2話 英雄召喚
「おぉ・・・・・・。やったぞ・・・・・・。」
「王に知らせてくる!」
声が聞こえてきた後、眩しくて見えなかった視界が徐々にだが見えるようになってきた。両隣には春奈と夏美の姿があり、一先ず秋斗はホッと安堵する。
「ここ・・・・・・は?」
続けて辺りをキョロキョロと辺りを見回してみると、地面には黒い模様のようなものが描かれており、その模様の外側には何人か教会の神父のような白い服装をした老人が十人ほどいて、こちらの様子を伺っている。そんな中、神父のような老人たちの間から赤髪で長身の女性がこちらに向けて歩いてきた。
「ようこそ、アルカディア王都へ。こちらへどうぞ。」
秋斗達は言わるがままに女性の後ろへとついていく。道中を歩きながら春奈と夏美の様子を見てみると、顔を強張らせ、少し不安そうにしている春奈と興味津々で辺りを見回している夏美の姿がある。あまりはしゃぐなよと思いつつも秋斗自身は少し緊張気味だ。すれ違う鎧を装備した兵士達からは異様な目線を送られるのだから無理もないだろう。
5分ほど歩いた先に大きな扉が見えてきた。警備兵なのだろうか。槍を装備した兵士がそれぞれ扉の左右に立っており、目を光らせている。扉の近くに行くと、赤髪の女性が声を兵士にかける。
「王に至急謁見を。召喚者たちを連れていくと言伝を頼む。」
「はっ!只今!」
門番の兵士は門の中に入ってすぐに戻ってきて秋斗達に門の中入るよう促した。
「謁見の準備ができました。こちらへどうぞ。」
「では、行きましょうか。」
秋斗達は赤髪の女性に促されるまま門の中に入る。ほんの少し歩いた先にまた扉があり、そこにも門番がいた。こちらに気づいた門番に赤髪の女性が手を上げて門番に合図すると、門番はすぐに扉を開けてくれた。
扉の中へと入ると、天井は三階建ての家と同じくらいまでの高さがある。赤絨毯が向かいにある二台の背丈の高い玉座まで敷かれている。その玉座に座っている老人は王冠を身につけているところを見るとこの国の王であることがすぐに分かった。王様の隣に鎮座しているのは王様の妻にだろうから王妃なんだろう。王妃の反対側には眼鏡をかけている子供のように小さな女の子が秘書のように王様のすぐ傍で立っていた。
(王様の子供?)
秋斗はそんなことを考えながら辺りを見渡すと、赤い絨毯を挟むようにして鎧を身に着けた兵士や烏帽子を身に着けている黒い服装をしている人が十人程度立っていた。
秋斗達は赤髪の女性に付いて歩いていく。玉座の近くまで歩いていくと、赤髪の女性は王様に膝をついて首を垂れていた。秋斗達はどうすればよいか分からないまま立っていると赤髪の女性が話を始めた。
「陛下、召喚された者達を連れて参りました。」
「うむ。よく来てくれた。選ばれし召喚者達よ。我の名はカイル・リ・アルカディア。この国の王をしている。君達の名前を聞いても良いか?」
カイルは威厳のある声でこちらに話かけてた。
「神無月秋斗です。こっちは妹の春奈と夏美です。」
「うむ。秋斗に春奈に夏美だな。よろしく頼む。色々質問はあると思うが、まずは、我らが君達を召喚した理由だが、とある預言者から5年前後に世界が滅ぶとの預言が出た。この世界の力を結集しても勝てないと言われてしまってな。対策もないために召喚・・・・・・英雄召喚を使用したのだ。」
「はぁ・・・・・・。」
カイルは玉座から立ち上がり、秋斗達の元に近づくと軽く頭を下げた。
「急に呼び出してすまなかった。可能であれば、貴殿らの力を借りたい。」
「えっと・・・・・・。」
「分かりまむぐっ!」
「ちょっと夏美!」
「これって、家に帰してほしいって言ったら帰してくれるんですか?」
「お主達を召喚の陣で呼び出した故、呼び出した召喚の陣の力を起動すれば帰すことはできる。だが、それには4年はかかる。」
秋斗がカイルの頼みの返事を渋っていると夏美が勝手に返事をしようとしていた。慌てた春奈は夏美の口を手で塞いでいた。さて、返事をしたいところではあるが、正直に言うと春奈と夏美を危ないことには巻き込みたくないものだ。なので、秋斗の返事としてはこうなるか。
「少し考えさせてください。」
「うむ。そうだな・・・・・・。分かった。ではクレアよ。一先ず彼らを部屋に案内してほしい。・・・・・・あぁそうだ。もうそろそろ総隊長も帰ってきているであろう。奴の紹介しておいてくれ。」
「はっ!」
「秋斗達の良い返事を期待する。」
赤髪の女性はどうやらクレアという名前らしい。カイルからの命を受けたクレアは返事をして立ち上がる。王様との話し合いはこれで一旦は終わりのようだ。4年はかかってしまうものの元の世界に帰ることができることに一先ず安堵するべきだろうか。
「どうぞ、こちらへ。」
どうするか考えているとクレアと呼ばれた女性に促され、秋斗達は玉座を後にしたのだった。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私の名前はクレア・フライムです。騎士団の副隊長をしています。よろしくお願いいたします。」
