第140話 終演
「なぁ、澪」
「なんですか?」
澪が作ってくれた温かい肉じゃがを御飯のお供にしながら食していると、俺の右腕は力を込めても微動だもしないぐらい強い力で澪の腕にロックされ、二の腕当たりに頬を気持ちよくこすりつけてリラックスしていた。
これが左腕だったら箸も動かせなくなるからご飯が進まなくなって嫌だったけど。
「澪ってさあのファールの事どう思った?」
「どう思ったぁ?」
澪は上目遣いで聞き返してきたので俺は頷きを返した。
『う~ん』と考える素振りを見せ少しの間沈黙が流れたが、先程の沈黙が嘘のような満面の笑みを見せてきた。
「私は大丈夫です」
「そっか……」
少し濁った反応をしたせいか、澪は首を傾げてしまった。
澪がそこまで重く感じてないんだったら別に……いや、だめだ。
もしこの復讐のチャンスを逃してしまったら、これ以上の攻撃が澪を襲うかもしれない。
苦しみ、傷ついた澪を俺は絶対に見たくない。
俺は深呼吸とは言えないが落ち着かせるためには十分な量の酸素を取ることができた。
「今から真剣な話をするから少しの間聞いてほしい」
「…わかりました」
澪も俺の雰囲気を感じ取ったのか、二の腕のロックも解除され上目遣いもやめて見つめてくれた。
「今から話すことは、澪の気分を悪くするかもしれない、だけどこれは澪が知っておくべきことなんだ。
いいね?」
澪は首を縦に振った。
「澪が少しの間通っていた高校、隻影高校がこの話に関わってくるんだけど――」
「ふぅ、はぁ、はぁ」
「澪!」
まだ俺の話の序章中の序章なのだが、既に澪は気分が悪そうになっていた。
俺は話を中断し、澪を優しく包みこんで安心させるために澪の顔を俺の胸に埋めた。
「はぁ、はぁ……話、続けてくだ、さい…はぁ」
夏祭りの時にたまたま隻影高校の女子生徒とあったときは俺にもたれかかるような体制で急に体重を預けて呼吸困難になっていたからな。
多分PTSDになっているんだろう。
見ていて心が痛い。
だけど、これは澪自身も知っておかないといけないことだ。
「わかった。
まず前提としてこれは俺の考察で作った話だから澪が信じたくないんだったら信じなくていい。
簡潔に言うね」
「わかり…ました」
「隻影高校でお前を虐めていたグループのリーダーもしくはその一員の男子が、澪をいじめるために桜島高校でどんな指示にも従ってくれる駒を手にするために彼女を作りその彼女に虐めの指示を出して、遠隔攻撃を仕掛けてるってことだ」
「なるほど……」
澪は俺の胸の中で少しだけ落ち着いたのか、呼吸音は俺の耳に届かないぐらいの音量に戻り、会話も詰まることがなくなった。
「蒼君はどうしたいですか?」
「そうだな……とりあえず駒として使われている澪に悪質ファールしたやつは一回殴るかもしれない」
「……私のために蒼君が暴力を振るうのはやです」
「でも、こうでもしないと向こうは飽きずに何回もしてくるんだぞ」
「蒼君も暴力に手を出したらやってることはあいつらと同じです。
私は蒼君があんな奴らとおなじになるのが嫌なんです……」
「そっか…」
だけど、俺は多分この気持ちを抑えられないと思う。
澪の虐めの話が少しずつ今回のクラスマッチのお陰でもやが晴れてきた。
少なからずの情報を得られただけ喜んだおこう。
初めての桜島高校クラスマッチは今まで行ってきた歴代のクラスマッチより格段に重い雰囲気を漂わせて幕を閉めた。




