表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

【♭】minor


しとしと

 しとしと

雨が歌う

それは ――……


―― レゾナンス ――



「この曲……」


ピクリと、その細い肢体が俺の腕の中で揺れた。

耳を傾ければ、雨の音と一緒に透き通る様な旋律が聞こえてくる。


「知ってるのか?」


尋ねてみたら微かに頷き、ぽつりと言葉を溢した。


「好きな……曲だから」


自分の事を、余り多く語らない。だから珍しい事だ。

些細な事が、こんなに嬉しく感じるなんて……自分でも、どうかしてると思う。冷静な自分が嘲り笑う声が聞こえた。


そんな声に気付かない振りをして、そっと耳を塞ぐ変わりに、腕の中の温もりを一層強く抱き締めた。


「何て曲なんだ?」


何でも良い。もっと知りたくて……その口から零れる声をもっと聞きたくて、何気なく聞いた。


「雨だれ……」


どうやら、珍しく睦言に付き合ってくれるらしい。静かに、消え入りそうな声で応えてくれた。


「出掛けてしまった恋人を、待っている曲……」


ぽつり、ぽつりと語る声は、まるで歌っているみたいに空気に溶ける。


「雨の滴り落ちる音と、ピアノの音が寄り添っているみたいに聴こえたんだって」


―― だから、雨だれ……


その、今にも崩れそうな旋律は儚くて、どこか哀しい。腕の中の存在と重なった。


「秋が……秋雨が運ぶ“冬”を謳う音楽だよ」


まるで、そんな声に応える様に、曲調が暗く重々しいものに変化していく。

窓の外に目をやれば、雨が強かに打ち付けるように降り注いでいた。雨音と雨音の間をすり抜ける様に、その嘆くような旋律が耳に届く。


「きっと、彼は“死ぬ”事が恐かったんじゃない……愛する人との“別れ”が恐かったんだ……」


―― なら、死の先に求める温もりがあるのだとしたら?


それは音にはならなかった。俺が覆い被さる様に身を乗り出して、そっと口を塞いだからだ。


―― ギシッ……


ベッドが軋む。

不気味に、静かに響く旋律は“死”を彷彿させた。そんな忍び寄る不吉な足音から遠ざけたくて、そっと耳を唇でなぞる。


くすぐったいのか、身をよじり逃げようとするそのしなやかな肢体を、繋ぎ留める様にしっかりと抱き締めた。


「……ちょっ…と……ッ……」


声が、甘い熱を帯びる。潤んだ瞳や、うっすらと上気する肌全てが蜜の様に俺を誘う。

その蜜に誘われるように、再度啄む様なキスを送った。


澄んだ艶冶なさえずりと

切ない旋律とが絡み合い

響き合う。


そんな偽りだらけの甘美な夢を俺は貪り、陶酔する。


刹那の熱を奪う様に、雨が冷たく嘲笑うのを遠くで聞いた。




[END]

以上で終わりです!


いいね、感想などお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