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プロローグ


童貞捨てられると思ったら、あの世に逝かされた。こんなことってある?


走馬灯が脳裏をよぎる。


俺はネットで仲良くなった女の子と会いに行った。童貞喪失記念日だと、絶頂感でカレンダーに丸をつけた。


だが会いに行ったら、男が来たんだ。弟だと名乗り、やっぱり2人きりだと不安なので悪いと思ったが、弟に頼んだと言った。


そして車で待ち合わせている。と言う言葉にまんまと騙されて、森に連れ込まれて、ボゴボコにされた。


犯人の最後の台詞が呼び起こされる。


間抜けめ、俺がボイスチェンジ使って女になりすましてたんだよ。顔はAIだ、このすけべ野郎が。


俺が何をしたんだ…ちくしょう。金も取られて…多分凍死したんだ。ああ、確かに間抜けだったよ。でもすけべは言い過ぎだろ!


ああ、思えば童貞捨てるチャンスはあった。タイプじゃなかった…それだけでそのビッグチャンスを逃したんだ…いいや、来世頑張ろ。そんなものがあるなら。


うわ、何だトンネルの様な所を操られるように、動いていたが、突如光が車のヘッドライトのように光った。


おお、転生の儀式か? やった、生まれ変われる。でも、記憶は無くなるから意味ないよな。何故浮かれた? 自分。



眩しい。何だ? 身体ないはずなのに、この感覚? もしかして死んでない? ワンチャンあるぞこれ! 全部夢オチだ! そうだよ、俺は童貞王だ。捨てる前で死なねぇ!


俺の名前は立花冬馬。良しまだ記憶はあるな。


眩しさで瞑った目を開けた。


すると目の前には、俺の理想の女性が立っていた。


その子は手を差し伸べたが、俺が手を伸ばすと、すぐに引っ込めて一歩下がった。そして小さくため息をついてから、もう一度手を差し出した。


「これでよし。こちらの言語が分かる魔法をかけた。私はナターシャ。お主の名前は?」


おお、これは…女神様か? 俺は唾を呑み、彼女に自己紹介を始めた。


「俺は立花冬馬です。女神様。」


「ふむ‥覚えずらい。中島豆腐に改名しろ。」


「嫌ですよ。冬馬って覚えて下さい。」


「無理。それと私は女神ではない。大魔族だ。魔王討伐に失敗して、我が軍は全滅。そこでお主を呼んだのだ。威厳ある喋りをしているが、慣れたら崩す。」


なに? 女神様じゃなくて魔族? うわっ…最悪だ。なんだよ〜魔族って。

 


俺は頭を抱え、自分の不幸を呪った。

……が、手の指の隙間から、そっと彼女の胸元を覗いた。


さてもう1人ぐらい召喚しとくか。この魔法、年に数回しか使えないのが難点なのだ。


「…えっ? 待って下さい! 男じゃなくて美少女呼んでください。」



「なに? その頼み…気持ち悪いですよ。私あんまり変な事言われるの慣れないんですが。」


「えっ? 普通じゃん。やっぱり相場は、男より美少女でしょ。」


「普通ではないと思います。トンマさんは異常ですよ…変な人嫌だから、もう女子しか召喚しないようにしよっと。」


彼女はため息を吐いて、視線を地面に落とした。


「トンマじゃない、冬馬。ちゃんと覚えて下さい。あと結構ナターシャさんって常識人なんですね。」


「常識? 魔族にそんなものないですけど。」


衝撃的な発言だ。なら俺が教育して、分からせてやろう。その考えに口元が緩んだ。



そして…ナターシャが頭上高く手を掲げて、2人目の召喚者を呼んだ。俺の目の前には理想の女性が立っていた。俺って理想の女性多すぎじゃない?


召喚者の女性が戸惑いながら辺りを見回していた。


「私は、ナターシャ。お主の名前は?」


「私は、水原恭子です。」


「ふむ…覚えずらいのがまた…2号で良いな。」


さて、彼女達が自己紹介を終えるのを見計らって、俺は、召喚者の女性に彼女にならないかと、口説いた。


彼女の名前に聞き覚えがあった。それが理由で、理想の女性だからじゃない…と、自分に言い聞かせた。


でも見た目は全く違った。これは、転生すると変化するのだろうか? もし俺の知ってる彼女だとすると、俺も超絶イケメンに進化しているのではと、期待に胸が膨らむ。


俺が名前を名乗ると、彼女の目の色がふっと変わった。

顎に手を添えながら、少し考えてから言う。


「死んだ後なんで、良いですよ。私、デートとかする前に死んでしまってて、憧れてたんです。」


微笑んで、首を縦に振る彼女。


よっしゃー! 言ってるみるもんだ。異世界で彼女ゲット…胸もでかいし、今日実は最高の日なんじゃないだろうか?


こんなに簡単に上手くいくのは、やっぱり…俺の知り合いの子で間違いないのでは?

うん、デート中にでも確認しよう。


「……異常者が2人……あわわ……他所の世界って、魔族より恐ろしいのかも……」


ナターシャさんが口に手を当て、身を震わせていた。


ふと、大事な事に気が付いた。

美少女2人にしか目がいかなかったが‥俺は周りの景色を見回した。


薄暗い洞窟のようだ。ロウソクに火が灯り風で微かに揺れ動く。この異様な静けさと、空間に俺は、異世界なんだと実感する。


僅かに湿った土の匂いが鼻を付く。思わず腐っ…と口にするとナターシャが、自身の黒いローブを手で摘みニオイを嗅いだ。


俺も釣られて彼女の近くに寄ると、眉間に皺を寄せ俺をジト目で睨む。


ナターシャの赤い瞳に吸い寄せられ、俺は暫く彼女を凝視すると、彼女の頬が赤らんだと同時に、視線を外された。


「さて、この世界についてざっと説明する。」


照れを誤魔化すように、彼女が俺に背を向けて語り出した。


「世界は5人の魔王に支配されている。一気に倒すのではなく、各町や村を支配している魔族を撃破して、魔王討伐に行く。」


「何故一気にやらないの?」


恭子さんが口を挟む。


「勝てないからです。魔王に勝てても、その後にやられる可能性が高いので。」


なるほど…俺たち3人チート能力はないのか? いや、まだ経験不足だからな。その内魔王以上に強くなったりして。


さて、その前に拠点作りから始めます。まず近くの村に人間が住んでいます…なので村を襲い、皆殺しにしてそこから徐々に攻めて行こうかと。


俺は耳を疑った。人間を襲って皆殺しに?

