8話 修行の成果
山岳で修業を始めから早いことに2年以上の月日が流れていた。最初はエンチャントスキルを中心に霊術を学んでいたが、オブスタクルスマラソンを始めてから少し月日が経過した後から、秋斗達はリオンから様々な霊術や武術を学んでいた。
春奈はスピード重視の装備で小さめの盾とレイピアのような細い剣を使った武術の修行を行っており、刺突に関しては音よりも早く突きを放っているほどの修練を積み重ねている。これも一つの技を会得するための成果だろう。
対して夏美は短剣の投擲や双剣の武術を中心に修行を行っていた。オブスタクルスマラソンでは距離のある木人に対しては、短剣を投げ、近くにいるの木人に対しては双剣で切る様はまるで忍者のような感じだ。
対して秋斗も片手剣を中心に修行を行っていたが、リオンからは斧の使い方や槍、素手、弓など様々な武術を学ばされていた。理由は地水火風の四属性で武術の相性のようなものがあるからだそうだ。苦労はしたものの着実に技を学んでいくことに集中していった。
霊術に関しては、夏美が霊術の会得が速かったが、最終的には初級から上級までの霊術を一通り熟せるようになっていた。霊術の中で驚かされたのは痛覚鈍化の霊術というのもあるということだった。戦いでの痛みを和らげて、継戦能力を高めるためらしい。この霊術はこの世界で兵士をするための必修科目になっている。
また、武具を生成するための霊術や荷物などを収納するための収納霊術を覚えた。これも遠征で必要な霊術の一つだが、武具の生成に関しては主に秋斗と夏美用の霊術になるだろう。夏美の場合は主に投擲するための短剣を生成するためだ。秋斗の場合は色々な武器を使うため、状況に応じて武具を生成するためだ。勿論、春奈も武器が壊れたりした場合を想定しているため武具生成霊術を会得している。
「とりあえず、準備運動でもしとく?」
「そうだな。」
そんな秋斗達は、今日はリオンから大事なお話があるということで、オブスタクルスマラソンを終えてちょっとした広間に来ていた。どんな修行をさせられるのか分からないため、一先ず準備運転をする。ちょうど準備運動を終えたところでリオンが広間にやってきたのを夏美は発見した
「おそーい。」
「悪かったな。マラソンを終えたところか?」
「はい。終わってから準備運動してました。」
「なるほど。」
リオンは秋斗達の姿と床に置いてある武具装備を見て、顎に手をやってうんうんと頷いていた。
「難易度は最高峰にしていたつもりだったが、被弾も無かったか。」
「かなり危なかったですけどね。なんとかなりました。」
リオンの言葉に秋斗はそう答えると、満足そうに答えた。
「これならもう十分だ。霊術も若干粗があるが、問題無い。そろそろ最終段階だ。」
「最終段階?」
「ここ一年、模擬戦をやってなかったからな。秋斗達の実力の確認を模擬戦でしようと思っている。だから明日は修行を止めて俺と模擬戦だ。模擬戦で秋斗達の修業の成果を見せてくれ。」
「今度は勝っちゃうかもしれないよ?」
「そうだといいな。」
夏美は修行でかなりの自信をつけたようだった。軽いジョブの言い方だったが、目からは闘争本能が漏れ出ているように見える。春奈も不安そうな姿を見せていない。夏美ほど露骨ではないが、この修行でかなりの力をつけているためリオンに勝つ気満々である。夏美と変わらず負けず嫌いだ。かくいう秋斗も以前の模擬戦に比べてかなりの力をつけたつもりだ。早々に負けるつもりはなかった。最低限、リオンが全力を出すくらいまでは戦えればと思っている。勿論、秋斗も負けず嫌いなので、負けるつもりもない。
「良い目だな。今日の修行はもう終わりだ。明日を楽しみにしているぞ。」
「「「はい!」」」
秋斗達の返事にリオンも満足し、サッと姿を消した。リオンが姿を消したのを確認すると、秋斗達は明日に備えて対リオンについて、どういう戦いをするか戦略を話し合うのだった。
▽▽▽
翌日になり、秋斗達とリオンは山岳の広場で相対していた。
「準備はいいか?」
「問題無い。」
「はい!」
「いつでもオーケー!」
それぞれリオンのかけ声に返事をすると、リオンは手を空に上げると火の玉を作り上げている。秋斗達は各々武器を生成してから構えた。
「これが爆発したら開始の合図だ。始める前にルール説明だが、武技の使用は禁止だ。殺傷能力が高すぎるからな。霊術は問題無く使用していい。霊術が当たれば体に負荷がかかるように疑似傷害の霊術を使用するから問題ないが、武技を使えば疑似傷害の霊術を貫通して死んでしまう可能性もあるからね。よし、それじゃあ始めよう。本気で来いよ。」
秋斗達はリオンの言葉に頷くとリオンは空に向けて火の玉を放った。リオンの放った火の玉は空に高々と上がっていき、花火のように爆発した。
爆発の合図と同時に秋斗と夏美は先手を取るためにリオンに向けて走り出す。
「ホーリーランス!」
春奈は秋斗達の後方から霊術を展開し、3本のホーリーランスをリオンに向けて放った。着弾と同時に秋斗達は攻撃を仕掛ける作戦だ。ホーリーランスで牽制し、秋斗と夏美の左右から攻撃すれば一気に決められると考えていた。