「神無月秋斗です。」
「春奈です。」
「夏美だよ。」
「三人ともお疲れのところ申し訳ないのですが、総隊長が遠征からもう帰ってきているはずなので、顔合わせだけお願いします。」
「分かりました。」
「では兵舎に向かいましょう。」
クレアとの自己紹介を済ませた後、秋斗達は総隊長という人に会うことになった。
クレアの案内で秋斗達はと大きな門から外に出る。後ろを振り返るとヨーロッパにあるような城が存在感を放っており構えており思わず圧倒された。春奈も夏美もお城の迫力にキャッキャとしていた。
その道中に秋斗はクレアに質問してみる。
「そういえば、召喚されたのは僕達だけなんですか?」
「そうですね。皆様のような力のあるの方々を召喚するのは難しいですから。」
「力・・・・・・ですか?僕達にそんな力は無いとは思いますけど。」
「ご謙遜を。」
フェアリーも力は既にあると言っていたが、秋斗達にはそんな自覚はない。春奈も夏美も同じことを思っているようで頭にはてなが浮かんでいるように見える。そんな話をしながら15分ほど歩くと大きな広場があった。
「ここが兵舎になっています。」
クレアが指さした方を見てみると学校に似たような建物の兵舎がある。兵舎の隣では兵士が馬を建物に収納されていっていたので、馬房ということが分かる。秋斗達はクレアに兵舎の中の一番奥に行ったところに案内された。クレアはノックをして、部屋主に声をかけた。
「総隊長。本日召喚された方々を案内しました。」
「クレアか?入っていいぞ。」
部屋主である総隊長が入る許可が出てからクレアは扉を開けたると、まるで社長室のようなデザインをしている執務室がそこにあった。椅子に座っている隊長を見ると秋斗達はその姿に驚愕してしまう。
「冬馬・・・・・・?」
そこには交通事故で死んだはずの冬馬が居た。背丈は少し大きく見えるが、顔は瓜二つで秋斗は驚きを隠せない。春奈も夏美も同じで口元に手をやり驚いていた。総隊長は疑問に思いながらもこちらに話かけ始める。
「ん?俺はトーマという名ではない、俺の名前はリオン・アルファード。この国の総隊長をしている。よろしく頼む。」
リオンはそう言いながらこちらに向けて手を差し出し握手を求めていた。思考が停止していたが、差し出された手を思わずとって握手を交わした。リオンは優しく微笑むと春奈や夏美とも握手を交わしている。
「なるほど、確かに凄まじい力を感じるな・・・・・・。」
「そうですか?僕達はそんな力は無いと思うんですけど。」
「そうか、自覚はないか。だが、その力に関してはすぐに自覚することになるだろうから気にすることはない。」
「はぁ・・・・・・。」
「今日は君達の歓迎会になるだろうから、それまでは部屋で休むといい。」
「はい。」
そんな話をしてから秋斗達は執務室を出て、兵舎にある一室に入ることになった。クレアからは時間になったら呼びに来るので寛いでくださいと言われたので秋斗達は各々で寛ぎ始める。秋斗は椅子に座り、春奈や夏美はベットに転がるように倒れこんでいる。沈黙した時間が続いたが最初に口を開いたのは夏美だった。
「それにしても驚いたね。冬馬っちがここにいるなんてね。」
「冬馬君じゃなくてリオン総隊長よ。」
「いやー。すっごい顔がそっくりだったからつい。」
てへへと笑う夏美に間違えないように注意する春奈を眺めながら、秋斗は今後についての話をすることにした。
「これからどうする?」
「協力すればいいと思うけどなー。」
「夏美は楽観的すぎるのよ。」
「でも、あたし達が協力しないとこの世界が滅んじゃうんだよ?」
「・・・・・・分かってはいるけど・・・・。兄さんはどう思う?」
「僕は春奈と夏美が危険な目にあってほしくはないかな。だから僕だけ協力してって二人はここに残るのが良いかなって思ってる。」
「やだ!あたしも協力するんだから。異世界召喚なんて燃えるじゃない!」
「って言うとは思ったよ。だから、止める気はないよ。これに関しては自分達で判断するしかないんじゃないかなって思う。そうなると、僕と夏美はこの国に協力するって形になると思うけど。春奈はどうする?」
「私は・・・・・・二人が協力するなら私も協力する。」
「そうか、それじゃあ決まりだ。」
話し合いをした結果、秋斗達はこの国に協力することになった。5年前後で世界が滅亡する話ではあるが、召喚の陣を使えば滅亡する前に元の世界に帰れるし、それを見越した召喚だったのではないかという楽観的な考えが秋斗の中にあった。秋斗達の今後の方針が決まったことで一先ずよかったかなと思う。その後の話し合いをしようとしたところで部屋の扉をノックされた。
「失礼します。」
「どうぞ!」
秋斗が返事をするとクレアが入ってきた。
「歓迎の準備ができましたので、案内します。」
「分かりました。」
歓迎会の準備ができたということなので、秋斗達はクレアに案内されて会場へ向かうのだった。
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