22話 ゴブリンキングの脅威
ゴブリンナイトの数は全部で8体おり、その奥にゴブリンウォーロックが2体居る。
「兄ちゃん。あたしが奥に居る魔法使いを倒すよ。」
「さすがに危険すぎる。」
「でも、こういう時は奥に居る後衛から倒すのが基本なんだよ?それに後ろの魔法使いを倒さないと治癒してる春姉に魔法が飛んでくるかも。」
「分かった・・・・・・。けど無茶はするなよ?」
「分かってるよ!」
夏美の言葉に悩みながらも夏美の戦うセンスなら大丈夫だろうと判断して秋斗は頷いた。秋斗の了承をもらった夏美はそのままゴブリンウォーロックに向かって走り出す。
「ストーンバレット!」
「影分身!」
秋斗の霊術で前方にいる6体を牽制しつつ、残りの2体は夏美の影分身が対応して道を切り開き、夏美はウォーロックに戦いを挑んでいく。霊術で牽制した秋斗に最前列にいる2体のゴブリンナイトが武器を構えて向かってきていた。
「まずは、前の2体から順番にいくぞ。」
秋斗は剣を握り、先行してくるゴブリンナイトを迎撃する。秋斗は霊術で1体を牽制しつつ近接で1対2にならないように立ち回りながらゴブリンナイトの攻撃を上手くいなしながら確実に鎧がない部分を斬りつけていく。
「これで1体目!」
秋斗はゴブリンナイトの首を斬りつけると最初の1体目を倒した。一息したいところだったが、秋斗は目の前に立っている5体のゴブリンナイトに対処するために動いた。
一方、夏美も自分で言った仕事を始める。背後から2体のゴブリンナイトが追いかけてきていることを感じつつも春奈に攻撃がいかないようにゴブリンウォーロックにを仕留めるために足は止めない。ゴブリンウォーロックもただ待っているだけでなく、魔法を使って夏美に攻撃を開始する。
ゴブリンウォーロックの魔法を軽々と避けていき、距離を詰めた夏美は大きく飛ぶとゴブリンウォーロックの影にクナイを投げると、影縫いでゴブリンウォーロックの動きを封じると、夏美はゴブリンウォーロックの首に短剣を突き立てる。
「影分身!」
夏美は休むことなく、向かってきた2体のゴブリンナイトの対処に動いていた。そんな夏美の姿が目に入った秋斗は安心して5体のゴブリンナイトの迎撃に入ることにした。
秋斗はゴブリンナイトに背後が取られないように立ち回りながら動き、霊術を駆使しながら背後を取られないように戦う。上手く戦っている秋斗だったが、実戦で複数の敵を相手をするのは厳しい。ゴブリンナイトの一振りを防ぐと大きく後方に退く。
「さすがに5体同時に相手をするのは骨が折れる・・・・・・。でも、これなら!」
秋斗は地面に手をつけると霊術を唱える。
「ストーンエッジ!」
秋斗は5体のゴブリンナイトに石の刃を突き立てる。動きの遅れた3体のゴブリンナイトは石の刃によって命を刈り取られる。これで残すところ2体。秋斗は油断することなく霊術を駆使して危な気もなく残りのゴブリンナイトを倒す。一安心した直後だった。
「きゃああ!」
夏美が悲鳴を上げながら飛んでいる姿が見えた。
「クッション!」
悲鳴を上げながらマズいと直感で感じ取った秋斗は霊術で夏美を保護して受け止める。
「大丈夫か?」
「うん。大丈夫。ちょっとあのゴブリンの力が強すぎて飛ばされちゃっただけだから。」
夏美の視線を追うとそこにはダンジョンの主であるゴブリンキングが肩に大剣を担ぎながら立っているのが見えた。禍々しい魔気のオーラを体中に漂わせており、見た瞬間に危険な魔獣だと判断できた。
「あれって本当にゴブリンなのか?」
「一応?」
一先ず夏美を立たせて戦闘態勢に入る。この時、2対1なら何とかなると秋斗も夏美も考えていたが考えが甘かったと後に痛感させられる。
「うぉおおお!」
「やぁあああ!」
秋斗と夏美はゴブリンキングに突撃をかける。ニヤリと笑う表情を浮かべるゴブリンキングに嫌悪を感じつつ、攻撃をかける秋斗達だったが、魔装を使っているゴブリンキングには攻撃が届く様子はない。夏美の影分身で何とか相手の攻撃を上手く往なせているように見えている。
「兄ちゃん!」
「分かってる!」
ゴブリンキングに反撃の隙を与えないように立ち回る秋斗と夏美であったが、緊張感のある戦いに少しずつ疲れが表れ始めていた。そんな戦いの状況を見てクレアがポツリと言葉を零す。
「これはマズい状況ですね・・・・・・。」
春奈の霊術のお陰でほとんどの傷が治癒されたクレアは、ゴブリンキングとの戦いを見て戦況を霊力の回復に努めている。
「そうなの?兄さんと夏美が押してるように見えるけど。」
「ゴブリンキングはまだまだ余裕があります。秋斗と夏美が霊装を使えれば勝算があるのですが・・・・・・。」
「そんな・・・・・・。」
