第137話 クラスマッチ6
「澪大丈夫か?」
「……っあ、蒼君……大丈夫です、怪我もしてないしどこか痛いってところもありません」
「そっか、澪がどこも痛めてなくてよかったよ」
急いで2階席から降りてきて昇降口に置かれている椅子にスポーツドリンクを両手で包みながら座っている澪は、見る限り本当にどこも痛めてる感じがしなかった。
少しだけ瞳に雫が見えるがそこは触れないでおこうかな。
まぁ、痛めてる箇所が無さそうだしとりあえず安心だな。
澪は特段ここら辺が痛む所がない事に胸をなでおろし、隣に空いてある椅子に腰を下ろした。
「ねぇ、蒼君?」
「どったの?」
「今、誰も私たちの事を見てる人はいません……だから……」
澪はゆっくりと立ち上り、俺の方体を向けそのまま向かい合うような形で太ももに座って来た。
「いたかっだよぉ」
俺のお腹に手を回し自分のお顔を胸に擦り付けながら、なんとか耐えていたのが誰もいないという澪からしたら嬉しい展開のせいでダムが崩壊し、目から大粒の涙が溢れてしまった。
「折角蒼君に…ぐすっ、かっこいい所見せれると思ったのにぃ」
あーなるほど、しっかりレイアップを鎮めて俺から褒められたかったと……この小動物可愛すぎない?
胸の中で泣き喚いている澪の背中を優しくさすりながら、かわいいなぁーと全く関係のない事を考えながら澪の話に耳を傾けずにたくさんさすった。
「審判さんも…ぐすっ、とってくれないし、胸も見せつけてくるし…ぐすっ、笑ってくるしぃ……」
まてまて、最後のフレーズは聞き捨てならないんだけど?
いや、とりあえず慰めるのが先だな。
「絶対にシュート入ったのにぃ……23番さんのせいでぇ……もういやぁ」
「俺からしたら、レイアップに行く前のドリブルもかっこよかったよ」
「でもぉ私はシュート決めったかったぁ」
「じゃあ、次の試合でかっこいい姿見せてよ」
「もう無理だよぉ、泣いちゃったんだもん……」
「だったらさ、今泣いていてカッコ悪い評価を覆してよ」
「ご褒美……」
涙のせいで煌めかせてうるうるしている瞳から繰り出される上目遣い攻撃の前に、俺は思考が一時停止された挙句、甘い考えにされてしまった。
「たくさんのモンブラン」
「がんばるぅ……ぐすっ」
クソ、澪は今ダイエット期間中なのに何故妨害行為をしてしまったんだ!
……ダイエットしすぎで精神が壊れたら元も子もないしな、心の癒しは必要だもんな。
うん、これも澪のためだ。
これは澪のためと言い聞かし少しでもいいから罪悪感を和らげたかった。
「あと少しで3クォーターが終わるよ?」
流石に俺も人外級の体力を持ち合わせてないので40キロ台の人が数10分姿勢を崩さないよう高さを維持し続けるには限界がある。
内心早く立ち上がって欲しかった。
だけど、彼女の前で俺の考えはあっけなく散ってしまった。
「もう少しだけぇ」
「っ……わかった」
つくづく心に感じるのは、よくショート動画とかトゥイッターで彼女に強く出れる彼氏の動画を見る時があるけど、動画に出てくる彼氏さんすげーな。
絶対に上目遣いされたら言葉詰まるもんな。
「なでなでしてぇ……」
「はいはい」
俺の太ももちゃん。
これは一種の筋トレだから頑張ってくれよ。
たくさん澪が納得するまで撫で続けてやっと澪が立ち上がり
「みててねぇ……」
「あぁ、見とくよ……さて、復讐の準備だな」
澪が入っていくまで見届け、俺は澪に悪質ファールをした挙句に笑いやがった人を調べる事にした




