第73話 黒の女神に申し訳ない
「じゃあ、行ってくるよ」
「っあ、待ってください」
俺は昨日の出来事のせいで学校に行きたくないが、久則と康太郎が広めてないと信じて木曜日なのに月曜日並の足取りの重さで玄関を開けようとしたが、リビングから澪が一際大きな声で俺を呼びとめていた。
俺はなんだろうと思い後ろを振り返ると、その瞬間に俺の鼻腔が甘い匂いに刺激された。
――澪が俺に抱きついてきたのだ。
「蒼ニウムの補給です……」
「新元素作らないでください」
俺は澪を少し強く抱きしめ、澪ニウムを接種した。
「朝練頑張ってください」
「あぁ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
月曜日並のクソ重い足取りが澪ニウムのお陰で金曜日と同じぐらい軽くなった。
それからも、運良く電車の中でも座ることができたり、ゲームのガチャでも目当てのキャラが引けたりと良いことずくめだった。
これからも定期的に澪ニウムを接種していこうと思う
電車に揺られ20分、徒歩10桜島高校に着き、俺はバックを部室に置き、バッシュとタオルだけを取り体育館に向かった。
体育館からはボールをついている音やリングにボールが当たる音が聞こえてきたので、中には数名人がいるのだろう
「お疲れ様です」
俺は先輩たちにお疲れ様ですとだけ言い用具倉庫の中でバッシュを履き、靴紐をを結んでいると、体育館の入口からバカほど大きな声でお疲れ様ですと聞こえてきた。
その声の主は、勢いよく倉庫の中に入ってきた。
「よぉ、黒の女神とシューティングしてた男」
久則が置いた爆弾は先輩たちに聞こえなかったから良いものの、俺は動揺を隠すことができなかった。
「おいバカ!」
「めんごめんご、大丈夫広めてないからさ」
「お願いしますよ、向こうにも迷惑かけるかもしれないんだから」
「はいはい」
澪の豆腐メンタルだったら絶対に何か起こるもんな、普通に俺もその処理がだるそうで嫌だねぇ。
「じゃ、俺の練習に付き合ってくれたら絶対に言わないよ」
昨日の時点で言わないって自分から言ってただろ。
俺は頭の中でそうツッコんだがそれを口に出すことはしなかった。
「ディフェンス付けば良い感じ?」
「うん、よろしく」
俺はボールを一つ取り、先にまだ使われていないリングに久則と向かった。
「ダブルクラッチしてよ」
「あー、良いけど」
「うん」
俺は久則からボールをもらい、右足で飛びそのまま左手でレイアップに行くと見せかけ体を捻り反対側に行き、左手でスナップを掛けて決めてみせた。
「よく飛ぶねーほんとに」
「まぁ、下半身をメインに筋トレしてるからな」
久則は俺のダブルクラッチを褒めてくれた。
「じゃ、俺がレイアップに行くときに蒼は俺のことを押してくんね」
なるほど、体制が崩れても決めきれる練習か、実際だとフリーで撃てる機会のほうが少ないしな。
俺は実践を常に意識している久則に感心した。
「最初は突っ立てて」
久則は左手でリングに向かってドリブルし、左足で地面を蹴り、俺にぶつかりスペースを作りそのまま右足で飛び左レイアップを決めた。
相変わらず久則の体は強く、なんとか尻もちを付くことは避けれたが俺と久則とのスペースは結構あった。
久則のフィジカルを語るうえで外せない話といえば、前の練習試合でディフェンスをぶっ飛ばしたことだろう、流石にあの時は練習試合中で集中していたが、マジかよと思ってしまった。
「次は俺を押し返してくれ」
「オッケー」
とまぁ、容易く返事を返したが、絶対にフィジカルは負けるしなぁー、ワンチャン筋トレのお陰で勝てる説もあるのか?いや、下半身の筋トレをメインにしてたから、フィジカルに直結するわけないしなー
俺は久則が来たので俺は思いっきり押した。
久則の体は少しだけ不安定な体制になったが、それでも放たれたシュートはバックボードに当たりリングに入った。
それから、俺は久則のサンドバッグになり、ずっと体をぶつけられていた。
「もうやめるか、蒼、帰ろうぜ」
「あいよ」
「りんごのかわりにボールですか……やっぱり、りんごじゃないとだめだね」
「やっぱりバスケって面白い!」
「あっそ」
久則は俺のボケを華麗に避け、シャワールームに向かった。
俺も久則の後をついていく形でシャワールームに向かった。
「てか、今日は康太郎来なかったな」
「それな…まぁ何かあったんでしょ」
俺は持ってきたシャンプーとボディーソープを久則に貸し、汗臭くない状態で教室に向かった。
校舎の中で居室に向かう途中澪が見え、向こうは小さく手を振ってきたが、久則が俺に喋りかけていたので、澪には申し訳ないが無視をした。
ここで手を振り返したところを久則や他の生徒にだけは見られたくないからな、仕方なかった。
――もし、俺がタイムリーパーだったら必ず9月2日の午前8時30分、1年3組前の廊下に戻っているだろう、もう少し先を見る目が欲しかった。
それほど俺と澪からしたらめんどくさい事に巻き込まられてしまった。
 




