第86話 黒の女神は彼シャツデビューした
ピ、ピ、ピ、ピ、ピリリリ、ピリリリ――
「ん……朝か」
何回か目覚まし時計の音が部屋に響いた後、俺は目覚まし時計の暴走を止めるために、重い体を起こしてボタンを押した。
外からは雀の鳴き声が聞こえてきており、特段と変わらない日常の始まりを案じているようだった。
「えっと。今日はアミューに行って、小型監視カメラを購入して…ついでにゲーセンに行って音ゲーをしようかな」
俺は、今日の予定を確認した後1階に降りた。
えーっと、何だこれは?
俺は2階から1階に降り流れるように澪に挨拶をして、澪が作ってくれた朝ご飯を食べるはずだった。
普通だったらそうなるはず、なのに今、この時点で普通の1日じゃ無くなってしまった。
「お前、何着てるの?」
「ふぇ?」
「ふぇ?じゃねーよ!」
俺は澪の頭めがけてチョップを繰り出し『いっ……』と澪は頭を抑えながら少し涙を浮かべていた。
何故俺が澪の頭めがけてチョップしたかと言うと、澪が今着ている服がネグリジェではなく、俺が普段部活に行くときに着る練習着だから。
これが所謂彼シャツというものなのか……いやぁ、まぁ悪い感じはしないけどさ、せめて借りていいかぐらいは聞いてほしいかな。
しかも、問題なのは可愛いという点なのだ。
澪は今、俺の黒の服でバスケのボールとリングが書かれている服を着ているのだが、なんというかまぁ…ワンピースみたいな格好になってしまった。
……ん、待て、てことは今もしかしてスボンはいてない?いやまさかね
俺の心臓の鼓動が急にうるさくなったのを感じる。
俺の練習着からは真っ白の、ほっかいどうのゆきってこんな感じなのかなーと妄想できるぐらい真っ白の足が俺の服から生えてきている。
「澪って身長何センチ?」
「むぅ…それは女の子に聞かないほうが良いですよ……」
澪は頬をぷくーっと膨らまし、俺からプイッとそっぽを向いた。
多分155とかかな?
澪の脚は、膝は見えるが、太ももは半分以上隠れてしまっている。
これはこれで可愛いと思ってしまう
「153……です」
「ちっちゃいね」
「っえ……もういいです!」
澪は俺から『ちっちゃいね』と言われると、ソファーのクッションに顔を埋めてしまった。
「私のコンプレックスなのに……」
「ごめんごめ…ん……ん?」
澪は今、足をジタバタさせながら、クッションに顔を埋めている。
その際にちらっとパンツをはいているか確認した。
結果、俺のズボンもパクられていた。
少しだけノーパンを期待した自分もいたがズボンをはいてくれているお陰で俺の悪魔は消えていった。
まぁせめてズボンぐらいは自分のでお願いしたいけど
澪は、十分泣いたのか、ソファーの上でクッションを胴体と脚で挟みながら体育座りをした。
「だったら、モンブラン……くださいね……」
澪はチラチラと俺の顔を窺いながらチラ、チラチラっとたまに視線を向けてきた。
俺はこのまま見とれていたら俺の心臓くんに悪いと判断し、少しだけ目を癒して朝ご飯であるチャーハンが置いてある食台に座った。
「前のモンブランで良い?」
「を2個……」
「えぇ…」
澪は少しだけ目を輝かせて、もしかしたらと思って2個と我儘をいったのだろう、俺が少しだけ嫌な雰囲気を出したらまたクッションに顔を埋めてしまった。
「わかったよ…買ってくるから泣き止め、もう子どもじゃないんだから」
「まだ子どもですー」
「保育園生と同レベって可哀想だね」
我ながら良きカウンターだと思う。
澪は俺からカウンターを浴びせられたせいでまたソファーに横になり足をジタバタし『子どもじゃないですー!』とクッションめがけて発狂していた。
「それ以外は何もないね?」
俺は確認のため澪に聞いてみた。
電車の中で、『これも買ってきて』って言われたらだるいからな。
「……私は子どもじゃないって言ってください」
「えなんで?」
「早く言ってください!」
「あ、はい…」
澪は急に立ち上がり、食台に近づき怒りが入った声色で俺に言ってきた。
「澪さんは子どもじゃないです」
「もっと!」
もっとか……
俺はいつも思っていることを試しに言ってみた。
「澪は俺にとっていないとまともに生活できないぐらい大切な人です」
「え、ちょ……っ」
この女ってさ攻撃性能は高いのに防御カスすぎじゃね?
俺は普段から思っていることを口に出しただけなんだけどなぁ。
「澪は視線を泳がせて、『大切……大切…えへへ』と独り言を呟いている。
俺の聞こえない音量で喋って欲しいんだけどな。
俺は、一人トボトボと歩いてソファーに戻って悶えている澪を見ながら澪特製のチャーハンを食べた。