、俺は話を逸らす。
「トウマ…そっちなの? それこそどうでも良くない?」
ナターシャが、口を尖らせて頭を傾げた。
「いや、もし女性だったら俺戦いづらいかなと。」
「…本当に? もし女性なら付き合えないかなとか思ってそう。」
バレてる! いや…ナターシャいるから、そんな事はないんだけど、凄い可愛かったら、無きにしも非ず。更生するかもしれないしな。
「いや、ナターシャがいるのに、他の女性にいくなんてないから。」
俺は顔の前で手を振って否定した。
「否定するのは、良いんだけど、私がいなかったら考えるって事だよね?」
「そう言う事だね。」
「認めた! ちょっと本当に気持ち悪い。皆さんも彼についてそう思いませんか?」
周りのメイドがクスクス笑って、意見を言う。
彼女達もまた、魅力的だが…噂好きなんだろうな…若干距離を置こう。そう思ったけど。
「きっと深刻な私たちを和ませる為に、そのような冗談…言ったんですよね?」
…やっぱり、距離なんて取る必要ないか。
「そうですね。許せないです、四天王…男だったら俺がぶん殴ってやりますよ!」
「よく言うよ、絶対女性の四天王だったら、狙うでしょ。」
ナターシャがジト目で睨んで、すぐにスープを啜った。
スープ啜るのも彼女は、絵になる。
だが、やたら突っかかるな…もしかして嫉妬?
…な訳ないか。
狙うかどうかは容姿によるでしょ。
その言葉に彼女が反応するようにむせた。
その一瞬…咳き込む音が聞こえ、空気が静まり返る。
「冗談はともかく、四天王は厄介な能力を持っています。くれぐれもご注意を。」
大臣らしきおじさんが、偉そうに髭を生やして、深刻そうに訴えた。
「任せて下さい。俺とナターシャなら、四天王なんて相手にもなりません。でも、女性なら、ナターシャが倒します。」
「勝手に決めないで下さい。強さによります。性別で決めるのは、最低です。」
「そうだね、ナターシャが危なくなったら困るもんな。」
「それで、その能力については、詳しい事は分かってるんでしょうか?」
彼女が俺の事を無視して、大臣に聞く。
だが…ナターシャが釣れない態度を取るのは、照れ隠しもあるのだろう。俺にしか無視することは、今の所ないから。
「はい、テンプテーションを使い男を操る能力です。」
「ほらみろ! 俺の言った事合ってるじゃん。女性なら、効かない。つまり俺の出る幕はない。」
魅力の術を使う…見事にすべてのピースがここに当てはまる! 俺も下僕にされてしまうな、これは。
「いや、そんな嬉しそうにはしゃがれても後付けですよね。バレてますよ。」
「いや、俺の勘だよ。長年戦って来た戦闘経験が、見抜いたんだ。」
「なにが戦闘経験ですか。トウマ、ゴブリンの子供と兵士倒しただけじゃないですか。」
「ゲームで、何度も戦ってるから。」
頭脳戦のゲーム…異世界の人間には多分、チェス辺りを思いつくだろう。テレビゲームだ。知略を使う敵と本当に戦うシュミレーションなのだ。
「ゲーム? ふざけてるんですか、怒りますよ。もう、先に行って操られて来て下さい。」
彼女が腕を組んでプイと顔を横に向ける。怒った顔も素敵なので、愛おしさが胸の底から湧き起こる。
駄目だよ、心細いしナターシャいればテンプテーションも解除出来るでしょ?
