第90話 黒の女神は本格的になる
「後は澪の歌とミックスとMVだな…」
澪の炎上事件で家に出向いた次の日。
俺は土日の部活以外の時間は全部作曲に当てた。
それが功を制し、俺は日曜の早朝に作曲作詞が終了した。
エナドリ2本分のカフェインゴリ押しのお陰で作曲作詞作業は集中できた。
しかし、そんなゴリ押しカフェインタイムも終わりが近づいてきた。
「ふぁーっ……急に来たなぁ」
俺は作業を終えた安心感で一杯になるのと同時に緊張から解放されたせいで一気に眠気が来た。
俺は目を擦りながら、自分の布団にダイブした。
澪の歌声はせめて今週中で良いとして、MIX師とMVを作ってくれる人は明日にでも見つけないとな。
絶対に復活させる。
俺は布団に仰向けで寝て、拳をあげた。
それから、俺は気絶されたように物の数秒で眠りについた。
◆◆◆
「お母さん」
蒼君の下手なりに頑張った慰めのお陰で私は久しぶりに深い睡眠を得らました。
9月10日、私が数日ぶりに朝ごはんを食べるためリビングに出向いた。
お母さんはほんの少しだけ目を見開いた。
そんな反応をするのも仕方ないと思う。
私は蒼君が来る昨日までずっと引きこもっていましたから。
寝て起きては泣いて、それの繰り返し。
生産性のない毎日を送っていましたからね。
「元気になったのね?」
「うん…心配かけてごめんなさい……」
私は深々と頭を下げました。
お母さんが私に対してとっても心配していいたはず。
決まった時間に、私の部屋の前にご飯が置かれていました。
一回だけ食べようと試みたけど、何回も、いつも以上に咀嚼して小さくしたのに、一切私の喉は通さなかった。
そんな申し訳ない気持ちで埋め尽くされていると。
「澪、顔をあげて?」
私は言葉通りに顔をあげました。
その瞬間、私の体はお母さんに抱き寄せられました。
「頑張ったわね、えらいわ」
「……うん…」
蒼君とは少し違った暖かさ。
それでも、根本は変わらない。
私の頬には、一筋の雫が流れました。
お母さんは『頑張った、頑張った』と連呼しながら背中を摩ってくれた。
私が泣き止むまでの数分、私はお母さんの腕の中で、赤ちゃんの様にたくさん泣いた。
「……お母さん、話があるの」
「お母さんでも力になれるかしら?」
私は力強く頷きました。
「率直に言うと、パソコンなどの機材を買ってください」
お母さんはブルーベリーの紅茶を一口飲んで、食台に優しく置いた。
「わかったわ」
「良いの⁈」
「でも、二つ条件」
条件……まぁ、それは仕方ないと思います。
今回の炎上も多分蒼君の慰めが無かったら最悪自殺まで行ってたかもしれませんからね
私はお母さんの目を真剣に見つめた。
「一つ、炎上とか、何か問題が起きたら絶対に1人で抱え込まない」
「うん」
「二つ、やるからには全力で、中途半端に引退したら許さないわよ」
「わかった」
お母さんの言葉には重みがあった。
それでも、私は配信を、歌を皆さんに届けたかった。
「お父さんには私が言っとくから、蒼君と機材でも買ってきなさい、お金は大丈夫だから高性能でも良いからね」
私は言葉を聞いて蒼君の速攻でメッセージを送った。
すると、お母さんが少し呆れた風にため息と目で私を見つめてきました。
「貴方達は許嫁同士なんだし、澪が蒼君を起こしに行ったら?そっちの方が向こうが寝てても確実よ」
私の体温が上がっていくのを感じる。
あ、蒼君を起こしに行く…盲点でした…
確かにそっちの方が確実ですし、蒼君の寝顔を拝めますしね
私は朝ごはんを今までにないぐらいに早く食べた後、蒼君の家の合鍵を持って家を出ました。
家に着き、鍵を開けると、そこには大好きな匂いが蔓延していました。
私は蒼君の嗅いだだけで安心してしまう魔の匂いを満足できるまで嗅いだ後、家に上がり2階に向かった。
「蒼君、蒼君」
ノックをしながら名前を呼びましたが応答がありません。
入りますか
私はドアを開けて部屋に入った。
そこには、赤子のように、安心しきった寝顔を浮かべながら、規則正しく可愛い寝息を上げている蒼君がいました。
机の方を見ると、電子キーボードとカフェインが多く入っているのを売りにしているエナジードレインが2本置いてありました。
私のために頑張ってくれたんだなと思うと、自然と心の奥が暖かくなった。
私は恐る恐る、近づいて頬を押してみた。
「ん…ぅ」
可愛いすぎるぅ!
私は握っていたスマホでカメラを起動して、蒼君の寝顔をバッチリと写真に収めました。
私は蒼君の体を横に擦りながら起こそうとしました。
「蒼君!蒼君!」
「ん…あぁ、澪か…どうした……」
蒼君は私に起こされると、何回も目を擦り、私がここに着た理由を問いただしていた。
「9時にパソコン買いに行きましょう」
「は!?」
蒼君はさっきまで二度寝したそうな雰囲気を醸していた束の間、私の言葉が聞こえると、蒼君は、こいつ何言ってるんだ?とでも言いたそうな雰囲気を醸し出していた。
まぁ、驚きますよね
「いや…え、まぁ、良いけど…」
蒼君は未だに状況を読めてなさそうだった。
普段は取り乱すことのない蒼君が、少しだけ取り乱しているのを見ると、ほんの僅かにニヤけてしまいました。
「一旦準備があるから、1階で適当に寛いでてくれ」
「わかりました」
私は軽やかな足取りで、1階に降りました。
咲茉ちゃんにも今までありがとうって言っとかないと。
私は、食台の椅子に座り、スマホでチャットアプリを開き咲茉ちゃんのアイコンをタッチし、咲茉ちゃんにメッセージを打ち込んだ。




