第102話 1年生大会3
「ちょっと、トイレ行ってくる」
「良いけど、もうちょいでハーフアップだから速く終わらせろよ」
「あいあーい」
澪からDMで会いたいと来たので、義隆にトイレに行くと嘘をついて澪に会うことにした。
名目上トイレに行くって設定だし澪と会うついでにするか。
俺は一階に降りトイレを済ませ、総合体育館の玄関に入る澪の元に向かった。
そこには一人だけ、周りの女性達の数倍綺麗で、毎日欠かさずに手入れしているんだろうと容易に想像できてしまうほど艶のある黒髪を靡かせているサングラスをつけた女性がいた。
澪さん見つけやすいな。
俺は小さめの黒リュックを背負っておどおどしている澪に声をかけた。
「よ」
「ひゃっ……蒼君」
ひゃって、そんなに驚くかね普通?
俺はただ肩を叩いてよって言い驚かせようと一切思っていなかったのだが、何故か澪は俺に肩を叩かれた瞬間に体をビクッとさせてしまった。
「そんな驚く?」
「だって、周りの人全員私より身長の高いですし…全てにおいて私よりも大きいので少し怖かっただけです」
確かに。
俺は周りの人達を見てみたが、全員澪より身長が高く、女性にとってデカくて損はないとある部位も澪の申し訳程度にあるのと比べでかいし、何ならメロンでも詰めてんのか?と疑いたくなる様な豊満すぎる人もいた。
「慣れろとしか言えないかな」
「そうですね…今後の為にも今日で、できる限り慣れます」
少しだけ澪と他愛もない会話をしていると、体育館の中から1クォーターが終わった事を告げるブザーの音が聞こえた。
それと同時に、澪は少し俯いてしまった。
「どうした?」
「いや、もうちょっとだけ話したかったなーって」
「そっか……家でも長く喋れるんだし我慢してくれ」
これは流石に俺としてもハーフアップに遅れましたーってなるとボコボコにされそうだからここは澪に申し訳ないけど我慢して欲しい
澪も俺の意思を読み取ってくれたのか、小さく頷いてくれた。
「じゃ、俺もそろそろ上に上がんないと疑われるから行くよ」
俺は澪に背中を見せ今にでも走り出そうとしていると。
「っあ、待ってください!」
呼び止められてしまった。
「何だいね」
俺は体を澪の方に向き直した。
「さっきの試合…か、かっこよかったです」
あぁ、神様、俺は今死んでも良いかもしれません。
「次の試合も、が、頑張ってください」
「もちろん、次の試合も勝ってくるよ」
俺はそう言葉を言い残し、駆け足で階段を駆け上った。
◆◆◆
「おい、お前、あいつらに見せつけろ」
義隆が何故かキレており、親指の方向を見ると、対戦相手の一人がリングに思いっきりジャンプして届き盛り上がっている様だった。
「俺らがめっちゃ盛り上げて注目されている時に、蒼が飛んでリングにぶら下がれ」
「まかせろ」
俺はボールを地面に置き、両手でバッシュ裏を撫でゆっくりとフリースローラインから少し離れた位置に向かった。
その間、周りの部員達は『おーー』と声を上げていた。
必然的に対戦相手の人達も俺の事を見てくる。
かましますか。
俺は思いっきり走って右足で飛んで見事リングにぶら下がった。
バスケットボールが弾む音や、バッシュが地面と擦る音が聞こえる中。
俺がリングにぶら下がったせいで、 反対のコートからは少しガヤガヤとした音が聞こえてきた。
「お前らガキだなー」
監督が俺のリングぶら下がりと、盛り上がりの声をあげている部員たちに言った。
「まぁ良いんだけど…スタートはさっきの試合と同じで、相手の心を折ってこいよ」
「「「「はいっ!」」」」
桜島高校男子バスケ部の服を脱ぎ、ユニフォームが現れた。
「とりあえず、ディフェンスは前から、オフェンスは見る限り身長で圧勝はしていない感じだから5アウトで、志歩と康太郎は状況次第でインサイドに行く感じで行こうか」
バスケの試合の初めは基本15分ぐらいアップして、残りの3分程度を監督やコーチの話に当てるのが殆どだろう、俺等桜島高校も例に漏れず3分になったらシューティングをやめて監督の話が始まる。
タイマーの秒数が徐々に0に近づいていく。
「さぁ、相手の絶望した顔を拝めに行こうか」
……流石に義隆さんキモすぎないこれ?
俺は、こんなやつとダブルデートするのかと思い悩みながらコートに入った。
「「お願いしゃす!」」
最初の挨拶を終え、各々ジャンプボールの陣取り合戦が始まった。
審判がセンターサークルに近づいてくるが、俺らの陣取り合戦は終わらない。
審判が人差し指で白、黒と確認の声が聞こえると各々陣をそこにひき、ジャンプボールが始まった。
とりあえず、ボコボコにしますか。
程よい緊張感が流れているが、俺はこのコート内10人の中で異様なほど冷静だった。
これも澪ニウムの効果かなと思いながら康太郎と7番の二人が地面を思いっきり蹴った。
3回戦が始まった。




