ふざけてるけど、ちゃんと泣いた
「無一文で戸籍もないのにどうやって暮らすのか、興味あったから止めなかった。結局私に頼るしかないですよね。」
図星を突かれたー!
くっそ……思ったより頭の回転早いな、ナターシャ。
……なら、ここは白旗を上げて“降参したフリ”でもしておこう。
惚れさせればいいんだからな。
「……どうやら、あなたの言う通りのようです。
心を入れ替えて、今日から俺はあなたの奴隷になります。姫に忠誠を誓います。」
俺はナターシャの手を取り、誓いのキスをしようと顔を近づけた。
……もちろん、下心しかないキスだがな。
「ひぃ〜! ちょっと今私の手を舐めようとしなかった? 気持ち悪い!」
キスする直前、彼女が俺の手をバシッと振り払った。
自分の手を指すって危なかったと、俺を蔑んだ目で見る。
「いいえただのキスですけど。」
なんだよ、手の甲にキスぐらいでも…文句言うのかよ。思わず舌打ちをした。
「舌出してた! 舌…トウマが前世、童貞な理由分かるよ。がっついてたから、みんなから気色悪がれたんだね。」
しまった! ベロが出てたか。無意識が悪さした。俺にはそれはどうすることも出来ない。
「それは…分かってるよ! 俺が童貞な理由それと、がっついて、失敗したらその女子に冷たく当たって嫌われて、後悔してまたがっつく! 知ってるよ!」
「そっか…自覚してるのに直せない性格ですか。えーと…それだけじゃなくて、その性格が嫌で、自分すら嫌ってるのに、女性には、俺の事好きになれって無理を言う
…負のループになると、こういう訳ですね?」
「そこまで言ってないけど! 合ってるけどさ!」
「なるほど…童貞王ってなんの事か今、やっと分かりました! 凄い分かりやすい自己紹介だったんですね!」
「うわー! もう俺を殺してくれ…意味違うよ。童貞王って……あれ? あってる!」
…ナターシャ俺の心読んでないだろうな? そうとしか思えない…いや、そんな能力あったら、部下いっぱいるはず。
俺しかいないんだから…びびった。
「だよね、なんで一回否定したの? それよりそろそろ、ここを離れようか…村人結局あいつらに皆殺しにされてたし。」
「なんて奴らだ…許せねぇ…もう死んでるが。」
俺はゴブリンの死体を確認する。こいつに毒針喰らった時は駄目かと思ったが、抜いて頭にブッ刺して倒せた。自分の武器で倒された間抜けな奴め。
「……なんでカッコつけた?」
ナターシャが、呆れ顔で言い放った。
「童貞王って名前、覚えやすいね。今日から君、童貞王を名乗りなさい。」
「嫌です…冬馬です。カッコつけたって言うより、俺の性格はカッコいいんだよ、気づけよ。」
「急に上から…あなたやっぱりモテない。まぁ良いわ。ここを拠点にするけど、その前に街に行きましょ。」
「どさくさに紛れて人を侮辱しないで下さい。俺は恋愛以外は、しっかりしてるんですよ。」
「それ自分で言う? 恋愛もしっかりして下さい。」
「童貞捨てたら、しっかりするって言ってるじゃないですか、何度も。」
そうだ、俺が恋愛に対してがっついて我を忘れるのは、全て経験不足のせいだ。捨て去れば全て上手くいくのだ。
「言ってた? またその話蒸し返すの…辞めましょう。キリがないです。」
キリがないと思うなら…いや待てよ。ここでするのは無理があるな。ナターシャ、なるほど…ね。
「そうだね。街に行って…ね。」
「意味深なんですけど、変な事しないで下さいね。」
「良い女ぶりやがって、なんもしないよ。」
俺は苛立って言った。変なことさせろよ、ちくしょう…俺は道具じゃない。人間なんだ!
「なるほど…モテない人ってすぐ暴言吐きますよね。やれやれです。」
「ふん、処女の癖に、男を分かったふうに言いやがって。暴言じゃないし。」
俺はナターシャが仲間として上手くやれるよう言った。
「今度は説教ですか? モテないをコンプリートしてますね、ふは。」
説教…駄目だこんなこと言ったら彼女に嫌われてしまう。
「…そんなつもりで言った訳じゃ…誤解与えたなら申し訳ない。」
「うわっ…もう気持ち悪い…本当に無理です…キレてて、すぐ謝るとか…いやぁ〜誤解じゃないですし。処女の癖には、暴言ですよ。」
考えろ俺…ここで起死回生の一言…言えば…挽回できる。
「処女なのに、俺にモテないねって言われてちょっと腹が立ちました。つまりお互いに誤解があったと、いうことです。」
「ふぅ〜つまり価値観の相違ですね。正直一緒にいるのも生理的に無理です。けど、力は借りたいというジレンマです。」
完敗だな…一旦ここは引くか。
生理的に無理とか、嫌い過ぎですよ。さて…困ったな。
「街行く前に、恭子さんのお墓……作って良いですか?」
「分かりました…私も手伝います。」
「ナターシャ、ありがとう。」
俺たちは協力して墓を建てた。
「これで良し…安らかに眠って下さい。」
「…急に真面目…変わり身が早くないですか?」
「…ナターシャと会ってまだ半日しか経ってない。なのに俺…こんな恥ずかしい人とデートしたいって言ってくれた…恭子さんが悲しむのは嫌なので…変わらないとなと。」
恭子さんが生きてくれてたら…俺と彼女の幸せを握りつぶした…ゴブリンが憎い。
「そうですか…偉いですね。」
「…街に行きましょう。彼女みたいな人を増やさない為にも、この世界が平和になるよう、ナターシャに協力しますよ。」
「…本当? なんか怪しい…さっきまで変な事言ってたのに。」
「彼女の死を無駄にしたくないだけです。少ししか話せませんでしが、それでも俺の大切な人には変わりない。」
もし…恭子さんが俺の知ってる子だとしたら…巡り合わせてくれたナターシャに、感謝しないとな。
「そのまま、まともでいて下さいね。変な事言うの禁止で。
「…もう2度と彼女には会えないんだ…もっと話したかった…うぅ。」
恭子さんの墓の前で、俺は目から涙が溢れた。
「…そうだね、トウマ。私もツラいよ。」
彼女の寄り添う声が聞こえた。俺は感情を爆発させた。
「ナターシャ!」
俺は彼女の名前を叫んで、抱擁した。
「ぎゃー抱きつくな! 触るなあっちいけ!」
毛虫のように気味悪がれて、俺は意気消沈した。
そのまま村から出発して、肩を落としてナターシャの後ろについて行った。