第75話 部活後の約束
せっかく澪が作ってくれた弁当は、康太郎達と離れた後は病院食みたいに味が薄く感じたりした。
その上急いで食べたので、満腹にもならなかった。
最悪な気分だった。
「では、行きましょうか」
澪も弁当を食べ終わったらしく、咲茉に弁当箱が入った小さなバックを預け、俺の腕を掴んできた。
「がんば」
澪に連れ出され、咲茉の隣を通った時に小さくそう聞こえた。
俺は咲茉にだけわかるように小さく親指を立てた。
澪は他の人にバレないよう、普段は使うことがない旧校舎から回って体育館裏に向かった。
見事に人と会うことが無かったのは良かったが、澪から発せられる負のオーラは徐々に強くなっていった。
俺は一生懸命言い訳を考えて、後は角を曲がるだけ。
終わったなーなんて呑気に考えていたら『え……』と少し困惑が混じった声が澪から聞こえた。
俺も向こう側にいる人にバレないように聞き耳だけを立てて見た
「ここで―――そして―――練習後に誘ってみよう」
内容はあまり聞き取れなかったが、澪は1人で何かボソボソと呟いていた。
聞き覚えある声で誰だろうと思っていると
「ついてきてください」
「っえ、澪?」
俺は戸惑いを隠せなかったが、それをかき消すように
澪は俺の腕を掴みここから離れるように早歩きで校舎に向かおうとした。
しかし、澪の願いは届かなかった。
「あ、蒼君」
そこには、澪には劣るが、大和撫子を彷彿させる十分に綺麗で癖一つない少し茶色が入った黒髪ロングの女性
――青井由依がいた。
「お疲れ様です、由依さん」
俺は澪の手を振り解き『っあ……』と少し悲しそうな声が聞こえたが、桜島高校男子バスケットボール部に入っている者ならマネージャーを国宝のように扱えと教えられたので、すかさず社交辞令とかしているお疲れ様ですと言った。
「今日の部活の後、時間ある?」
えーっと、確か今日の部活後は特に何も無いかな
「良いですよ」
俺はそう言うと、澪は何故か裾を掴んできた。
「じゃあ部活が終わった後ね。バイバイ」
由依さんはスキップをしながら帰っていった。
へー、清楚を擬人化したような由依さんでもあんなにウキウキするんだな
俺は由依さんの新たな1面に少し他の部員が知らない優越感に浸っていると、後ろから大して痛くないグーパンが飛んできた。
「はぁ……もう良いです、帰りにモンブランと添い寝でお願いしますよ」
「オッケー、大丈夫、俺は澪しか見えてないからさ……っと」
澪は俺の発言を聞いた後、顔が真っ赤に染まり澪の定位置である胸に突撃してきた。
俺は澪しか見えてないというのは事実である、現実問題俺はクラスの女子全員の名前を覚えてもいないし、声だけで由依さんって判断もできなかったしな
「信じてますよ……」
「まかせんしゃい」
俺は澪の頭を撫でた。
澪は目を細めながらえへへと言っていた。
……てかさ、大体澪の頭撫でてるけど、飽きたりしないのかな
俺は澪をあやす時には頭を撫でる以外の事をしないのだが、もう少しレパートリーを増やすべきなのだろうか
「でも、私が手を振ったのに無視は流石に心に来ました……」
あ、本題来たな
「いや、でもさ――」
「言い訳は見苦しいですよ」
澪は俺が言い訳をするのを見透かし、追い打ちをかけてきた。
今後はバレない程度に振り替えそう
少しの説教タイムを何とか乗り越え時間を分けて、澪から帰らせた。
澪は一緒に校舎まで行きたいと言っていたが、念には念を入れたいので我慢してもらった。