第72話 多分大丈夫……のはず
リング直しって言いてもボタン一つ押せば勝手に直してくれるんだけどね。
俺は体育館の隅に掛けてあった、リング直しリモコンを取りリングに向けってボタンを連打していると。
「あれ、蒼何してるの?」
俺はこの時自分の耳を疑いたかった。
なぜ康太郎の声が聞こえるのだろう。
内心で叫びながら俺はオンボロの人形みたいに、ゆっくりと顔を動かした。
「ただのシューティングだよ…あはは……」
やばいって、何でいるんだよ!
康太郎は俺の心を悟っているのでは?と疑いたくなるほどジーッと俺の目をガン見していた。
もちろんそんな事をされて平常を保てるわけも無く、徐々に視線をずらしていった。
しかし、次の久則のセリフが聞こえてきたせいで、俺の背中にはナイアガラの滝が構成されてしまった。
「康太郎、こっちに柳田さんいるんだけどー」
まてまて、あいつ隠れるならもうちょいマシなところに隠れろよ。
用具倉庫なんて絶対に人が入ってくるに決まってんじゃん。
俺の視界には、トラス構造の骨組みと目を細めるほど明るくない照明が埋め尽くしていた――俺は天を仰いでしまったのだ。
「なぁ。蒼さんや」
「わかってる…説明するから、久則と澪を呼んでくれ」
「わかった…おい久則、こっちに来い」
さぁーて、考えろ俺。
どんな言い訳を言えば少しでも澪の負担を減らせる。
1番やっちゃいけないのは俺等夫婦宣言、久則とか絶対に広めるに決まってる、そうなると俺もだるいし澪にも迷惑がかかってしまう……
俺はかつてないほど脳をフル回転させた。
そして、俺は一つ、最適解ではないかもしれないが夫婦宣言よりまともな策が出てきた。
「えっと……なんで蒼と柳田さんが2人でいるのかな?」
久則は腕を組みながら、仁王立ちで聞いてきた。
澪はそんな姿に少し萎縮したのか、俺の練習着の裾をさりげなく掴んでいた。
「……絶対に他の人に広めない?」
「もちろん」
久則は少し不気味な笑みを浮かべていた。
絶対に広める奴の顔やんけ。
俺は脳内で神に祈りを捧げながら、口を開いた。
「康太郎は知らなかったと思うけど澪と俺、久則って同じ小学校中学校出身だったんだよ」
「え、そうだったの!てかお前らそれ早く言えよ」
「いや、別に中学校とか小学校の話とかどうでもいいだろ」
「俺も久則の考えだったから言わなかったんだけど……で、何故澪がここにいるかというと、久則も知らないと思うけど、俺と澪の家ってめっちゃ近いんだよね」
「マジかよそれ……じゃあ、柳田さんの家の前通ったことあるのかよ」
「うん、それで、まぁ少しだけ仲がいいわけでちょっと手伝って欲しいってお願いしたら良いよって言われたわけ」
まぁ、澪って中学時代マジで特定の人としか喋ってなかったもんな。久則が知らないのも仕方ないよな
「……なるほど……これ以上深堀りするのもやめるか」
「え……」
久則はもっと何か言ってくるだろうなーと思ったが……まぁ、俺からしたらそっちのほうが嬉しいのだが
「じゃ、俺らはもう帰るから」
俺は足早に澪と出ていった。
「蒼君、明日からどうなるんでしょうね?」
澪は俯きながら明日からの学校生活を心配しているようだ。
「まぁ、あいつらも流石にこれは広めていい広めちゃいけないの判断ぐらいできると信じるしかないよな……なんとかなるさ、とりあえず寿司に行こうか」
俺は澪を少しでも元気になってほしかったので、さっき言っていた夜ご飯の話を出してみた。
澪は簡単にご飯で釣れてしまった。
そして、近場の回転寿司チェーンに入った。
◆◆◆
「やっぱり寿司と言ったらイカですよねー」
澪は大食い番組に出場できるのでは?と疑いたくなるほど良い食べっぷりを見せていた。
「お前、エビ以外も食えよ」
「もちろん食べますよ……あ、蒼君のイカも来ましたよ」
俺は新幹線の模型で運ばれてきた、イカ3貫と甘エビ2貫を手に取った。
「蒼君も言えませんよね、イカと甘エビばっかり、ちゃんと他のネタも食べないと大きくなりませんよ」
お前がな、どう考えてもお前は女子の平均身長にも達してないだろうが
そんな事を思いながらも、俺と澪は美味しく寿司を食べた。




