6話 修行②
リオンから新たな修行を行うとの話を受け、秋斗達はそれを楽しみにしながら午前の訓練を熟し、午後から始まる修行に備えていた。
「今日の霊術の訓練楽しみだね!」
「そうね。さすがにランニングと筋トレをずっとするのはしんどいもの。回復があるからって休憩時間もそんなにないし、そろそろ違うことしたかったからね。」
「確かに。ほら見てみろ。訓練のおかげでお腹もシックスパックだ。」
「これ・・・・・・。」
「太くて硬いね・・・・・・。」
秋斗は服を捲って腹筋を出し、腕を曲げて力こぶを作って春奈と夏美に見せた。それを見た春奈と夏美は秋斗のお腹や腕をペタペタと触って楽しんでいる。秋斗は春奈と夏美の表情を見ながら、腕に力力こぶをピクピクさせ、少し誇らしげな顔をしながら二人の反応を楽しんだ。
かくいう春奈も夏美を秋斗ほどではないが、筋肉がついている。お腹には綺麗な筋肉が薄っすらとついており、モデルのような筋肉の付き方をしていた。
そんなことをしていると、リオンがこちらに歩いているのが見えた。
「準備は整っているみたいだね。早速始めようか。」
リオンは秋斗達の様子を見て早速修行を開始することにした。
「では、まずは手を繋いで輪になるとしようか。」
「はい!」
元気な夏美の返事に若干苦笑しながら秋斗達は手を取り合い、輪になった。
「そもそも秋斗達は霊力がどのようなものか分からないだろうから、最初は霊力がどんなものかを知ることからだ。早速始めるよ。皆目を瞑ってくれ。」
リオンはそう言うと目を閉じた。秋斗達もリオンの言葉に従って目を瞑る。すると徐々にではあるが、手元が暖かくなってくるのを感じた。
(これが霊力なのかな。安心するような心地良い暖かさだ。)
そんなことを考えていると暖かく感じた霊力が全身に駆け巡って、次第に隣で手を繋いでいる春奈の方へと暖かな霊力が流れていくとを感じた。春奈に流れた瞬間、一瞬、ピクっとして驚き、秋斗の手を繋いでいた手に力が入っていたが、次第に手を握る強さが緩んでいった。流れてくる霊力を受け入れたみたいだな。
向かいにいる夏美にも霊力が流れてきたのか。感嘆の声を漏らしている。リオンの霊力は秋斗達3人の身体を駆け巡っており、目を瞑っているのに瞼の上に3人の姿が見えてくるような変な錯覚があった。
「これが霊力だ。君達はこの力をこれから使っていくことになる。この力をもっと深く意識するんだ。」
リオンの言葉に耳を傾け、目を瞑ったまま秋斗達は霊力を感じる。春奈も夏美も霊力の大きさに息を吞んでいた。霊力を深く感じるとまるで宇宙の中に漂っているようなふわふわとした不思議な感覚があった。こんな大きな力があれば何でもできそうだと思わせてくれるような霊力を肌で感じる。
「よし、目を開けてくれ。」
霊力を深く感じ取っているとリオンから目を開けるよう指示があった。リオンの言葉で秋斗達はゆっくりと目を開けた。
「おい、夏美!なんだそれ!春奈も!」
「兄ちゃんも春奈もすごいことになってるよ!」
「一体なんなのこれ・・・・・・。消えない・・・・・・!」
思わず感嘆の声が漏れた。秋斗達は目を開けるとそこに見た光景は驚くべきものだった。秋斗は目を開けて向かいにいる夏美の姿を見ると、夏美を身体を中心に蒼く光るオーラのようなものが広がっていた。咄嗟に春奈を見ると同じように蒼いオーラが春奈から漂っている。夏美も秋斗と同じ反応をしており、秋斗や春奈に指を指して面白がっていた。春奈は夏美の言葉で自分の身体を見て蒼いオーラを手で頑張って振り払おうとしているが、体中から出てくる蒼いオーラは無限に溢れ出てきていた。秋斗も同じように自分の身体を確認すると、春奈や夏美と同様に蒼いオーラが体中から溢れ出ている。
「その蒼いオーラが霊力だ。君達の持つ霊力と呼ばれるものだ。身体から溢れている霊力を良くみてくれ。」
リオンの言葉に各々で自分の身体から発せられる蒼いオーラを良く見てみるが、正直よくわからない。首を傾げていると隣にいる春奈も夏美も蒼いオーラを見ているが、ピンとはきていないようだった。
「もっと深く霊力を意識するんだ。少しずつ蒼い霊力の中に黄色く光る霊力が見えてくるだろう?」
「うーん・・・・・・?あっ、これかな?」
「見えたか?それは霊気って言って霊力の一種だよ。」
ジーっと霊力を眺めると微かにではあるが、小さな黄色く光る玉のようなものが見えた。この黄色く光る小さな粒子が霊気か。リオンの説明では、霊気を使用するには霊力制御がかなり重要なのだそうだ。霊力をしっかり制御しないことには霊気を使うことができない。
目安としては霊力を95%くらい制御する必要があり、霊気を使うことで霊術の威力やエンチャントスキルなどの効果が更に上昇するらしいが、そもそも霊力を使う感覚というのは秋斗には分からないからどうしようといった感じだった。一先ずは霊力を使い熟すことから始めようと決意したところで春奈と夏美から嬉しそうな声があがった。
「むむ。漸く黄色の粒が見えたよ!」
「これが霊気ですか・・・・・・。星みたいに綺麗だね。」
