第155話 体育祭8
「ふぅ……」
「まだまだありますよ、どうぞどうぞ」
後1時間後にクラスリレーがあるのをこいつは知らないのだろうか?
普通にこれ以上食べたら走れないし、走ってる最中に吐くかもしれないんだけど……
「なぁ澪」
「どうしたんですか?」
「次の種目はクラスリレーだからさ、これ以上食べたら動きにくいと思うんだ」
澪は少し考える素振りを見せ、すんなりと俺の受取皿を手から離してくれた。
よかったー、とりあえずこれで走りながら吐くことはなくなったかな。
美味くてまだまだ食えるんだけど流石に今は体育祭優先で考えたいよね。
「そうですよね、私の考えが甘かったです……」
ヤンデレ発動マジっすか……とりあえず澪を甘やかせばヤンデレ澪モードは終わるはず。
今は誰も見ていないだろうし、やるなら絶好に機会だ。
澪の落ち込んでしまった頭に俺は優しくそっと手を添えた。
『ふぇ?』とかわいらしい声がきこえてきたので少し頬を緩めそうになったが、何とか抑えることができ微笑みを浮かべて澪の頭を撫でた。
澪は気持ち良いのか、目を少し瞑り俺が満足しただろうと思い手を離そうとすると澪はまだ撫でてもらいたかったのか離そうとした手を掴んで自分から俺の手を操って撫でていた。
猫ってこんなかんじなのかな、いつか猫カフェを澪と一緒に行きたいな。
澪のDNAを調べたら猫との共通点ばかりかもな。
「蒼君…リレー頑張りましょうね」
「もちろん、最後方からでも一気にぶち抜いて1位で終わらしてやるさ」
それがだきたらめっちゃかっこよくてアンカーとして最高だと思う。
澪のお手製弁当を食べたお陰か体は軽く感じる。
澪は頭ナデナデを堪能したのか、次は俺の太ももに倒れてきた。
「っは?」
初めての甘え行動にどう対処すれば良いのかわからず、素っ頓狂な声を上げてしまった。
えちょ…今俺膝枕してるのか?
女子側から膝枕されに行くパターンなんて殆ど見たことないんだけど……俺もまだ澪の膝枕されたことないし、俺の柔らかくもない鍛えられた太ももに寝たところで硬いだけなんだから気持ちよくないだろう。
澪の太ももは程よい肉付きで柔らかそうだから絶対に気持ちいいだろうな。
ぷにぷにして逆に眠れ無い可能性もあるけど。
「急にどうした?」
「ん…もっとなでてください……」
でたー澪の得意技上目遣いからの甘えたい時に出す声。
この技は澪が俺に特段甘えたい時に繰り出される必殺技であり、効果としては柊蒼に必中で自分のされたい甘え行動をさせるという技である。
「んぅ…もっとぉ」
可愛すぎるぅぅぅ!
俺はただ澪の頭を優しく撫でるBOTに成り下がってしまい自我は完璧に溶け切ってしまった。
「……よしっ」
「もういいのかい?」
形式上俺は澪に甘えられている立場であるので、澪が満足げになってわいたが一応まだ欲しいか確認した。
澪は、まだされたかったみたいで少し名残惜しいそうな顔を浮かべたが邪念を追い払うように左右に頭を揺らした。
そして
「っえ?」
澪は俺の頭裏に腕を回して、自分の唇と俺のほっぺを近づかせキスをされてしまった。
そして、流れるように立ち上がった。
「私も頑張ります。
だから蒼君もアンカー頑張ってくださいね」
「もちろんだ」
これは頑張るしかないな、柊蒼よ
◆◆◆
「後半一発目の種目は2年生のクラスリレーです。
8クラスの熱いレースをご覧ください」
熱いレースね……内容はどうであれ俺は澪が怪我無く走り終えてくれたら良いんだけどなぁ。
肩にかかってあるタスキの位置調整をしながら澪の走りについて考えていた。
澪は大体真ん中ら辺でバトンを貰う、だからそれまでにできれば差を作って欲しいしそこまで美味しいことを言わずに接戦にまで持っていってくれたらいい。
澪は緊張しているのか遠くからでも見てわかるぐらい大きく深呼吸していた。
そんな澪を咲茉と陶さんが声をかけて落ち着かせようとしている。
「あぁーお願いだから俺のところに来るまでに半周差ぐらいつけててくれないかな……」
一人隣にいる他クラスのアンカー達に聞こえない程度の音量で嘆いた。
まだかまだかと待ち喚いていると。
バンッッと司会者が鉄砲でリレーの開始を告げた。
第1走者は義隆。
安定のスタートダッシュの上手さで直ぐに前を掴むと、200メートル一定のペースで走り終え後ろからの追随を許さず、次の走者にバトンを渡した。
このままこの差を保って澪まで回してほしいけど……
義隆が作った5馬身ぐらいのリードは第2走者の女子が2馬身まで追い詰められ、その状態で第3走者にバトンを渡した、
徐々に澪の順番が近づいてきた。
数分の走り合いが行われとうとう澪の番が来た。
お願いだから巻き返されないで!
クラスの女子は胸の前で両手を掴み、男は全員が立ち上がって応援していた。
澪に200はキツイって…普通に見てる俺がかわいそうになってくるんだけど。
澪は既に半周走った時点で顎が上がっていた。
彼氏である俺からしたら苦しんでいる澪は見たくなかった。
だけど、俺の眼の前を通るとき、勘違いかもしれないが走っている澪と目があった。
そして、その瞬間から息を吹き返しギアが数段階上がったようにスピーカーが倍以上に早くなった。
このまま行けば……!
澪は差がつかなければもうそれでノルマ達成なのだが、なんと逆に澪が更にさを広めてくれたお陰でまだ走っていない男女は盛り上がった。
そしてアンカーである俺にバトンが渡った




