第123話 黒の女神をボコボコにしたい
「私達はここまでだから」
「澪ちゃん、頑張ってね」
「はい、二人共ありがとうございました」
私は深々と二人にお辞儀をし、左手に握られている魔法少女のコスチュームが入った紙袋を握られた後が残るぐらい力強く握り、蒼君のお家のインターホンを押しました。
◆◆◆
スマホのチャットアプリで澪から『9時ぐらいに蒼君の家に向かいます』と来たので俺は重い体を布団から起こし、最近のマイブームであるフルーツグラノーラを朝ご飯として食し、スマホで昨日の夜に実施した作業配信の反応を確認しながら歯を磨いた。
反応としてはいい感じだな、チャンネル登録も増えてるしこれは新規ファン獲得に成功したと捉えていいでしょ。
いやー口座にお金が入りますなー。
澪の誕生日プレゼントの軍資金集めとして始めた作曲活動も今となっては毎月8万、良くて10万稼げる月がちょくちょく出てくるようになったし、副業としては成功だろ。
歯磨きを終え、俺はテレビをつけニュース番組を眺めながら澪が来るのを待っていると。
ピンポーン
お、来たな。
ソファーから立ち上り、玄関に向かった。
「上がっていいぞー……ん?」
「お、おはようございます青君」
紫のブラウスの上から大人っぽいベージュ色の羽織物を着ており、スカートは可愛らしい真っ白のレース生地のロングスカートをはいており、耳には俺が買ってあげた雫の形をしたアクアマリンのイヤリングがそえられていた。
澪の女神のような満面の笑みを浮かべながら俺に挨拶をしたのだが俺はそんな笑みの前に言葉を失ってしまった。
少しの間見とれていると、彼女の左手に何故か紙袋が握られているのに気がついた。
「澪、左手にある紙袋はなに?」
「っあ、これはその…後でのお楽しみです!」
「そうなのね、まぁいいやとりあえず入って適当にくつろごうぜ」
「そうですね」
俺は澪の手を握って家に入った。
そして、澪は俺の家に入ってソファーにすわり俺の肩と澪の肩が当たる距離で隣に座り、昨日までのお泊り会の話をしてくれた。
「それで、咲茉ちゃんが――」
澪の保育園生のように今日の出来事を楽しく語る姿に俺は微笑みを浮かべた。
「あ、そうそう、皐月ちゃんって実は私のファンだったんですよ」
「おー、なんかファンが友達に居ると心強いな」
「わかります、あ、後絵師さんとDMで話し合って新衣装の案を作りました」
「いいじゃん、次はどんな感じの衣装なの?」
まぁ一応俺は澪の夫なわけであって、もし新衣装がめっちゃエロかったら止めたいとおもうんだけど、澪の反応的にめっちゃ露出があってえろい衣装って事はない感じだな。
澪は『よくぞ聞いてくれました!』と言いたげな顔でポケットからスマホを取り出し、イラストを見せてくれた。
「浴衣で行くことに決まったんですが、問題があって……どのようなカラーリングにするかまだ……」
「水色とかじゃだめなの?」
澪自身が好きな色のほうがリスナーも喜びそうだけど。
「水色もいいんですが、VTuberにとって体は大事ですからね、かわいい衣装じゃないと……」
「へぇー」
VTuberとか全く知らんからな、それに色合いとかの知識もないしこれに関して俺は何にも出来ないな。
でもなー、俺だけの澪の浴衣姿を他に見られるのはなんか嫌だな、澪じゃなくてレイという体での浴衣姿でわあるけど……割り切ってなんとかしよう
「っあ、そうでした」
「ん?」
「蒼君のお部屋少しだけ使ってもいいですか?」
「いいけど、急にどうしたの?」
VTuberの衣装関連の話から急に話題が変わり、澪は思い出したかのようにソファー横に立てかけておいた紙袋を突如手に取り自室の使用許可を聞いてきた。
「少しだけ使います……あ、私がいいよって言うまで目を瞑っていてくれませんか?」
「わかった……」
急に話変わったな……とりあえず約束は守っとくか。
俺は指示通り目を閉じソファーにもたれかかった。
目を閉じて10分程度経ったのだろうか、2階から降りてくる足音が聞こえてきた。
「目、開けてもいいですよ」
恥ずかしいのだろか?少しだけ超えがいつもより高くなっていた。
俺は澪の言う通りに瞳を開けた。
しかし、そこには俺の知っている澪ではなく、魔法少女の衣装を身にまとった澪が居た。
俺はそんな澪を見て言葉を失った。
単純にかわいくて言葉が出なかったからだ。
「どうですか……」
「かわいいよ、いつもの澪じゃなくて驚いたけど、この姿の澪も俺は好きかな」
「あの…もっと感想が、ほしい、です……」
「っっ…わかった」
この服装で上目遣いはチートだろ!
青いドレスをふわりと揺らしながら、澪は上目遣いで言ってきた。
髪には純白の羽飾りがついたカチューシャをつけ、胸元には水色のハートが輝いている。スカートの裾は透き通るような水色のレースがあしらわれ、ブーツも白のリボンがあしらわれている綺麗な水色。
そして、右手にはハートのステッキが握られている。
まるでアニメから飛び出してきたかのようだった。
澪は立ち上り照れくさそうにドレスの裾をつまんで、くるりと一回転する。
俺は言葉を失った。
かわいい。シンプルに、ただただかわいい、俺の心臓君はもう死んでるよ。
だけど、もっと具体的な感想を言わないと澪は不貞腐れちゃうだろうな。
でも、俺にはそこまで感想を具体的に言う能力はない。
だから、申し訳ないけど俺は澪を再起不能まで追い詰めたいと思う。
「……すごく似合ってる、とっても可愛い……だけど」
「ひゃっ…あお、君?」
澪をソファーに押し倒し、澪の瞳を見つめた。
澪は恥ずかしかったのか、目を閉じ、顔を背けた。
俺は自分の心臓の鼓動が聞こえていないと信じながら俺は澪の両手を澪の頭の上で掴み空いている左手で澪の顎を少し掴んで所謂顎クイというのをしてみた。
した理由として、澪が以前読んでいた少女漫画で彼氏役の人がヒロインにあごクイしてその描写を見た澪がソファーで足をバタバタして興奮していたから。
「俺にだけ見せてほしい、他の男には見せないでほしいな」
「は、はぃ」
「ふふ……」
「……っ……」
俺は澪の口にキスをし、澪の腕を握りソファーから立ち上がった。
澪の頬がさらに赤く染まった。
けれど少しうつむきながらどこか嬉しそうに微笑んだ。




