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第105話 変わる関係

あの大会から5ヶ月が過ぎた。


桜島高校の先生が怪我をした数日後に来て学校には来なくていいがクラスラインとかで宿題の情報が来たらしっかり終わらせて、後日その教科担に取りに行かせる、それで単位問題は何とかしてやると言われ、そんな甘い汁だけを頼りに病院生活を続けていた。


だけど、こんな生活もいずれかは終わりを迎える。


「っあー4月からとりあえず行くとして、もう2月23日だからな」


後1ヶ月半でここから出られる、そう考えると俺はタブレットを起動してのノートアプリを開いた。


勉強は追いついているから問題ないから学校に関しては特にないな……あるとしたら澪の方が問題だな。


俺はタッチペンでタブレットの画面に大きく柳田澪と書いて丸をした。


11月20日は澪の誕生日だったのに、俺は病院でずっとリハビリ、ゲーム、アニメ鑑賞、作曲。


澪は俺に誕生日プレゼントを渡してくれたのに俺は何も恩返しを出来ていない。

てか、お正月もクリスマスもハロウィンも澪と一緒に過ごせてないな、画面越しでVTuberとしての体で着物姿とかサンタコスの澪は見れたけどやっぱり生身の澪が一番だしな……バレンタインチョコはもらったけどこのままだったら材料買いに行くだけで数時間かかりそうだし。


俺は澪からもらった新しいバッシュを眺めた。


こいつもいつかは履きたいけど……


今でも俺はリハビリをしている。

決まったリハビリメニュー、決まった時間、決まったリハビリ師。

変化を尽く嫌っているような感じが俺は徐々に不快感を覚えてきた。


早くこんな監獄のようなところから出ていきたい。

早く澪のご飯を食べたい。

早くまたあいつらとバスケをしたい。

早くストレスから開放されたい。



「はぁ……人生クソゲーやな」


最近は寝付くのが遅くなってるし、快眠も出来てないし。

なんで人生をハードモードでプレイしてるんだよ。


一人部屋の無駄に広い病室にぽつんと独り言が広がった。


もしあそこで走り込んでリバウンドを取らなければ断裂なんてしなかったんだろうな、だけど多分あのリバウンドのお陰で速攻につながって流れを掴めたのも事実だもんな。


88対80で俺等は伊仙高校相手に負けてしまったが、あの伊仙高校が接戦になったのはあの試合だけで、決勝の試合でも20点差をつけられていた。


やっぱりあいつらは凄いと思った。


エースの久則は俺がいなくなっても安定的に点数を取っていたし、義隆は伊仙高校のガードより優れていると思う。

康太郎と志歩もよくあんな100キロぐらいありそうなクソデブ相手にも体負けしていなかったもんな。


「それに比べて……」


俺は自分の脚を眺めた。


自慢にしていたふくらはぎの筋肉も、自称バスケ部1位の美脚も今では脂肪のように柔らかかった。


ギブス固定から開放された時の衝撃は忘れないな、垢はくそほど出てくるしふくらはぎと太ももはくそ柔らかいし……


少しだけ思い浸っていたがやはりこれは必然のように思い出された。


澪の涙。


外側靭帯断裂と診断され、手術をしないで自然治癒とリハビリで治しますと言い診断室から出た途端に、あいつが俺の太ももに顔を埋め泣いてしまった。


俺と雫さんは何とか澪を宥めることが出来たが、俺はその時ずっと放心状態だったな。


病院生活を思い返しながら桜島に焦点を合わせぼーっとしていると


「蒼君……」


ドアの向こう側から今最も俺が欲していた人の声が聞こえてきた。


「入っていいよ」


俺がそう言うと、ドアがゆっくりと横にスライドし開けた本人が律儀に『失礼します』といって入ってきた。


「脚は…どうですか?」


「まぁ、おじいちゃん並の歩行速度は出せるようになったかな」


苦笑しながら少しでも澪を安心させるために冗談っぽく言った。


「そうですか」


澪は俺の脚を優しく撫でてくれた。


看護師や医者のような業務で回復具合を確認する時の冷たい感触とは違い、許嫁の手は温かく感じた。


「配信は調子どうだ?」


俺は少しでもこの重い空気を変えたかったため、話を無理やり変えた。


「いい感じです、蒼君が作ってくれた私だけの歌も再生数が今でも伸びていますし、配信の方でも今では毎回1万人以上に見られてます」


「そうか、俺の方もいい感じだよ」


この監獄生活で捗ったのは作曲作業だけだろうな。


ふとそんなことを考えていると。


「私蒼君の為に頑張ったんです、ですから蒼君もがんばってください」


「……」


もし、この監獄生活でストレスを感じずに生活を遅れていたら澪の言葉にもいつも通り、澪が思っていた回答を返せていたと思う。


だけど、俺は今ストレスを抱え込んでいた。

何らかの事があれば直ぐにぶつけてしまいそうなぐらいに溜まっていた。


「お前にはわからないだろ」


「っえ……?」


「お前は何も解っていない…ここがどんな所か」


「いや――」


「早く消えろ」


この時の俺は、俺であって俺ではない感じがした。

止まることができなかった。


病室には今まで発したことが無い程低い声が鳴り響いた。


「……あごめ」


俺は全てを曝け出した後、ふと我に帰ったが遅かった。

眼の前に居る澪は数歩後ずさって足の力が抜けたのか地面にパタリと崩れ落ちた。


澪の瞳には光が無くなっていた。



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