ため息を吐き彼女が椅子から立ち上がり、組んだ腕を下ろす。
出来ますけど、もう…腹立った。もう行きましょう、四天王の元へ。この人いらないんで差し出しに。
クスクスとメイドの声が漏れた。
これは…俺とナターシャの仲を祝福してくれる笑い声に違いない。
彼女冷たい態度をきっと、照れ隠しと洞察した…さすがメイド! でも…きっと羨ましいなと俺と仲良くなりたい。そんな気持ちもあったのだろう。
残念。君たちの気持ちには応えられない。
だが、君たちが一生懸命運んできた、このご馳走は、ありがたがって食べなければいけないな。
「俺はまだちょっとしか食べてない。」
「こうしてる間にも兵士がやられて、ご飯食べれないんです。行きましょう。」
ナターシャが急かす。兵士の命大切にするような子じゃないだろうに…俺が見破ってやろう。
「なんだよ、嘘くさいな。村人皆殺しにしようとした癖に!」
「はっ! こんな所で言うなんて…空気読まない人ですね。確かに言いましたけど、トウマが止めたじゃないですか。心入れ替えました、私。」
早いな心変わりが。その変わり身の速さを、俺への扱いも変わらないかな。
「つまり、俺のお陰で悪党にならなかった…感謝しないとだよ?」
「ぐぬぬ、恩着せがましいですね。実際には村人、ゴブリンに全滅させられてので、ノーカウントです。」
「殺人鬼が殺しに行ったら、もう死んでた。だからそいつは無罪って言うもんだよ。いや、悪党に変わらないだろ?」
「極端です、その例え。」
彼女の声が小さくなった。よし論破完了。
食べ物の肉汁の匂いが鼻をつく。良い気分だ。
やはりディナーを食べかけのままにするのは、庶民派の俺には、贅沢な貴族のようで我慢ならない。
「さてさて、食事してから行きますよー。」
それから兵士に先導されて、四天王のいる荒野に向かった。
茶色のカピカピの地面にヒビが幾重にも分かれていた。木が枯れ果て、生命の息吹すら感じない。
それとは裏腹に空は晴天の青空。暑いさで思わず額に汗を垂らす。
「ここに四天王がいるのか。ご苦労さん、後は俺たちに任せておけ。」
決まったな。どんな奴でもかかってこい、俺はビビリもしない。
俺は最強の力を得たのだ…そう言えば俺ってどんな能力あるんだろ?
「ナターシャ、俺ってどんな能力あるの?」
「ステータスオープンって言ってください。それで見れます。」
「ステータスオープン、我が力を示したまえ!」
「…一言多いですね。」
彼女の呆れ声に慣れたな。しかし、ゲームの世界でもないのに、ステータスが出てくるなんて
…ここの神様は…ゲーム好きかな?
「さて、レベルは5か。俺レベル5だ。ナターシャってレベルいくつ?」
「私はレベル355です。」
なに、インフレ凄い。この世界99レベルじゃないのか。
「レベル格差あるのに、実力そんなに違わないの?」
「レベルなんて、スキルに割り振るポイント取るぐらいの差だから。私に言わせるとね。トウマの場合転生して召喚されたらから、レベルが低くても問題ないよ。」
問題ないか。とんでもスキルは、もちろんあるよな? 時間停止…欲しいけど…悪用しそうだ。それなら、時間巻き戻しの方が良いな。
これなら、犯罪しても無罪。だが…心の罪は浄化されないんだよな。ふふ、俺の心は本当正義で溢れてるぜ。
だけど、時間停止したら、ナターシャを永遠に見続けられる。ありだな。
しかし今は…何も出来ないのか?
「つまりレベル低い今の俺スキルなし?」
「YES、無能ってことね。」
無能か、はっきり言う。その割に俺を頼りにしてるんだよな。だって俺の周りの兵士なんて、更に無能…ふふ…優越感に浸れるな。
でも、彼女に罵倒されてばかりじゃ…ちょっと意地悪してやるか。
「つまり…俺は足手纏いだから、戦わなくていい?」
「駄目。あなたにスキルは不要。拳だけで充分ってことね。」
駄目って…もっと言ってくれ。あなたがいないと駄目なのって!
それはそうと、俺の体巨人並みのパワーがあるのか? いや…それ以上?
「つまり肉体が最強って事か?」
「そういうこと。木偶の坊のあなたにはピッタリよ。頭使っても、仕方なさそうだし。」
「めっちゃ悪口言うじゃん。俺結構賢いから、心理戦得意だぞ? ゲームとかも戦うの上手いし。」
「自分で賢いって言っちゃう間抜けね。騙されて罠にかかりそう…前世で罠に掛ったんだっけ? プークスクス。」
「ふん! なら俺が賢いって教えてやるよ。ナターシャ紙とペン持ってる?」
俺は真剣な声で彼女に言う。それに応えるように彼女も一瞬目を細める。
「あるけど? 一応名前忘れないように、用意はしてある。」
俺は彼女から紙とペンを受け取り、ある一言を書き込んで、彼女に渡して見せた。
「……なるほど…それは思い付かなかった…トウマ、よくその可能性気がついたね。賢いと認めざるを得ない。」
「だろ? 俺は賢いんだ。ただ性欲が邪魔するだけで。」