第146話 前哨戦
「本当にごめん」
「いえ、仕方ないですよ。
初めてだったんですから」
今目の前には既に食べ終わっている澪と後5口ぐらい必要なぐらい残っている既に死にかけの俺。
俺のせいで電車は乗り遅れてしまい、あろうことか本来乗る予定だった電車の2本後の電車も乗り遅れてしまった。
澪にお願いして2口分を食べてくれるかとお願いしたらすんなりと受け入れてくれたので俺は後3口分の抹茶パンケーキを口に運べばいいだけ。
それなのに全く俺の左腕にあるフォークは動こうとしなかった。
「これやばいかも……」
「トイレはあちら側ですが……大丈夫ですか?」
澪は心配の眼差しを向けてきていたが俺は首を横に振った。
澪は『わかりました』とつぶやき澪もフォークで俺が上げた抹茶パンケーキを刺し小さくてかわいい口に運んだ。
澪は先程のSサイズあんこパンケーキでお腹いっぱいになっていたはずなのだがそれでもとろけるような笑みを浮かべてニコニコしながら食べている。
味自体はお腹いっぱいになっていたはずの澪でも美味すぎると感じていることからここの店のパンケーキはめっちゃ美味いのがわかる。
だけど量がなぁ……
圧倒的に俺が想像していたLサイズじゃないんだけど!?
言い訳に聞こえるかもしれないけどこれはガチなんだよな、ネットで調べても殆どが写真詐欺とかでヒットするからこれはもう事実なのだ。
「澪、美味しい?」
「はいっ!パンケーキの生地もフッカフッカ柔らかくてとっても美味しいですし」
「ですし?」
澪は変な接続詞を言った後パンケーキを口に運んでうつむきながら、机の下で俺の足に澪の足を巻き付けてきた。
「おまえぇ」
「いいじゃないですか、誰も机の下まで見ませんよ」
「そうだけどさ……」
「はしたないのは重々承知です。
こんな姿を好きな人に見せる女性の方が少ないでしょう。
だけど、私は蒼君と……い、イチャイチャしたいのです……」
『だめでしょうか……?』と上目遣いで言ってきたので俺はどうしようもできず素直に首を振ることしかできなかった。
澪との協力で何とか抹茶パンケーキを完食することができお会計を済ませて店から出た瞬間から澪は俺の腕に離さないという熱意を感じれるほどに力強く抱きついてきた。
「澪、改札前だから一旦離れよう?」
「むぅ……一旦ですからね」
俺の腕から離れた澪を確認し、カバンのサイドについてある小さなポケットの中から定期を取り出し、改札を抜けた。
澪も同じように改札を抜けると俺のもとにスカートを揺らしながら小走りで向かって来た。
一旦って言ったからそりゃそうなるわな。
先ほどと同じように澪は俺の腕に抱きついてきた。
ホーム内でも澪は俺の腕を離さずあんこパンケーキの感想を楽しく嬉しそうに語ってくれた。
俺も楽しそうに話してくれる澪のお陰で話に集中でき、周りの視線を気にしないで電車に乗ることができそのまま俺等が降りる駅までたどり着くことが出来た。
「今日は蒼君とたくさんイチャイチャできたので嬉しかったです」
「そうですか……澪から風呂に入れよ」
「はーい」
澪はスキップをしながら2階に行き着替えを取ってルンルンな気分で風呂場に入っていくと思いきや、急に体を180度向き直した。
どうしたんだろうと思いながら眺めていると。
「覗いちゃだめですからね……」
「っ、わ、わかってるよ!」
最近思うことがある。
ここ最近での攻撃権は俺ではなく澪の方が攻撃権を握っているのが殆どで俺がドキドキすることのほうが多くなっている。
「体育祭では俺が1日中握ってやる」