治癒を続ける春奈は秋斗と夏美の戦いをよく観察する。二人は険しい表情を浮かべながらゴブリンキングに攻撃をしていた。秋斗の霊術で牽制しつつ斬撃をしており、夏美も影分身で手数の多い攻撃をしているのにも関わらず、ゴブリンキングに有効打を打てていなかった。一方で、ゴブリンキングにはニヤニヤと不快な笑みを浮かべて戦っている。防戦一方のはずだが、焦り一つ見せずまだまだ余裕があるように見えた。
「何とかならない?」
「傷はほとんど癒えましたが、戦闘に加わるためのまだ霊力が足りません。」
クレアは悔しそうな表情を浮かべながら戦況を見守る。春奈も治療を続けながら秋斗達の戦闘を見守る。そんな時、春奈に懐いていた精霊がじっと春奈を見つめているのに気づく。
「どうしたの?」
(このまま、二人危ない。)
片言ではあるが、しっかりと精霊の言葉を理解できた春奈。精霊の言葉が聞こえていないクレアは春奈に声をかける。
「春奈?どうかしましたか?」
「ちょっと待って。」
春奈はクレアの言葉を遮って人差し指を口元へと持って行った。続けて精霊との会話を試みる。
(力、貸せる。春奈も戦う。)
「でも、この人の治癒がまだ・・・・・・。」
(これ以上は限界。)
春奈の視線には痛みに苦しんでいるクライの姿があった。クレアを優先して治癒していたため、クライの治療がまだだった。
「クライは私が治癒するから。これ以上足手まといになれないもの。」
「分かりました・・・・・・。ではお願いします。」
カミールの言葉に春奈も戦いに加わる覚悟を決めた。その直後、鉄球が壁にぶつかったような重い音を立てる。
「ゴホッゴホッ!」
「兄ちゃん大丈夫!?」
「大丈夫だよ。壁にぶつかる前に霊術で衝撃を緩和したから。夏美も大丈夫か?」
「兄ちゃんが庇ってくれたから大丈夫!それよりもあいつ力ありすぎでしょ?どうなってんの?」
「二人がかりで受け止めても力負けするなんてな。」
思わず秋斗はゴブリンキングの力に苦笑いを浮かべた。そんな二人に春奈が駆け寄ってくる。
「二人とも大丈夫!?」
「大丈夫だ。それよりもクレアさんの方は?」
「クレアはほとんど治療は終わったけど、クライさんの方はまだ終わってない。」
「なら、もう少し時間を稼ぐか。」
秋斗は立ち上がろうとするが腰が抜けたように立ち上がることができなかった。同じように立ち上がろうとするも秋斗と同じように立ち上がれないでいる。
「兄さん!?夏美!?」
「いや、本当に怪我してるわけじゃないんだけど。」
「霊力をかなり消費したからでしょう。」
「そういうことか・・・・・・。」
春奈と一緒にやってきたクレアがそう言うと、秋斗は納得した表情をする。春奈と夏美も心当たりがあった。秋斗はアルカディアに向かう途中からダンジョンまで、ウィンドウォーカーの霊術を常に使用しており、かなり霊力を消費していた。夏美はゴブリンキングとの戦いで影分身と武技などの多用で秋斗の倍以上の霊力を消費していたため、同様に霊力の消費が激しかったのだった。
「大丈夫。私が頑張る。精霊の力も借りれるから。」
春奈はゴブリンキングを睨みつけると、細剣を取り出して一人で戦う。いや、精霊とともに戦う覚悟を決めた。
「お願いね。精霊さん。」
春奈の言葉に精霊は頷くような仕草を見せる。どこか安心したように表情を浮かべながら春奈は集中して霊気をコントロールし始める。
「できたことはないけど、今なら・・・・・・。霊装!」
春奈は霊気をコントロールし、霊装と唱えると、精霊が春奈を覆うようにして春奈と一体化していく。春奈と精霊が一体化したことで霊力が膨れ上がり、魔気で満ちていたダンジョンを浄化するように春奈の霊力が溢れていた。
(私はセラフィム。聞こえますか?春奈。)
「え?この声はどこから?」
春奈はキョロキョロと辺りを見渡し、セラフィムと名乗った声の主を探した。しかし、その声の主を見つけることができない。
(私は今、春奈と一体になっています。今なら私の力の一部を使いこなすことができるはずです。共に戦いましょう。)
「分かりました。お願いします!」
(いつも通りで構いません。肩の力を抜いてください。)
少し緊張気味の春奈に優しく声をかけるセラフィム。春奈の気持ちも少し楽になったのか、肩の力が少し抜けた様子だった。
「うん。分かった。よろしくね!セラフォム。」
(はい!)
春奈とセラフィムは戦う準備ができ、武器を構えると天使の翼が春奈の背中から片翼だけ生えたのだった。春奈の霊力が大きくなっていくことを感じ、ゴブリンキングは笑みを消し、春奈の霊力を不快に感じていた。大きく咆哮すると、春奈の霊力に対抗するように魔気を溢れさせ、大剣を構える。
戦う準備を終えた二人は再び睨み合った。少しの静寂の後、二人は同時に駆け出しで戦いが始まったのだった。
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