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5話 修行①

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・。いつまで走るのぉ!?」

「ハァ・・・・・・文句を・・・・・・言うなよ・・・・・・仕方ないだろ?」

「夏美が・・・・・・何でもするって・・・・・・言うから・・・・・・。」

「だって・・・・・・異世界だし・・・・・・普通・・・・・・三対一・・・・・・あたし達・・・・・・の方が・・・・・・。勝てなかったけど・・・・・・。」


秋斗達はリオンの霊術の時空転身で山岳に連れてこられてから約半年もの間、強くなるための訓練をしていた。強くなるための訓練と言いながら剣や霊術を使った訓練ではない。一日数十キロの距離を全力疾走し、腕立て伏せや腹筋背筋スクワットなどの筋トレを行っていた。何回かのセットを熟すとリオンに霊術で身体を癒してもらい、また一からランニングから始まる。走る、筋トレ、回復のセットを繰り返し繰り返し行っている。夏美のストレスが徐々に溜まってきており、爆発した結果が今の状況である。しかしこれは自業自得だ。訓練が始まって一週間くらい経った頃の話だった。


▽▽▽


秋斗達は体作ることから始めるとリオンに言われ、ランニングから始まり筋トレを一日中行った。休憩の時間は無く、疲れたらリオンの霊術で体を癒しては訓練を再開する。リオンの霊術で身体の疲れはすぐに回復したが、精神的な疲れは溜まっていく一方であった。

最初に我慢の限界を迎えたのは夏美だった。いくつかのランニングと筋トレのセットを熟した後、夏美が山岳の真ん中で木霊するほどの叫び声を挙げたのだった。


「もういやぁああああああああ!」

「どうした?」


夏美が急に叫んだなので秋斗は心配になり声をかけた。疲れた表情を受けべながらも春奈も夏美に駆け寄っている。


「だって、訓練って言ったら剣とか魔法とかを学ぶもんじゃないの?」

「そう言われてもね・・・・・・。リオンも言ってたじゃない?まずは体を作るところからだって。」

「でもでも。剣とか魔法は!?」

「それも体を作ってからじゃないのか?」

「でもでも!」

「まだ一週間しかやってないでしょ?筋トレ一週間で身体できるわけないじゃない?ほら、頑張ろうよ。」


駄々をこねている夏美を何とか説得しようとしていると、リオンが声をかけた。


「どうした?怪我でもしたか?」

「怪我じゃないんですけど。」

「ん?」

「剣とか魔法の訓練がしたいです!」


リオンに夏美は目を輝かせながら直球に要求した。少し考えた素振りを見せるリオン。


「駄目だ。」


答えはノーだった。


「どうしてよ!?」

「霊術の中に身体能力向上の霊術があるんだが、それは元の身体能力が重要とされている。君達の現在の身体能力を1とした場合、身体能力向上の霊術をかけることで1を2にできる。」

「だったらその身体能力の霊術をかければ良いだけじゃないの?」


夏美の言う通りだなと秋斗は思っていた。身体能力を上げるために今の訓練をしているというのなら霊術を教わった方が良さそうである。しかし、リオンは夏美の言葉に首を振った。


「霊術全てに言えることだけど、霊術にはそれぞれ適正な量がある。どれだけ霊力が持ち合わせていても霊力を込め過ぎればその効果は下がるし、霊力を少ない場合も当然100パーセントの効果を発揮することはない。まぁ、霊力が足りないよりもオーバー気味に使っている方がマシなんだけどな。それぞれの術で規定の量の霊力を使って術を使う。それ以上でも以下でも最大限の力を発揮しないわけというわけだ。まぁ一部の例外を除けば1を2ではなく、3にも4にもすることはできるが、その方法は今はすることができない。」


リオンの話を聞いて春奈は顎に手をやり、考えるように話した。


「なるほど、身体を鍛えて大本の身体能力1から2にした方が、効率よく力を身につけることができるということですね。」

「その通りだ。」

「でも、遠距離から霊術を使って倒した方が楽で良いじゃん。」

「そういう霊術はもちろんあるが、それで片が付くのなら、世界が滅ぶなんてことは無いし、英雄召喚なんてしないだろうな。」

「むぅ・・・・・・。」


夏美は頬を膨らませ、渋々といった表情をしているが一応は納得しているようだ。そんな夏美を見てリオンは少し考えると秋斗達に提案してきた。


「ふむ。成長の実感を体験するのが良いか・・・・・・。今から模擬戦をしようか。勝てば夏美の望むような訓練を行おう。」

「ほんと!?」

「もちろんだ。ただし、俺が勝ったら俺の提示する訓練を受けてもらう。それが条件だぞ?」

「もちろん!絶対に負けないんだから!」

「おいおい・・・・・・。どこからそんな自信が出てくるんだ?」

「まぁいいんじゃない?」


あまりにも自信たっぷりの夏美に頭を抱えたくなる秋斗にいつもの事だろうというような態度な春奈だった。


「まぁ模擬戦って言っても危ないことをするわけじゃないから安心してくれ。それじゃ、模擬戦について簡単に説明しようか。」


リオンが提案してきたのは、3対1の模擬戦だ。もちろん、秋斗達が3でリオンが1である。時間制限の模擬戦で秋斗達は武器を手に取り、リオンに挑む。対してリオンは秋斗達の攻撃を避けたり防御をして時間を稼ぐ。制限時間は一時間。この一時間の間に秋斗達が有効打をリオンに与えることができれば秋斗達の勝ちというわけだ。それを身体強化の霊術をかけた場合とかけない場合の2パターンを体験するというわけだ。