どうやら春奈も夏美も霊気を見ることができたようだ。霊気を見ることできて嬉しそうな声を上げている。そんな秋斗達を見ていたリオンは腕を組んで何度か頷いており、満足気な顔をしていた。
「それじゃ、早速だが模擬戦で君達にかけたエンチャントスキルのパッシブオールを会得してもらうよ。戦う上での基礎霊術になるからね。それから会得してからだけど、睡眠をとる時と午前の部の修行以外は常にパッシブオールのスキルを使用してもらう。その方が霊力の制御も上手くなるし、戦闘では基本的にパッシブオールのエンチャントスキルは常時使うことになるし、他の霊術と併用することになるからね。無意識にパッシブオールを使えるくらいになるのが理想だ。」
「分かりました。」
「早速だが、パッシブオールの霊術を会得してもらうよ。じゃあパッシブオール霊術の使い方を説明するよ。」
秋斗達は早速パッシブオールの使い方を説明を受けた。パッシブスキルの説明をリオンから聞く。パッシブスキルはまず最初はアジリティーについてだった。アジリティーは基本的に下半身に霊力を集中することで素早さを上げている。
次にディクストリーは、顔と手首から指先にかけて霊力を集中する。パッシブ名の通り、指先が器用になり、武器の取り扱いが上手くなる。原理は分からないが、霊力が何かしらの補佐をしているんだろう。顔に付与する理由は、これによって動体視力や嗅覚、聴覚などを鋭敏にして、危険を察知することが目的だ。
次にストレングスだ。このスキルは首から足首や手首辺りまで霊力を集中することで身体全体の筋力向上をすることができる。ストレングスはアジリティーの補佐の役割も果たしているようだ。
最後にバイタリティー。このスキルは体全体に霊力を集中させて体を頑丈にするやり方と装備に纏わせるように霊力を使用し、装備の頑丈さを強化する2パターンのスキルだ。
「まずは、霊力を身体全体に馴染ませるんだ。霊力は自分の一部だから思い通りにできる。イメージして体中に霊力を馴染ませてみろ。」
霊力を身体に馴染ませるイメージか。中々難しそうだな。水が土に染み込んでいく感じで体に霊力が入っていくイメージを想像すれば良いのか?そんなことを考えていると。
「霊力が体の中に入っていく。」
「夏美すごいね。もうできたの?」
「さすが感覚派はすごいな。」
「でしょう?」
夏美は両手を腰に当ててまだまだ成長途中の小さな胸を張ってドヤ顔を決めた。
「でも、リオン隊長にかけられた時みたいな力は出てるように感じないんだけど・・・・・・。」
「今の状態は前段階だよ。まず1つ目は霊力の操作。今やった霊力を馴染ませる行為のことだ。2つ目にそれぞれのエンチャントスキルを発動させる。3つ目は霊力が最適化になるよう制御を行って、最後にいつでも瞬時に最適な霊力でエンチャントスキルを発動させることができれば完璧だ。」
つまり、秋斗達は一つ目は課題はクリアできたってことになるのか。続けてリオンが次のステップであるエンチャントスキルの発動について説明を行ってくれた。
まず、エンチャントスキルは各属性によってちゃんとスキルが発動する。体中に霊力を回すようにしてもエンチャントスキルは発動しないようだ。
ストレングスは火属性。ディクストリーは風属性。アジリティーは雷属性。自身の体の頑丈さを向上するのは水属性で装備の頑丈さを向上させる土属性とのこと。
「エンチャントスキルを発動させるための属性変化だけど、霊力の色を変化させることで属性変化ができる。まぁ、これもイメージができれば簡単だよ。火属性であれば赤に。風属性は緑に。土属性は黄色。雷属性は紫。水属性には青といった具合だ。コツと言うわけではないが、イメージができればズバリの属性に霊力を変化させることができる。」
リオンは手のひらで霊力の球体を作り、それぞれの属性変化した時の色を見せてくれた。霊力は蒼く霊気は黄色で見分けがつきにくいのかと思ったが、そんなことは無かった。霊力は絵具の青色に近い色をしていたが、水属性は青空の色に近い青だ。霊気の方は明るい黄色で土属性は黄土色のような色をしていた。色だけであればイメージでいけそうな気がするが属性と言われるとピンとは来ないな。
「うーん。」
秋斗はリオンのように霊力を手のひらに集めて霊力の球体を作り上げる。どういうイメージをすれば良いのかよく分からないが、イメージのし易い火属性でイメージをしてみるか。やっぱり火といえば、燃えているイメージがあるな。秋斗は目を瞑り、蝋燭に火が点いているイメージをした。
「ほう。中々やるじゃないか。」
「さすが兄さん。」
「あたしより先にできちゃうなんて!」
皆の声に秋斗が目を開けると、そこに映っていたのは手のひらにあった霊力が自分がイメージしていた形となり、赤くなった霊力の姿だった。リオンと目が合うと。
「合格だ。」
リオンは右手をサムズアップにして微笑んでくれたのだった。
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