嘘だろ、おい。確かにこいつ魔族だけど、そんな事やるわけないだろ。



「ちょっと待って! そんなの嫌です……どうしてそんな事するんですか? 仲良くやれば良いじゃないですか!」


恭子さんが、声を震わせながらナターシャを遮った。


「私も、人間の村を襲うのは初めてですよ。

でも、最初は誰でも不安です。……慣れですよ、慣れ。仲良くやるなんて、ただの理想論です。」


……そんなもん、慣れるわけないだろ!


「駄目だよ、ナターシャさん。そんなことしちゃ。

俺のこと異常者って言ってたけど…おかしいのは君の方だ。

そんなの……狂ってるだろ!」


「なっ…狂ってるですって! ちょっと待って、ハヤト。そうか、異世界とこの世界じゃ、価値観違うのよね。」


首を傾げ、口に人差し指を手に当て、彼女が考え込む。



「あの……まず俺ハヤトじゃないから。いい加減名前覚えて下さい。冬馬だよ。」


「トウマ…トウマ…トナカイ。」


駄目だこりゃ。


「さて、行きますよ。ナントカ村に!」


「えー? 村の名前も覚えてないの。前途多難だな。この人の言う事、本当に信じて良いのかな?」


彼女に道案内され、洞窟から出てしばらく歩くと村に着いた。


「この村殺風景だな。凄く廃れてる。」


土埃が風邪に運ばれていく。


「毒蝮村にようこそ。歓迎しますよ、若いの。」



何やら不気味な老婆が歓迎する。うん、気味が悪い! しかもなんて村の名前だよ。


「お姉さん、僕たちと遊んで〜。」

恭子さんに抱きつく子供に、俺は苛立ちを覚えた。


羨ましい、俺も抱きつきたいのに。ま、彼女だから後でね。


「はいはい、冬馬さん、私ちょっと子供達と遊んできますね。その後デートしましょ、楽しみにしてて下さいね!」


彼女が投げキスを俺に投げかけた。はぁ〜良い子だな。もうこのまま結婚しません?


「この村は、人が来ると歓迎するしきたりでね。ここの部屋で歓迎会をやってます。」


怪し過ぎだろ…ご飯に毒入ってるだろ。俺は前世で罠にかけられたからな。分かるんだ…いや、なんとなくだが。


「お主怪し過ぎる。何者だ?」


ナターシャが俺の代わりに思った事を言ってくれた。


彼女が疑いの目を向けると、老婆は口を大きく開けて、目を見開いた。


「なに? バレただとバカな、私の変装は完璧なはず。」


「えっ、この人凄いバカだよトウマ。」


「ああ、信じられないくらいバカだ。変装はバレてない。雰囲気全部が怪しいし、罠だと気がつく。」


「ふん、バカはお前達さ。そもそも私の狙いはお前達の連れの女さ。今頃私の子供達に喰われてるだろうさ。」


「なんだと、ふざけるな!」


「二重の罠さ、この村に入った時点でね。お前達はもうトラップ魔法で動けない。」


俺は反射的に飛び出そうとした。うっ…く息が苦しい。


どうだ? 猛毒さ。この毒にやられて女の方も完全に死ぬ。あとを負うが良いさ。


……暖かい…死ぬのか…いや、これはナターシャさん方から、不思議な温もりを感じる。


「回復魔法をかけました、これで動けますよ。早く2号の所に行ってやって下さい。私はこいつを倒します。」


「ありがとう、ナターシャ!」

俺は脇目も降らずに恭子さんを探しに行く。


スキンヘッドの緑色の小型の怪物が、腰に茶色の布を腰に巻き,手に棍棒を掴んでいた。


鼻と歯が鋭く尖っていて、こちらに気がつくと、睨みを効かせてきた。


こいつら…ゴブリンだ!


「美味い、人間の肉美味しい!」


聞き間違いであってくれ。俺は走った。あいつらの方へただひたらに。      


……嘘だ…恭子さん……ウッ。


「おお、人間もう1人、山分け山分け。」


俺の目の前に残酷な光景が広がった。不気味でありながら、楽しそうなあいつらの声に、俺の胸の奥から静かに…憎悪の感情が沸々と沸き起こる。


「人間、食糧!」


ゴブリンがこちらに飛びかかる…見える動きが全て、読める。

俺は怒りと憎しみを込めてゴブリンの顔面を迷いなくぶち抜いた。




怯んだゴブリンを今度は俺が襲う。


殴りつけて、吹っ飛ばした。こいつら大したことない…恭子さんも汚い罠に掛からなければ倒せたんだ。


口から血を吐いていた彼女を、服で隠すようにかけた。


その直後…首に何かが刺さる。


「毒矢だ、ざまみろ。」


こいつら…油断…した。


★★★


「2人とも全滅か……やれやれ、だから名前を覚えるの苦手なんですよ。」


「また来年召喚しますか……この亡骸2人被さるように…気の毒に…私が原因ですが。」


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