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21話 春奈の不安

「ふぅ。クレア大丈夫かな?」

「大丈夫だよ。あたし達なんかより強いんだから!」


秋斗達はリオンに手紙を渡すために馬車に乗って、ファルア村から王都に帰還している最中だった。ファルア村から出て半刻ほど経っていたところだった。春奈はクレアと別れてから落ち着かない様子で頻りにファルア村の方を見ている。


「そんなに気になるのか?」

「うん・・・・・・。」


秋斗も春奈と同じようにファルア村がある方角を見る。秋斗は春奈の嫌な予感というものがピンと来ていなかった。夏美もどれどれと言ったような顔をしながら馬車からファルア村を覗き見るがすぐに馬車の中へと引っ込んでいった。


それからまた少し、馬車でゲートがある砦へと向かって行くと、春奈は意を決したように口を開いた。


「兄さん。夏美。今からでもクレアを追いかけよう!」

「へ?」

「どうした急に。」

「実は・・・・・・。」


春奈は話を始める。それはこの世界に来て修行を始めたころの話だった。修行を始めてから五日ほど経った頃に、修行が終えてから春奈が家で夕飯を作っていた時の出来事だった。


▽▽▽


「今日の夕飯は何にしようかな?やっぱり修行きつかったし、鍋にして簡単に済ませちゃおうかな?」


春奈はそう言いながら鼻歌交じりで夕飯の準備に取り掛かる。野菜やお肉を一口サイズよりもやや大きめにして切っていく。すると、誰もいなかったはずのキッチンで棚が開く音がして春奈は思わず驚いて音のなる方へ振り返った。


「え!?何!?」


春奈が目にしたのは黄色く光る球体が棚を開けていたのだった。球体も春奈の声に驚いて春奈の方に振り返っているように見えた。春奈は若干焦ったような顔をしながらも、浮かんでいる光の球体をじっと観察した。黄色く光る球体は少し赤くなり、照れているように春奈は見えていた。


「そういえば、霊力を感じ取る時にリオンさんが見せてくれた霊力と同じ感じがするわ。霊力がこんなに自由に飛び回ってるのは精霊ってことなのかしら?」


光の球体になっている精霊のことを考えていると球体は作業を続けるように取り皿や鍋敷きをテーブルに並べてくれていた。


「あ、ありがとう。えっと・・・・・・精霊さん?」


春奈がお礼を言うと精霊は嬉しそうに春奈の周りをクルクルと飛びまわった。これが春奈が精霊との初めての出会いとなった。


夕飯の準備ができた春奈は秋斗と夏美に精霊が居ることを驚かせようと精霊を手に隠して椅子に座ると

声を上げて二人を呼んだ。


「兄さん!夏美!ご飯できたよ!」


春奈に呼ばれた秋斗と夏美は大声で返事をしながら階段をドタバタと下りていく。階段の下りる音だけで二人がお腹を空かせているのが分かるほどだった。修行で腹を空かせていた二人は待ってましたとばかりに椅子に座る。


「それじゃ、頂きます!」

「いっただきまーす!」

「召し上がれ!」


挨拶をした二人に精霊を見せるようにして春奈は手を広げる。春奈は秋斗と夏美の反応を待っているが、反応は無く、食事を始めてしまった。


(あれ?精霊が見えてないのかな?)


秋斗も夏美も精霊が自分たちの周りを飛びまわっているにも関わらず、反応が無く鍋に夢中になっている。それを見た精霊もがっかりした様子で秋斗と夏美の周りを飛びまわるのを止めると、春奈の傍で漂っていた。それを見て春奈も若干気を落として食事を始めるのだった。