対してリオンは春奈が放ったホーリーランスに向けて走り出していた。リオンが見ているのはホーリーランスの先にいる秋斗と夏美だった。初弾のホーリーランスをステップで避けてから2本目を弾き飛ばし、3本目のを受け流していく。春奈の霊術に対して対応しているリオンは、前へと進む足が止まらない。
秋斗と夏美はリオンを挟むような立ち位置を取り、一気に攻撃を仕掛ける。リオンに先に仕掛けた秋斗からだ。秋斗が上段から剣を振り下ろすが、リオンは秋斗の剣は受け流し、間髪入れて秋斗に向けて木刀を振るう。しかし、秋斗に木刀が届くことは無かった。秋斗に向けて振るわれた木刀は、夏美が秋斗をカバーするように動き短剣を投げたため、リオンはそちらに対応するために木刀を振るったためだった。一瞬驚いたような顔をしたリオンは、秋斗と一旦距離を取るために大きめに後ろに飛ぶ。
「こんのー!」
リオンが飛び退くのを見た夏美は更に短剣を生成してリオンに向けて投げつけた。リオンは木刀を振るって短剣を弾くと。
「隙ありです!」
リオンの背後を取った春奈は神速とも呼べる突きをリオンに向けて放つ。リオンは霊力を感じ取っており、春奈が後ろから攻撃をしかけてくることを予測できている。振り返ったリオンは背後からくる春奈の刺突を刀身で受け止める。
リオンは想定していたものよりも春奈の刺突は強く、後退るような形になった。冷静に対処していくリオンに対し、次は秋斗が攻撃をしかけていく形になった。
「ファイアボール!」
(昔に比べて中々やるようになったな・・・・・・。)
そう思いながらリオンは秋斗の攻撃に備える。秋斗は自身の周りに初級霊術のファイアボールを10個展開し、それをリオンに放った。更に秋斗の背後から夏美が空を飛ぶようにジャンプすると双剣に霊術を展開し、得意の霊術を放つ。
「シャドウクロウ!」
秋斗と夏美の隙の無い霊術のコンボを放つのを見て、リオンは嬉しそうな顔をしながら霊術を展開した。
「ウォータウォール。」
秋斗のファイアボールをリオンはウォータウォールの霊術で水の壁を作り、無力化していく。続けて迫りくる漆黒の爪の刃を空に飛んで避けた。空に飛んでシャドウクロウを避けたリオンに対して夏美は短剣を投げて隙を突くもリオンは木刀を振るって短剣を弾き、有効にはならなかった。
「くっそー。」
「大丈夫よ。これで決まるとは思ってなかったし・・・・・・。」
「リオン総隊長はまだまだ余裕がありそうだな。」
「中々やるじゃないか。思っていたより動きも良いし、戦術も上手く組み立てられていたから驚いたよ。」
リオンに褒められたものの、有効打を決められなかったため悔しい表情をしている秋斗達だった。まだ負けたわけではない。戦いはまだ始まったばかりだ。秋斗達もめげずに攻めに入る。
秋斗はリオンに向けてファイアボール再度放った後、リオンとの距離を詰めに行く。剣の間合いまで詰めた秋斗はリオンに向けて剣を振るった。
「うおぉぉぉ!」
「思ったより早いな・・・・・・。だが!」
何度かの斬撃の応酬の後、リオンは秋斗を蹴り飛ばした。なんとか刀身で受けたものの、リオンの蹴る威力は凄まじく、大きく後ろへ飛ばされた。
「ストーンバレット!」
蹴り飛ばされた秋斗だったが、すぐに術式を展開して次のチャンスを作るためにリオンに向けて石の弾丸を放った。
「ホーリーランス!」
春奈もチャンスを作るためにもう一度、ホーリーランスを放ち秋斗の術式に合わせた攻撃をした。襲い来る術式の数々をステップで避けていき、春奈たちの方へと詰め寄っていく。迫りくるリオンに夏美が相対した。
「やあぁぁぁ!」
二対の双剣を巧みに使い、リオンに攻撃を仕掛けていくが、余裕のあるリオンは軽くあしらう様に受け流していく。
「甘い!」
「夏美!」
夏美に隙ができ、リオンは木刀を振るうも、霊術を放っていた春奈も加わって夏美に振るわれた木刀は春奈の盾で受け止められていた。思ったよりも重い斬撃に春奈は若干顔を顰めるものの、何とかリオンの攻撃を防ぐことができた。
2対1の形でリオンに攻撃を仕掛ける春奈と夏美。想定よりもコンビネーションがよく、リオンが若干余裕がなくなっていっているのを春奈と夏美は感じ取っていた。
「中々やる・・・・・・。だが!」
「きゃっ!」
リオンはまずは夏美と鍔競り合いになると、力で夏美は弾く。その後、カバーに来た春奈を蹴り飛ばした。
「くぅ!」
何とかリオンの攻撃を受けきった春奈に駆け寄る夏美と後ろから蹴り飛ばされていた秋斗も戻ってきた。
「準備完了したから一旦離れるぞ。」
「分かったわ。」
「はい。」
秋斗は春奈と夏美を連れて後方にある森へと入っていった。
「罠かな・・・・・・。分かりやすいだが、その罠に乗ることにしよう。」
リオンはそう言って秋斗達が罠を張っている森へと向かって行ったのだった。
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