第76話 この程度だったら大丈夫
由依さんからの誘いがあった昼休みが終わると、その後の授業は楽な教科だったので適度に内職をして部活の時間まで有意義に過ごした。
「はぁ、はぁ、はぁ……水」
31秒でサイドライン間を3往復するというカスみたいなランメニューを終え、水筒が置いてある用具倉庫に棒みたいにヨレヨレな足で向かった。
すると、キャプテン——伊東祐介さんが各部員の名前が書かれたマグネットをホワイトボードに貼っていった
「8分のゲームをするからホワイトボードに貼られてる1年は赤ビブス着て」
そして、1年生大会が後3週間後にあるという理由で2年生と試合形式をする事ことになった。
えっと、俺の名前は……あった、これがスタメンなのかな?だとしたら俺としてはめっちゃ嬉しいのだが。
ホワイトボードには康太郎、久則、義隆、志歩、俺の名前が書かれたマグネットが貼られていた。
「2分後ね」
副キャプテンである康太郎の兄——島津宗汰がタイマーに2分入れた。
この貴重な給水時間を無駄にはしたくないので、汗をタオルで拭き、急いで赤ビブスを取り、水筒でいつもより遥かに美味いと感じた水を飲んだ。
「俺がメインで運ぶ予定だけど、多分無理だから蒼さん来てくださいよ」
義隆がタオルで汗を拭きながら、俺に向かって言ってきた。
バスケのルール上相手のオフェンスが始まった瞬間からずっとディフェンスついて8秒間守りければ理論上ずっと攻撃できる。
しかし人間誰しも体力は有限。
そんなディフェンスができるのは序盤か交代で出てきた人ぐらいだろう、しかし、この世界イレギュラーな人もいる。
祐介さんはインターハイ予選の3回戦、第3クオーター残り4分の時、オールコートマンツーマンで見事に8秒間守ってみせた。
そんな人につかれる義隆……可哀想だなー。
「わかってるよ、これで8秒ばっかだったらおもんないし」
そして、話し合いをしていると、すぐに楽園の2分間が終わった。
「康太郎、ジャンプボール」
義隆のいつもとは少し冷たさを感じる声で康太郎に指示をした。
「点は決めたいな……」
そして、もう一人のマネージャーさん――赤羽芽依がボールを上げてくれた。
ジャンプボールは芽依さんが上げるのが下手で、俺らよりになったため康太郎が勝ち、俺等からオフェンススタートになった。
無事、義隆はボールをキープしている
すると、インサイドで体を張っている康太郎を手招きで呼び、スクリーン――攻撃側の選手が自分の体を使い、ボールを持つ味方や持っていない味方のディフェンスの進行方向に入り邪魔をするプレーのお陰で、義隆は自分のマークマンを抜く事ができ、そのままレイアップを撃とうと勢いよくリングに向かった。
しかし先輩方もただシュートを撃たせるのではなく、俺のマークマンがヘルプに行った。
義隆はそんなの読めてましたー、みたいな感じでノールックで俺の欲しかった所にパスをしてくれた。
直ぐさま俺はスリーを撃ち見事にスパっと音を立てながらリングに吸い取られていった。
その後も一進一退の戦いが!
――となりたかったが現実は俺の得点はこの後に一回パスフェイクからのレイアップだけで、36対17で俺達の完敗だった。
「じゃ、今日の練習は終わりだから1年生は怪我を特にしないでね、解散」
「マジで先輩たち強すぎだよな」
「わかる、目の前でのダンクは怖い」
宗汰さんが速攻で走っていたので俺もダッシュして守ろうとしたが、そこからあの人は一切角度を作らずリングに正対し思いっきり飛んで右手でダンクをした。
流石康太郎の兄、身体能力はその長身から考えれないスピードとジャンプ力、俺は見上げることしかできなかった。
「俺も祐介さんのディフェンスのボコされたなー」
バッシュの靴紐をほどいていると、横から義隆が言ってきた。
「あんなディフェンスは普通いないでしょ」
「マジで抜けない」
俺等は用具倉庫で少し反省会をしていると、遠くで由依さんがこちらを見ていた。
俺はなんだろうと思ったが、約束していたのを思い出し『ごめんもう帰る』と言い外に向かった。
「すいません、遅れました」
「いや、良いよ……じゃあ行こっか」
そして、由依さんはひらりと一回転して俺の先を歩いた。
それから少し雑談をして、学校から離れた時俺は疑問に思っていたことを聞いてみた。
「なんで、部活後に時間があるなんて聞いたんですか?」
「……弟の誕生日が近くてさ、弟もバスケをしてるんだけどやっぱり誕生日プレゼントはバスケ関連の方が良いじゃん?だから付いてきてほしかったんだ」
由依さんはこっちを見ずにずっと真っ直ぐを見ながら話した。
そこからスポーツ用品店までは互いに一言も話さなかった。
◆◆◆
「オススメなのはまぁコイツラですかね」
俺が指を指したのはストレッチポールとバランスボールだった。
「理由は?」
「まぁ、ストレッチをする週間を中学生からつけておいて損はないですし、バランスも有って損はないですから、それにバランスボールは椅子としても使えますしね」
由依さんは『なるほどー』と声を漏らしていた。
「ありがとね、柊君」
「いえいえ、この程度だったら大丈夫ですよ」
由依さんはバランスボールとストレッチポールを会計に持っていった。
「この程度だったら大丈夫かな」
一緒にご飯とかだったら流石に少しは嫌だが弟の誕生日プレゼントを買いたいだけだったら別に良いでしょう。
俺は澪に『今終わった』と送り外に出て由依さんを待った。
 




