第96話 黒の女神と比べてしまう
「澪、起きろ」
「……あおひゅん」
あおひゅんってなんすか?
「早く起きろ」
「ん…抱っこ…」
は?
え、今こいつなんて言った。
俺が固まっていると
「はやく……」
澪は今にでも2度寝しそうな雰囲気を出していたので、仕方なく指示に従った。
「キッチンに行きまひょう」
……あー、今日だったら死んでも悔いはないな
◆◆◆
「あぁ、学校嫌だなー」
「バスケだけしたい」
「一年生大会まで後2週間だしな…」
学生にとって1番憂鬱になる月曜日。
もちろん俺も気分は最悪だが唯一の救いとして澪のお弁当があるお陰で俺は何とか持ち堪えていた。
「蒼の弁当は美味そうなのに、俺のご飯は質素だし……」
「いやまぁ、どんまい」
義隆は今日に限って弁当を忘れてしまったらしく、皆んなは大盛りなのに1人だけ小盛りの素うどんを啜っている。
俺の弁当は野菜もあり、ささみ以外のおかずも大量にあり、米も多い……その差は誰もが見ても歴然だった。
「なんかくれない?試合中神パスめっちゃ出すからさ」
「あー」
パスが多回ってくるのは嬉しいけど……
「無理かな」
澪のご飯を他の人には食べさせたくない、男子なら尚更ね。
「ケチやなー」
「弁当忘れる方が悪い」
義隆が『ブーブー』とブーイングを仕掛けてきたが俺はそれを無視して食べ進めていた。
澪ってこれほどの料理を作るまでにどんなに練習積んできたんだろう。
俺は澪の料理を食べながらそんな事を考えていると。
「っあ、由依さんじゃん」
「え」
「誘おうぜ」
マジかよ。
康太郎と志歩が、今会いたくないランキング上位の人間である、由依さんと芽衣さんに向けて手を一生懸命左右に振っていた。
俺は反射的に食堂に居るであろう澪を探した。
澪は居ないな…危ない危ない。
…万が一に備えて、出来る限り喋らないようにして早く食堂から抜けよう
徐々に2つの床を蹴る音が近づいてくる中。
俺は自然を装って、一口の量とスピードを上げた。
「隣良いかな?」
泣いている赤ちゃんが聞いたら直ぐにでも泣き止む様な優しい声が左から聞こえてきた。
マジか、隣に陣取る?
艶のある黒髪が少し風に靡き、嫌でもその美しい髪が目に入ってくる。
由依さんは俺の隣の椅子を引き、白の弁当包みを解き弁当を食べ始めた。
早く逃げよ
俺は由依さんの方を向かずに頷きだけして弁当を食べ進めた。
後は少し残ったささみだけ。
その時に芽衣さんが聞き逃せない言葉を言った。
「あ、そうそう、一年生大会のトーナメント表来たけど見る?」
俺は、最後のささみを咀嚼していると芽依さんが俺達5人を見ながら言った。
それに食いついたのは、義隆だった。
「それください!」
「わかったよん」
義隆と芽依さんはお互いのスマホを近づかせ、写真の転送作業をしていた。
そんな中、俺は弁当を食べ終え、弁当包みを結び立ち上がった。
「柊君どうしたの?」
由依さんは上目遣いで聞いてきた。
あー、これがバスケ部以外でも好きな人が続出する理由なのかな
二重でパッチリとした瞳から繰り出される上目遣いに、綺麗な声色から繰り出される自分の名前……まぁ、俺には効かないけど。
「次の国語の読書に使う本を借りに図書室に行きます」
「そうなんだ……」
「では」
俺は足早に食堂から離れた。
って言っても、俺が読むのはミステリーしかないんだけど
食堂から数分歩き、校舎の中に入った。
図書室なんて殆ど使ったこと無いんだけど……澪に使い方聞いてて良かったな。
借りるときに学生書のバーコードをスキャンさせれば借りれるんだよな
俺は脳内で復唱し図書室に入った。
食堂の賑やかな雰囲気から一転、ここでは、微弱なエアコンの音がはっきりと聞こえるくらい静かだった。
え、こんなに静かなんだ……とりあえず良さそうな小説でも探すか
俺は適当にミステリがたくさん置かれている本棚で面白そうなのを探した。
んー、何が良いかなー
俺が本棚を見渡していると
「っあ」
視線の先には、俺がお父さんに買ってとおねだりして買ってもらったミステリにはまった元凶の本があった。
「殺双じゃん……何周目しかっけ…7周ぐらいはしたよな…」
俺は慎重にその本を取った。
いやーまさかこの本を機にミステリーにハマったとわな……最初はただタイトルがかっこいいってだけで買ってもらったんだよな…なついはー。
自分が本の感傷に浸っていると。
「蒼君」
後ろから聞き馴染んだ、俺が1番好きな声で、1番声が綺麗な人物が後ろに立っていた。
「あぁ、澪じゃん、どうした?」
「いや、ちゃんと借りれるのか見ようとしたんですが…今からですか?」
「今からだよ……てか、俺は澪と違っておこちゃまじゃないからできるに決まってるだろ」
「わ、私はおこちゃまじゃないです!」
いやいや、無理があるだろ。
寝ぼけてたから記憶ないんだろうなー、俺だけの秘密だな。
「はいはい…じゃあ、借りてくる」
「あ、ちょっと…」
澪の声を背に、俺はカウンターに向かった。
こんばんはアカシアです
今回の話で、蒼がミステリーにはまった元凶の本で殺双という本が出てきましたが、多分この世に殺双という本は存在しません。
僕が実際にミステリーにはまった元凶の本の名前をいじって書いたので多分この世に存在しないはずです
 




