第65話 俺は黒の女神をいじめたい
俺は正直早く寝たい。
澪とのイチャイチャ自体は嫌いじゃない、てか、俺は好きな方だ。
合宿の時は澪がいないせいで寂しい気持ちにもなったしな
でもね、もう睡魔に抗えれないんだ
彼女の前にしゃがみ込むと、驚いた顔をしている澪の膝裏ろ肩甲骨あたりの場所に腕を回し一気に抱き上げた。
「えっ、蒼君!? ちょっと待ってください!?」
澪の声が少し上ずる。
俺の腕の中で、小柄な体が軽く揺れた。思った通り、彼女はとても軽い。本当にご飯くってんのか?と疑いたくなるほど軽い。
何か言いたげにこちらを見上げているけれど、その雪のように真っ白の頬はうっすらと赤く染まっていた。
「何って、澪を布団まで連れて行くだけだよ。このままだったら澪はどいてくれなさそうだし」
「そ、そんなこと…言ってくれたら開放してあげましたのに……!」
「いや、こっちのほうが早いからさ」
彼女の抗議をさらりとかわしながら、布団が敷いてある部屋に向かう。腕の中で澪が少しモゾモゾと動く感触が伝わってくる。その仕草すら愛おしく感じるのは、彼女だからこそだろう。
布団の前に着くと、そっと膝をついて彼女を下ろした。まだ少し恥ずかしそうにしている澪が、こちらをじっと見つめる。
「お姫様抱っこなんて…蒼君、本当に突然すぎます」
「俺の睡眠時間を減らそうとするお前が悪い」
冗談めかしてそう言うと、彼女はぷいっと顔を背けてしまった。
でも、その耳が赤く染まっているのを見逃すほど、俺は優しくない。
俺は澪の耳に優しく問いかけた
「おやすみ、澪」
「っ!……おやすみ…なさい……」
澪が布団の中に入るのを見届けて、俺は深い睡眠にはいった。
彼女の安心しきった表情を思い浮かべながら、自然と頬が緩む。
やっぱり澪には、無理させたくない。
そんなことを思いながら、俺は部屋の明かりをそっと消した。
◆◆◆
8月20日
カスみたいな香川合宿を終え家で適当にメロディーを考えては消して、また書いては消してを繰り返していると
こんこん
ドアをノックした音が響いた。
「蒼君、お昼ごはんです」
「ん、あぁ、今行くよ」
俺は澪をできる限り待たせないように、1階に足早で降りた。
そして、リビング行くとキッチンから香ばしい匂いが漂っていた。
「今日は唐揚げです夜も唐揚げになりますがよろしいでしょうか?」
「あぁ、澪の唐揚げだったら何杯でもご飯が食べれるよ」
「ふふ、それは嬉しいですね」
澪はフリルの付いた可愛らしいピンクのエプロンをたたみ、冷蔵庫からゴマドレッシングを取り出した。
「蒼君、今日お買い物に行きませんか?」
「良いけど、もしかして市内?」
流石に市内だったらちょっと厳しいかな、疲労で買い物途中ぶっ倒れるかもしれないし
「いいえ、スーパーに用事があります」
「おっけー、じゃあ2時に行こうか」
「わかりました」
俺等は隣同士に座り、『いただきます』と声を出しはしを唐揚げに伸ばした。
俺は感激してしまった。
お母さんの唐揚げより美味い…
衣が歯を立てるたびにパリッと心地よい音を立て、中からじゅわっと肉汁が溢れ出した。その瞬間、濃厚な旨味が舌の上に広がる。絶妙な塩加減
完璧だぁ
「……これ、ヤバい。めちゃくちゃうまい。」
思わず言葉が口をついて出た。
「そ、そうですか?」
澪が少し恥ずかしそうに俺の顔を覗き込む。その視線を感じながら、俺はもう一個、そしてもう一個と唐揚げを次々に口に運んだ。
よく、食レポで芸人さんやアイドルが『箸が止まらない』と言うが……まさにこのことだったとは。
比喩表現じゃないんだな。
「これ、どこかの店で買ったの?」
「ち、違いますよ! 私が作ったんです!」
澪は『もう!」と少し怒りながらぷくっと頬を膨らませる。
でも、その表情もどこか誇らしさが見える。
うーわ、家の嫁ちゃんバカ可愛いな
「ごめんごめん」
おれは澪の頭を慰めるため優しく撫でた。
「むぅ、撫でられるだけで私は簡単に許すとでも思ったんですか?」
「じゃあやめる」
俺は澪がどうせなんか突っかかって来るとわかるのでここは素直に引いてみた。
案の定、俺が撫でるのをやめたら少し名残惜しいかったのだろう『っあ……』と漫画だったらしゅん……と横のスペースに書かれるだろう。
そのぐらい自分からわかりやすく悲しいです宣言していた。
「はいはい……でも、定食屋に出てきてもおかしくないと思うぐらい美味かったんだ」
「そうですか……そう言ってもらえると嬉しいです」
にしても……まじでうめぇなこれが夜にも出てくるって考えると……
俺は改めて自分が幸せ物なんだと思った。
俺は澪特製唐揚げ5つと米を2杯食べ満足なお昼ご飯になった。
俺と澪は2人で手分けして食器を洗っている時、ふと思ったことがあったので聞いてみた。
「因みにスーパーで何買うの?」
すると、澪はあからさまに動揺の色を表し、食器をシンクに落としてしまった。
幸い、割れてはいないので澪も俺も怪我はしなかった。
澪は『すいません……』と申し訳なさそうな声色だったが、耳まで真っ赤に染まっていたので、俺には知られたく無い物でも買うつもりなんだろう
「……その、えっと……」
俺は脳をフル回転させ多分こいつが買う物を予想した。
俺が予想した物は正直合宿期間でいない時に買ってほしかったが……まぁ、みないように頑張ろ
この時はまだ、ただの買い物だと思っていた。
——誰しもこうなるとは思わないだろう