翌日になり、修行に行く準備を済ませた春奈はリオンの元へと向かい、精霊のことを尋ねた。


「おはようございます。リオンさん。」

「ん?おはよう春奈。早いな?」

「はい。ちょっと聞きたいことがあって。出てきて?」


春奈の呼びかけに答えて春奈の後ろから顔を覗かせるようにして精霊は姿を現した。


「ほう。光の精霊か。」

「え?リオンさんは見えるのですか?」

「あぁ。見えるよ。まだ微弱だが光の精霊で間違いないな。」

「良かった・・・・・・。」

「どうかしたか?」

「実は、兄さんと春奈には見えてないみたいで。」

「そうか。まだ修行を始めて間もないから仕方ないさ。霊力を知ることで徐々に精霊の存在を感じられるはずだから焦らなくていいよ。この光の精霊も今は微弱だが、春奈が力をつければその分精霊が応えてくれるはずだからしっかり修練しよう。」

「分かりました!」


春奈はリオンの言葉どこかスッキリした様子で修行に励む。これが春奈と精霊の初めての出会ったとなっていた。


▽▽▽


「そんなことがあったのか。光の精霊は今も居るのか?」

「居るよ?」


馬車を止めて春奈の話を黙って聞いた秋人と夏美は精霊が近くにいたことを驚きつつ、周囲を見渡すが、精霊の姿は見えなかった。


「見えないな。」

「ほらここにいるよ?」


春奈は右腕の裾に指をさして精霊の居場所を教える。秋斗と夏美は身を乗り出して春奈が指をさした方を見るが、何も見えずにいた。


「見えないね?」

「いや、いるっぽいな。姿は見えないけど・・・・・・。」

「うーん?」

「よく見てみろ。春奈の服の裾を何かが引っ張ってる。」

「本当だ!」


姿が見えないものの秋斗の指摘で夏美も精霊が傍に居ることが分かった。二人が精霊を存在を認識したところで春奈が話を始める。


「実は馬車を乗って出発した辺りから村に戻るようにって裾を引っ張ってるみたいなの。」

「そうなのか?」

「じゃあ戻った方が良くない?もしかしたらダンジョンがやばいことになってるかもだし。」

「そうだな。それじゃ一旦村に戻るか?」

「そうしよ?」


秋斗達は馬車から降りると、そのまま御者に王都に手紙を届けてもらうことにしたのだった。


「それじゃ、急いで向かおう。」

「今から走っても結構時間かかりそうだね?」

「大丈夫だ。移動系の霊術を使えば馬車に乗っていくよりも早くダンジョンに行けるぞ。ウィンドウォーカー。」


秋斗が霊術を唱えると、秋斗達の体に風が纏った。


「行くぞ!」


秋斗がそう言うとまるでスポーツカーにでも乗っているような速さで走り始め、春奈と夏美も秋斗に遅れないよう走り始める。


「すごい早いね!」

「だろう?スピードの調整が難しくて戦闘にはまだ使えないけどな。」

「これなら間に合うかも。」


そうして秋斗達は急いでダンジョンに向かった。1時間ほどで村にたどり着くと、秋斗達は駐屯地へと向かった。そこにグランツの姿が見える。


「グランツさん!」


秋斗の声にグランツが少し驚いた表情をしながら秋斗達の元へと駆け寄る。


「これは皆さん。どうなされたのですか?王都への手紙は?」

「嫌な予感がしてこっちに戻ってきました。手紙は御者の方にリオン総隊長に渡すよう依頼しました。」

「そうですか・・・・・・。」


グランツは少し考えたような仕草を見せる。


「一先ず、手紙が王都に届くことを祈るしかないですね・・・・・・。それで、これからどうするので?」

「クレア副隊長を追いかけてダンジョンに向かいます。」

「であれば急いだ方が良いでしょう。既にファルア村を出立して2時間は経っています。低階層のダンジョンと聞いていますので、ダンジョン主の元に着いているかもしれませんから。」

