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第55話 八方美人

「へぇー、八方美人さんにも彼氏できたんだ」

「ちょ…やめ…やめろって、堪えれないって」

「いやいや、もう出ってるっつーの」


目の前でしょーもない会話が繰り広げられている中、おれの隣には酷く青ざめている澪がいた


おれの澪にこいつらは何かしたんだろう、それこそ酷く怯えるほどの虐めとかな

流石に見逃せませんな


花火は今頃1番の盛りやがりを迎えているのだろう、周りからは感嘆の声が響いており、普段だったらあの轟音は風景に魅入っているせいであまりうるさいと感じないのに

この瞬間はうるさかった。

早く終わってくれと思った


おれはこいつらに話しかけようとすると、澪は後方に走り去ってしまった


「っ!」

「って、澪!」

「あーあ、だから囲んだほうが良いって言ったのに」

「折角泣き顔をもう一回見れそうだったのにー」

「めんごめんご」


は?

こいつ今囲んだほうが良いって言ったか……

それに泣き顔って


おれの胸にはたった一つの感情で埋め尽くされていた

――殺したい

自分の嫁を囲って虐めるところなんて誰も見たくないだろう

せっかくの夏祭りが全然楽しくない祭りになったな


「彼氏さんはなんであんなゴミが八方美人って呼ばれてるか知らないっしょ」

「あれが教える訳なくね」

「ははは、確かに」


ゴミか

おれはできる限り胸に収めた。

ここで騒ぎになるとめんどくさい


「折角なら精神を完璧に壊せるまで虐めたかったけどね」

「黙れよ、養豚場出身の豚ども」


できる限り相手の精神に傷をつける言葉を残しおれは、ゴミ共を置いて、澪の元に走った


◆◆◆


なんでいるんだろう

なんであの人達と再開してしまったんだろう

なんで、なんで、なんで


「もう、嫌だよ」


地面には私の頬から下垂れ落ちた綺麗な雫が一つ落ちました


助けてよぉ、蒼君


早くあの人の胸に飛び込みたい

早くあの人に抱きしめられたい

早くあの人の体温を感じたい

早くあの人の私の好きな匂いに包まれたい


私はもう、蒼君無しでは生きていけないのかもしれません

私は蒼君の優しさに甘えてばかり、何故八方美人って言われていたのかも教えてない私は彼の隣にいても良いのでしょうか


「澪!」


周りにはおそらく今からサマーナイトに向かおうであろう家族、友人達、カップル達がいる中、後ろからは私の夫

私の最愛の人

私の生きる希望


そんな彼の声が聞こえ私は無意識に後ろを振り返りました


「蒼、君…ぐす」

「抱え込むなって、ここでたくさん泣いて良いから」


蒼君は両手を広げ、私を迎え入れる準備をしてくれた。

私はそんな彼の行動に甘えました


私の壊れかけた心は蒼君で癒されていくのを感じます


私はそれから蒼君の胸元に私の涙でシミが出来るまで沢山泣きました

はしたないかもしれない姿をお見せしても蒼君はずっと優しく背中を摩ってくれました


「どう、泣き止んだ?」

「はい、ぐす、ありがとう、ござい、ます」

「……澪に見せたい景色があるから着いてきてくれない?」

「わかり、ました」


それから私はあまり覚えていない

ただ蒼君についていき、歩いてバスに乗って階段を登っただけでした


気がつくとそこには城山展望台という文字が書かれていました


「澪」


城山展望台着く頃には少しだけまともに受け答えできる程度には回復していました


「なんですか?」

「10秒だけ目を瞑って、おれの腕をぎっしりと掴んでね」

「わかりました」


そこで見た景色は今までに見たことのある絶景よりも綺麗で心に残る景色でした





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