第116話 黒の女神は体力測定が嫌いだが……
「今日こそサボりたいです……」
「だめだって、前回はたまたま上手く言い訳できたけどそれを味しめちゃいけないだろ」
「だってぇ……」
「だってぇじゃないよ、バックを取って早く行くぞー」
「……はぁい……」
澪がなぜこんなに萎れているのかと言うと、今日は全国の小中高生が嫌いな日ランキングでトップに食い込む日。
体力測定の日だ。
特に大事なのはシャトルランと1500メートル……幅跳びもか。
バスケ部としてはこの種目達はある程度良い順位を取りたい。
なんなら澪に良いところをいせたい。
澪は隣でぶつぶつと不満を言っているが、それとは対象的に俺のボルテージは徐々に高まっていく。
「あぁ、もう駅に……」
澪は駅についても気分は変わらず、改札の前で足を止めてしまった。
「早く改札を通ってくれませんかー」
「………」
「人来るって」
「はぁい……」
電車の中でもずっと俯いていたから、澪としては本当に最悪の日なんだろう。
俺としては澪にカッコつけれるし監督の評価も上がるかもしれないから嬉しい行事なんだけどな。
それにただ運動するだけで学校から帰れるしな、まぁ部活があるから帰る時間は遅くなるんだけどさ。
「次は、鹿児島中央、鹿児島中央――」
「澪、着いたよ」
「はい……」
「……」
流石に元気がない澪を見てると胸が苦しいな……元気だしてもらうにはこのぐらいはしないとだめだよな。
俺は澪の手を取り中央駅から出て普段人通りのないこじんまりした通路に入った。
澪は驚いていたがすんなりと俺の手を掴みついてきてくれた。
「蒼君…はぁ…どう、したんですか……」
澪は軽く走っただけなのに既に息が上がっていた。
「今日澪が頑張ったら澪の言う事1回だけ何でも聞いてあげるよ」
「本当ですか!」
「うん、だから頑張ろう?」
「言いましたからね」
「う、うん」
あ、待って、やっぱりなしにしたいかもなー
澪は何でも言うこと聞いてあげる権のお陰で体力測定のやる気が今後20年ぐらい見ることがないであろう、そのぐらいやる気に満ち溢れていたが、俺はそんなにやる気に満ち溢れている澪を見て怖気着いてしまった。
だってさ、急に元気出てきたんだよ?
しかも元気になった原因の言葉が何でもしてやるだし……これさ、今日俺部活から帰ったらやばいことが起きるんじゃない?
もしかしたらアクセサリー買ってこいとか言われるかもしれない……
俺は考えなしにご褒美を与えるのをやめようとこの日心に刻んだ。
◆◆◆
「明日に男女共々シャトルランと言う事で、今日の最後に1500メートル走をしよう、じゃあ、男子はこっちで反復横跳び、女子は向こうで長座と握力を測って」
「始まっちまったなー」
「そうだな」
最初は反復横跳び、計測は義隆に頼んだが同盟を結んだのでお互い盛っても何も言わない事を結んだ。
「5秒前、4、3、2、1」
よし。
ブザーの音と同時に体育館内には女子の黄色い声援と体育館シューズが地面を蹴る音が鳴り響いていた。
何人かの女子は握力と長座をしていたが後半組の女子は殆ど男子に声援を送っていた。
あの中に澪の声もあるのかな……いや、澪は人見知りが激しいしまだこのクラスに馴染めてないから声を出そうにも出せないって感じかな。
もしかしたらあの応援の中に俺を応援してくれる声があるのかもしれないけど……いや、無いな、俺は顔に自信がある方じゃないし澪にだけ好かれているだけで俺の人生は既に花の道を歩いているだろう。
「3、2、1」
先生がカウントを始め最後のスパートをかけブザーの音が鳴って俺は地面に座った。
「記録は?」
「……65だけど盛る?」
「……いややめよう」
「わかった、じゃあ俺のは盛ってくれよ」
「はっ、わかったよ」
俺は義隆のズルします宣言に笑ってしまった。
義隆はなにか自分の最適な足を置く位置に悩んでいるのか試しては納得がいかず少し動かした所に足を置くなどしている中。
澪が咲茉と陶さんの3人組で何か雑談している姿を見つけ眺めていると澪が俺の方に手を降ってきたので周りの男の視線を一通り確認して少し恥ずかしかったが手を振返した。
「次、肝付さん」
「っあ、はい」
澪は咲茉の番が来たので陶さんと二人で一緒に測定器の前に向かっていった。
「5秒前、4、3、2、1」
あれ、ラインを跨いだら1カウントだよな。
一瞬カウントの方法を悩んだが思い出すことが出来たので何とか回数に支障をきたすことはなかった。
「3、2、1」
「っと…何回」
「59」
「盛って61にするか」
「ラジャー」
俺は筆箱の中からシャーペンを握り、俺の欄には65、義隆の欄には61と書いた。
「男子は握力と長座をして、女子は反復横跳びをしろよー」
女子は各々使った測定器をステージ側と入口側に置いてあるダンボールにいれてこちらに向かってきた。
「次は握力か……」
絶対に澪が使った測定器を使ってやる。
男どもに澪の神聖なオーラを触らさるわけには行かない。
予測しろ……澪達は入口側にいたからステージ側にある説は消えた。
で、ダンボール内には測定機が2個ある。
澪の後ろに女子は一人だけいるがその人はステージ側で計測していたので入口側には柳田が最後の名字になるから自然と一番上にあるのは澪が最後に使った測定機となる。
俺は駆け足で入口側のダンボールから一番上にあった測定器を手に取った。
感触?勿論36.5℃位の生温かったよ