「分かりました。」


秋斗達は村で休むことく、ウィンドウォーカーで風を纏ってからゴブリンのダンジョンに向かった。

半刻が過ぎた辺りで秋斗達はダンジョンにたどり着くことができた。ダンジョンからは禍々しい紫色の魔気が溢れかえっていた。


「この魔力の色はA級のダンジョン?」

「A級ダンジョンで合ってるわ。」

「燃えてくるわ!サクっと行こう!」


魔気に少し体が強張った秋斗と春奈だったが、夏美は恐れ知らずでワクワクしている様子だった。ポジティブな夏美を見て、秋斗と春奈は少しだけ元気が出たのであった。


「急ごう。」


秋斗がそう言うと、春奈たちは頷いてダンジョンの中へと入っていった。


「ゴブリン一匹も居ないね?」

「クレア達が多分倒したんじゃないか?」


ダンジョンの中は魔気が漂っているものの、先にダンジョンに入ったクレア達がゴブリンを駆逐していたため敵の姿は見えなかった。念のために秋斗達は警戒をしながらダンジョンの奥へと進んでいく。4階層まで来た秋斗達は大広間で複数の人影を見つけた。


「おーい!」

「ん?なんだ?」


秋斗達に気づいた一人の男が秋斗達の方へと駆け寄ってきた。


「お前たちは何者だ?」

「僕は秋斗っていいます。こっちは春奈に夏美です。皆さんはここで何を?」

「あぁ、俺たちはここでリーダー達を待ってんだ。ここから先は俺たちじゃあ足手まといになるからここで待機してんだよ。」

「クレアは先に進んだってこと?」

「クレア?ああ、あの騎士か・・・・・・。そいつならリーダー達と一緒にこの先の5層に進んだぜ?」

「ほんと!?じゃあ急がなきゃ!」


夏美の質問に男は答える。夏美は指を鳴らして先へと進もうとするが、男に行く先を止められてしまう。


「待て待て待て、こっから先はかなりやべぇんだ。そう簡単に行かせる訳には行かねぇよ。」

「大丈夫です!早く行かせてください!」

「でもなぁ。」


精霊が急いでと言っている感じた春奈は少し焦ったようにして男に言うと渋るような声を出す。秋斗達が問答をしていると5層へと行く通路から強烈な魔気を感じ取った。大広間達に居る全員が体が一瞬硬直するほどの魔気であった。


「兄さん!早く行かないとクレアが!」

「あぁ。急ごう。今のを感じたでしょう?悪いけど、先に行かせてもらいます。」

「クソッ!どうなっても知らねぇからな!」


男はそう言うと秋斗達に道を譲る。秋斗達は頷き合うと急いで5層へと足を運んで行ったのだった。

5層までの通路はそこまで長くはなかった。敵も居らず数十分で最深部にあるダンジョン主がいる扉までたどり着く。秋斗達が閉まっている扉を開けると、クレア達がゴブリンナイト達に壁際まで追い込まれているところに出くわした。


「やばっ!」


飛び出すようにして夏美はダンジョン主の部屋へと入るとクナイに似た短剣を鞄から取り出してゴブリンナイト達に投げる。ゴブリンナイト達には当たらずに地面に突き刺さった。すると、体を動かすことができなくなったゴブリンナイト達は焦った顔をしてその場で動けないでいた。


「良かった!間に合ったよ!」


夏美は影縫いと言う技でクナイに霊力が込められており、対象の影に突き刺して動きを封じる技だった。夏美の投げたクナイは全てゴブリンナイトの影を捉えていた。


「ウィンドインパクト!」


動けないでいるゴブリンナイト達に秋斗は風の霊術を唱えてゴブリンナイト達を吹き飛ばすと、怪我負っているクレア達の前に立つ。春奈はクレア達に駆け寄り、霊術で治癒を始める。


「春奈・・・・・・。あなた達・・・・・・。どうしてここに・・・・・・?」

「話は後。早く治癒するから。すいません。そっちの彼もこっちに連れてきてもらっていいですか?」

「分かったわ。」


治癒を始めた春奈の指示に従ってカミールは怪我をしているクライを春奈の元まで運ぶと、春奈はクライも治癒を始めた。吹き飛ばされたゴブリンナイト達は立ち上がり、地団駄を踏んで怒りを露わにすると武器を持って秋斗達に突撃し始める。


「兄さん!」

「分かってる。こっちは何とかするから治癒に専念してくれ。夏美。行くぞ!」

「オッケー!」


夏美は秋斗に返事をすると、ゴブリンナイト達との戦いを始まるのであった。

読んでいただきありがとうございました。

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