第152話 体育祭6
「次の種目は騎馬戦ですので選手の人は招集所に集まってください」
うわ、招集係かわいそうだな、澪に走り回る係をさせなくてよかったな。
各クラスのテントの後ろを声を出しながら走っている招集係の人は既に汗ばんでいて息がが上がっていた。
空想の澪と照らし合わせると解像度の高い妄想ができ、なおさら立候補しなくてよかったなと思っていると。
トントン
後ろから肩を叩かれた。
「おい、義隆、蒼行くぞー」
「はいはい」
俺が参加する予定の種目はこの、騎馬戦と借り物競争とクラスリレー、最後の色別リレーの4つ。
だけど、これは予定に過ぎない、もしかしたら玉入れの選手や障害物競走の選手が怪我で離脱するかもしれないので、俺は控えとしてほとんどの種目に登録されているのでもしかしたら澪をドキドキさせる以前に疲労でぶっ倒れるかもしれない。
「騎馬戦か……これってどんな動きすればいいの?」
「そっか、お前靭帯断裂があったから参加してないのか」
義隆の『点と点がつながった!』みたいな顔を前に忘れてたのかよと呆れが混じったため息が漏れた。
……断裂なー、あれに関しては誰も悪くないから脳内で犯人を勝手に作ってそいつに暴言を吐きまくって精神を落ち着かせることもできなかったしな。
澪には男が言っちゃいけない言葉も言っちゃったしなあの時は。
「――君」
よく関係値を戻せたよな、それに関して俺は自分のプレイングを褒めたい。
「――お君、蒼君!」
「んぉ、どうした?」
澪は何故か頬を膨らませていかにも起こってますオーラを出していた。
それでも、目と目を合わせて数秒見つめ合うといつもの澪が戻ってきてくれた。
「頑張ってください」
「っ……」
あぶねぇ、俺の心臓くんが何とか耐えてくれたんだけどさあの笑顔はズルない?
女神のような慈愛に満ちた笑みのせいで殆どの男どもは死にかけてしまった。
「チッ、早く行こうぜ」
俺と義隆、海斗とともに出る、一人の男子生徒の舌打ちが聞こえてきたが俺は澪の笑顔に釘付け状態にされていたのでなんとも思わなかった。
「おい、お前いちゃつかないで早く招集所に行くぞ!」
「わかってるよ、じゃ頑張ってくるよ」
俺は澪に手を振って先に少しだけ進んでいた3人の元に走って隣に並んだ。
◆◆◆
「詰めろ詰めろ!」
現在、義隆率いる1組の騎馬隊はキルリーダーになっていた。
理由は簡単、義隆が三国志の諸葛亮孔明なみの軍師気質を持ち合わせていたから。
1組は白組に所属しているのだが、1回戦の対戦相手であった紅組は他のクラスの奴らは誰か死んでいるのに、1組は誰もかけること無く何キルもできた。
決勝の青組相手にも既に人数差が歴然なほど圧倒的な差がついている。
ヘイト管理、的確な指示、行動の読み……全てにおいてきもすぎるぐらいに指揮官としての適正値が高すぎる。
「殺せ殺せ…ナイス!」
「優勝は赤組です!!!」
「なんかさ、優勝した気にならないんだけど」
「わかる、俺等馬は主人の指示に聞いて動いただけだったよな」
それが義隆の指揮官としての強さの証明なんだろうけどさ。
上に乗っている義隆は腕を組みながら口角を上げてニヤリと笑っていた。
こいつもこいつで大概だなーなんて思っていると義隆から下ろせの合図が来たので上から下ろした。
ふと思ったのか、俺は自分のクラスのテントに視線を向け澪を探した。
そこには澪がほほ笑みを浮かべながら小さく手を叩いていた。
そんな澪を見た他の男どもは『俺に向けてしたんだ』と澪が誰にしたか論争で勝手に盛り上がっていた。
黒の女神ってマジで影響力エグいな。
まぁ、どうせ俺の女だし今日でこいつらを絶望に叩き落とせるんだったら最高な気分だな。
「選手は退場してください」
スピーカーからはクラシックではなく最近ブームになっていたJ-POPが流れている。
テント内ではこの曲を採用してくれて嬉しかったのか盛り上がりを見せていた。
咲茉と陶さんと見ていた澪も少しリズムに乗っているのか、体が上下に揺れていた。
もちろん俺は全然盛り上がらないけどね。
体育祭の入隊場はクラシックが相場じゃないのかね?
時代の進化に取り残されたボカロ作曲者は少しばかりジェネレーションギャップを前に驚いてしまったが、こいつこの歌知らねぇーのかよ笑みたいな事は言われたくなかったので、あたかも知っている風な雰囲気をだしノリノリで退場した。
義隆と海斗の3人でテントに戻ると澪がクスクスと笑みを浮かんでいた。
「それで義隆が、ってもう帰ってきてたんだ」
「悪いかよ…それより何話そうとしてたんだよ!」
「この前の堂々とここから歩いたら近いって言ってたけど実際は全然違ったってやつ」
この一部始終を見たら全然軍師じゃないやんけ。
「あ、それなら蒼君もやらかしエピソードありますよ」
もしこの瞬間、世界で1番反射速度が速かったのは誰?
という質問があったら俺は自信満々に断言できると思う。
自分とな。
澪の口に手を当ててこれ以上のセリフを無理やり言わせないようにした。
澪が『うーうー』と鳴いているが問答無用。
澪が鳴くのを止めるまで手で口を押さえ、やっと観念したのか、鳴くのをやめ言いませんと口に出してくれた。
でまぁ、男のグループに戻ったら『蒼の手を舐めさせろ』とガチキモ変態発言が銃声並に響いたのは別の話