「よし、準備できたか?」

「「「はいっ!」」」


秋斗達はそれぞれ武器を手にとった。秋斗が手にしたのは木剣だ。春奈は細い刀身の武器であるレイピアを持っている。夏美は短剣を二本選んでいた。対してリオンは木刀を片手に持っている。

リオンはそれぞれ武器を振り回しいる秋斗達を見て問題ないことを確認した後、秋斗達に声をかけた。


「それじゃ、そろそろ始めるぞ。」

「よーし!頑張るぞぉ!」

「よし、それじゃぁ開始!」


結果だけ言うと惨敗だ。何一つ攻撃が当たらなかった。最初こそ一人ずつリオンに向けて武器を振るった。しかし、リオンはその場を動くことなく、向かってくる武器をサッと避け、避けた後に、隙だらけの秋斗達の背中押して距離を取ったりして全くと言っていいほど相手にならなかった。


ならばと3人同時に襲いかかったりもしたが、秋斗の武器を持つ方の腕を掴んで引っ張ると、春奈や夏美が振るった攻撃を秋斗の木剣で受け止めた後、ポンっと押しては抱き着くように秋斗達は倒れこんだりと全く歯が立たなかった。1時間の制限だったが、秋斗達は結局は体力の限界がすぐに来てで1時間も武器を振るっていられなかった。


「くっそぉ!」


悔しそうな声を上げたのは夏美だ。3人同時に行けば勝てるだろうと思っていた秋斗もどうにもならかったのでさすがに悔しいと思っている。春奈も声には出していないものの眉間に皺を寄せて悔しそうにしていた。秋斗達が膝に手をつけて息をしているとリオンが霊術で体力を回復してくれた。


「それじゃぁ次は霊術で君達の身体能力を強化してやってみようか。本当は自分で身体強化の霊術を唱えた方が効果は高いんだけど、まだ教えてないからね。それじゃあ行くぞ。エンチャントスキル、パッシブオール。」


リオンが霊術を唱えると、自分の身体が軽くなったような気がした。春奈も夏美も同じように感じているようだ。このパッシブオールの霊術には筋力強化のストレングス、素早さを上げるアジリティ、武器の扱う能力を上げるディクストリー、自分の身に着けている装備の防御力を上げるバイタリティーといった様々の能力を最大まで上げる霊術だ。この霊術は他人がかけるのと自分でかけるのでは効果が変わり、自分で霊術を使用した方が能力の向上が大きいらしい。この模擬戦では経験の差が大きいためリオン自身には、この霊術は使用していない。


「それじゃぁ開始!」


リオンが開始の合図を出し、第二ラウンドが始まった。霊術のおかげで先ほどよりも気合が入る秋斗達は、最初と同様に一人ずつ攻撃をしていく。先ほどよりも動きが早く力もあるはずだ。一撃を入れようと秋斗はリオンに向けて武器を振るった。しかし、霊術をかける前後で確実に動きは早いはずなのだが、リオンは易々と秋斗の攻撃を避けては秋斗と距離をとるために、腕を引っ張ったりして距離を取ったりしている。春奈や夏美の攻撃も同じようにリオンは躱している。

ならばと3人がかりで挑んでも残念ながら一発も攻撃が当たらない。先ほどよりもリオンは動いてはいるが、まだまだ本気を出してはいなかった。


▽▽▽


そんな感じで秋斗達はリオンに模擬戦で負けてしまったので、身体を作るために約半年もの間、身体を鍛え続けている。模擬戦は2か月に1回は行われるようになった。秋斗達の成長を見るためでもあるのだろう。変わらず敗け続けているが、少しでも良い勝負になるようにしたいものだと秋斗は考えている。


なんだかんだ、この6か月の訓練で力瘤も少し大きくなったように感じて秋斗としては少し嬉しかったりする。ランニングを終えて一息ついているところにリオンがこちらに向かってきた。こちらを見てリオンは少し考えた仕草をした後、一言秋斗達に声をかけた。


「来た当初に比べて大きく成長しているな。そろそろ普通のランニングも飽きた頃合いだろうから趣向を少し変えた訓練をしようか。」

「ついに霊術の訓練!?」

「まぁそれもあるが、午前の部と午後の部で訓練内容を少し濃くしようと思う。午前の部は引き続き今の訓練を続けるが、午後の部は霊術の訓練と障害物マラソンだ。」


ようやく霊術の訓練かと思ったが、障害物マラソンという言葉に少し嫌な予感を感じつつも新たな訓練に期待をする秋斗達一向であった。

読んでいただきありがとうございました。

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