第154話 体育祭8
「うわ、だるそう」
「仕方ないじゃないですか」
澪の爆弾発言のせいで、既に2年1組の教室内はざわざわと遠くからでも聞こえるぐらいの音量で皆話しているようだった。
少しだけ足取りが重くなりながらも何とか教室前まで来た。
澪と目を合わせて扉を勢いよく開いた。
もちろん視線は俺と澪に集まった。
先程までは廊下まで聞こえてきていた雑談も俺と澪が来たせいで少しの間沈黙が広がり隣のクラスの声が聞こえてきた。
「ねえねえ」
沈黙を破ったのは1軍女子グループのリーダーだった。
「澪ちゃんと柊君っていつから付き合ってたの?」
「1年生の頃からですかね」
「じゃあじゃあ――」
「……」
女子全員が澪に質問したいことが山程あるせいか、俺という彼氏がいるにも関わらず女子達は俺を払い除け、女子の輪が澪を取り囲んでいた。
蚊帳の外に出されちゃったんだけど……とりあえず向こうの速く来いって目で語りかけてきている男どものところにでも行くとするか。
「蒼さんよぉ、俺等に言うべき台詞があるんじゃないのかね?」
「俺と澪は恋仲でしたーパチパチパチ」
「薄々感づいてたけどよぉ……幸せにしろよな」
1組の男子って最高かよ!
男子全員は他の学年のやつらとは違い、俺と澪の二人を祝福してくれた。
肩を叩かれたり、手を握ってくれたり、逐一澪とその日何をしたか連絡しろよなとか変態まがいの言葉を言ってくれたりと冷やかす奴らは誰一人いなかった。
「そろそろ飯を食べないとな、どうせ蒼は柳田さんと食うんだろ?」
「もちろん、お前らと違って彼女特製弁当があるからさ」
「うざすぎ」
少しだけ煽って、女子に囲めれている俺のか弱いプリンセスを助けに行った。
澪も澪で女子に沢山質問攻めされているらしく対応にあたふたしていた。
助け舟を出してやるか。
「そこまで行ってないです!」
……これはもしかして澪さんそうとう恥じらいを見せてるのかな?
「蒼くぅん、だすけてぇ」
「っと…よしよし」
澪は俺の胸元に抱きついてきて、目尻に浮かべていた涙を俺の胸で拭き頭を優しく撫でた。
すると、周りの女子からは悲鳴のような甲高い声が発せられた。
「じゃあ、行こっか」
「は、はい」
澪の手を優しく掴んで俺と澪は2人で教室を出て外のベンチで昼食を取った。
外に出る際に他学年の教室の前を通ったがその時もよくない言葉が俺等の耳に届いた。
澪のガラスメンタルを考えるとこれ以上言ってほしくない、壊れそうだなと心配しながら走って目的地のベンチに着いた。
だが、俺の心配は杞憂に終わったみたいだった
「これでもう学校内でもイチャイチャできますね……えへへ」
俺の二の腕に頭を乗っけてゆっくりと弁当を袋から取り出していった。
「そうだな……」
「蒼君?」
俺が澪の考えていた答え方をしなかったせいか澪は幸せそうなとけていた瞳を、小首を傾げながら俺と目を合わせてきた。
絶対に午後の種目で澪は怪我をするだろうな。
あのクラスマッチのときに悪質ファールをした奴が俺と澪の関係を主である隻影高校の澪を虐めてた奴に報告して、澪を怪我させろとかの指示が来るんだろうな……
もしかしたら怪我が一番軽い虐め説も出てくるぐらい酷いのをしてくるかもしれない。
だけど、競技中はテント内の行き来は許されているが競技場に入るのは禁止されている。
どのみち澪を守る手段がない。
誰かに交渉して補欠枠の俺が出るってのが一番安牌なのではないのか…それか――
「蒼君」
「んぁ、どうした!?」
澪は弁当をベンチに置き、空いた両手で膝上で握りしめていた手を優しく包んでくれた。
その手は暖かく優しかった、だが少しばかり強い意志を感じ取れた。
「蒼君は私が隻影高校のスパイさんになにかされると思ってるのでしょう?」
当てられちゃった。
俺は首をゆっくり縦に振った。
「大丈夫です、根拠はありませんが蒼君の口癖を使うのなら」
使うのなら…なんだろか、てか俺の口癖ってなんだろう。
「《《直感》》ですかね」
「ははっ確かに俺の口癖だなははっ…じゃあ大丈夫だな」
「ぜったいに何とかなります、さぁお昼ごはんを食べましょう」
澪が作ってきたお弁当の蓋をあけると、そこには俺の好みのおかずが多数ありつつもしっかりと野菜も添えられている完璧な料理だった。
料理に圧巻され弁当から視線を澪に向けると、たいしてない胸を張りながらドヤ顔をしていてかわいいなぁーと思ってしまった。
「「いただきます」」
俺は澪から手渡しされた割り箸を直ぐに割、唐揚げに箸を動かした。
「うま、マジで澪の手料理だったらどんなときでも美味しく食える自身がある」
「そうですか、まだたくさんあるので一杯食べてくださいね」
澪は俺の紙皿をとり、海老フライやら唐揚げやら卵焼きやら――
流石に色別リレーとクラスリレーがこの後に構えているので俺は澪の暴走を何とかなだめて沈めた。




