20話 魔装
クレア達は5層前の階段で休息を取った後にダンジョンの主が居る5層へと向かった。
「これは・・・・・・。」
クレアは以前5層に来た時と比べて通路などが整備されていることに気づいた。ダンジョン内の4層までは以前来ていた時と変わらなかったが、5層はまるで雰囲気が違っていた。魔気が漂っておりどんよりとした空気が辺りを覆っている。
「辺りに魔獣の気配はねぇな。」
「そうね。道も一本道になってるのね。ダンジョンによくある構造だわ。まぁ階級の高いダンジョンには入ったことないから噂で聞いた程度だけどね。」
軽い雑談をしながら道なりを進んでいくと大きな紫の扉がクレア達の前に現れた。
「扉の他はもう何もないわね。ここがダンジョンの主が居るところかしら?」
「そうでしょうね。中の様子は見れるでしょうか?」
「扉を少しだけ開けて中の様子を見るか?」
「はい。そうしましょう。」
クライは扉を少し開け、扉から顔を出す。クレアとカミールも同じように扉の隙間から顔の出して中の様子を見てみる。
「あれがダンジョンの主ですね。」
「まるで王室の中みたいな感じね。」
「そうだな。影になっててよく分からねぇけど、ゴブリンナイトとゴブリンウォーロックっぽいやつがいるな?」
扉の先に広がっていたのはクライが言った通り、王室の中みたいになっていた。一番奥には椅子に座っているゴブリンはどす黒い魔気が漂っており、王座の前はレッドカーペットがクレアが達が覗いている扉の前まで敷いてある。レッドカーペットを挟むようにしてゴブリンナイト立っており、玉座の左右にそれぞれゴブリンウォーロックが立っている。ゴブリンウォーロックはゴブリンウィザードの上位種に当たる。ゴブリンウィザードは攻撃魔法だけだったが、ゴブリンウォーロックは召喚魔法や回復魔法も使いこなす危険な存在だ。
「玉座に座っているやつ。影で姿がはっきり見えないが・・・・・・」
「居るね。ゴブリンキング・・・・・・。」
「やはりA級までダンジョンのレベルが上がっているみたいですね。」
一際威圧を放っているゴブリンキングは王城の玉座で肘を付けながら座っていた。ゴブリンとは思えない黒い肌で筋肉も発達している。ゴブリンとは思えないほど大きく身長は2メートルを超えていそうだ。ここに居るゴブリンナイトは4層に居たゴブリンナイトよりも一回り体が大きく装備が充実しており、騎士のような立派な装備をしている。ウォーロックはゴブリンキング達より体が一回り小さいがウォーロックらしいの階級の高そうな杖を持っていた。
クレア達は隙をついて一気にゴブリンキングを倒せないか周囲を見渡すがそんな都合の良いことはなかった。
「やっぱ奇襲なんてできるような都合の良い造りにはなってないな。」
「えぇ。正面突破しか無さそうね。」
「覚悟を決めましょう。」
クレア達はゴブリンキングの居る大広間へと向かうと、ゴブリンキングが玉座から立ち上がると、隣に居たゴブリンウォーロックから大剣を受け取った。
「キサマラ・・・・・・。シンニュウシャ・・・・・・。」
「人の言葉を喋ってる!?」
「噂通りってことかよ・・・・・・。」
ランクがB級以上となるダンジョンボスは人の言葉を喋る特徴だ。流暢に喋る者からゴブリンキングのうに片言で喋る者まで居る。
ゴブリンキングは大剣を引き摺りながらクレアの方に向かってきているが、ゴブリンナイト達は武器も抜かずにただ立っているだけで戦う気配は無い。どうやらゴブリンキング一匹だけで戦うようだ。
「クライとカミールはできる範囲で援護を。ですが無理はしないでくださいね?」
「えぇ。」
「分かってるよ。」
クライとカミールの返事を聞いてからクレアは覚悟してゴブリンキングに向かっていく。クレアは走りながらゴブリンキングに接近し、大きく飛ぶと剣を振り下ろす。ゴブリンキングは大剣で受け止めてクレアの剣を弾いた。
「カルイナ。」
ゴブリンキングはポツリと期待外れだとでも言いたげなように言葉を零した。そんなゴブリンキングの言葉にクレアは苛立ちを覚えながらも少し後ろに下がって大きく深呼吸すると、ゴブリンキングを睨みつける。次の攻撃をするためにクレアはゴブリンキングに接近する。
「はぁぁぁ!」
クレアは気合を入れて剣を振るもゴブリンキングは防御に徹し、全てを受け止めていく。クレアの初めの一太刀に比べると鋭く、重い斬撃を次々と受け止めていくゴブリンキングはクレアを見て嗤っている。
余裕そうなゴブリンキングを見てクレアは努めて冷静に隙を伺っている。
「霊術で援護できるか?」
「無理よ!クレアに当たっちゃうもの!」
「くそっ!」
クライはクレアの戦いを見て自分にできることは無さそうだと思い、カミールに頼むがカミールも同じように手を出すとクレアの邪魔になると考えていた。
「イクゾ。」
ゴブリンキングはクレアが間合いに入ったところを確認すると、クレアの斬撃を放つ隙を捉えて大剣を風を切るようにして一振りする。クレアは思わぬ反撃に剣と盾の両方を使って大剣を受け止めた。
「お・・・・・・重い!」
クレアは大剣を受け止めきれず壁に向かって吹き飛ばされる。壁に激突した。
「クレア!」
クライはクレアが壁にぶつかったのを見て叫ぶ。カミールは口を手に当てて驚愕の表情を浮かべていた。
砂煙でクレアの安否は見えない。
「クソッたれが!」
「待ってクライ!」
壁に吹き飛ばされたクレアを見てクライは冷静さを失う。剣を片手にゴブリンキング立ち向かっていく。
ゴブリンキングはつまらなさそうにしながら向かってくるクライを見る。大剣の間合いに入ったクライを見て大剣を薙ぎ払うようにして振る。
「まずっ!」
クライは青ざめながら迫りくる大剣に死を覚悟する。
「グォッ!」
しかし、ゴブリンキングの大剣はクライを仕留めることはなく空を切っていた。壁にぶつかったはずのクレアが壁から飛び出し、クライの首根っこを掴むと寸でのところでゴブリンキングの大剣は避けることに成功した。クレアはクライを抱えたまま大きくゴブリンキングから距離を取る。
「ゴホッ!ゴホッ!」
地面に降ろされたクライは何度か咳き込むとクレアを見上げると、クレアはゴブリンキングを険しい表情で睨みつけた。
「クライ!クレア!」
目尻に涙を浮かべながらカミールはクレアとクライの元へと走ってかけよっていく。カミールはクレアに怪我がないか調べようとするが、クレアは心配ないと制止した。
「壁にぶつかる前に風の霊術で壁を作り、衝撃を緩和しました。風の霊術で派手に見えたかもしれませんが、そこまでの怪我はありませんので、心配しなくても大丈夫です。それよりも・・・・・・。」
クレアの眼差しはゴブリンキングを捉えている。怪我をしていないクレアを見てゴブリンキングも楽しそうに嗤っている様子だ。
「このままだと厳しいですね・・・・・・。」
「勝てるの?」
「勝たなければなりません。せめてゴブリンキングだけでも倒さなければ、確実にスタンピードが発生します。」
ゴブリンキングは自分と同じゴブリン種を召喚する魔法を使うことができる。しかし、召喚魔法にはリスクがあるらしく。召喚魔法を使うと使った本人の力が弱まるといったものだ。そのため、基本的にゴブリンキングのように魔獣はダンジョン内に侵入者が居ると召喚魔法を使うことは無い。そのため、クレアはゴブリンキングだけでも倒す覚悟を決めていた。
「霊装!」
クレアは霊気を解放し、霊気を身に纏うと最速でゴブリンキングに近づき剣を振るった。
「ナニッ!?」
霊装により爆発的に身体能力を上がったクレアの速度に追いつけずゴブリンキングは何とか防御態勢を整えるが腕を斬りつけられていた。
「クゥッ!ウォオオオオ!!」
霊装を纏ったクレアのスピードに追い付けず、苛立った様子で叫ぶ。クレアは臆せずゴブリンキングを斬り刻んでいく。傷だらけになったゴブリンキングに止めを刺そうとクレアはゴブリンキングに詰め寄ろうとする。
「オノレッ!オノレッ!オノレェェッ!グォオオオオオオオ!!」
ゴブリンキングは獣のように荒々しく声をあげて大声で叫ぶと大剣を乱暴に振り回した。ゴブリンキングを確実に追い詰められている確信しながらも、クレアは焦ることなく、一度、ゴブリンキングから距離を取ることにした。
「ゼェ・・・・・・ゼェ・・・・・・。」
「いける・・・・・・。いけるぞ!やっちまえ!クレア!!」
クライは追い詰められているゴブリンキングを見て興奮しながらクレアに野次を飛ばす。
「ユルサン!キサマ!コロス!」
ゴブリンキングは肩で息をしながら声を荒げていた。肩で息をしていたが、徐々に息を整えクレアを睨みつける。
「コウカイシロ!マソウ!」」
「マソウ?」
クレアは聞きなれない言葉がどういう意味か一瞬考えていると、ゴブリンキングに魔力が集まっていく。黒く禍々しい魔力がゴブリンキングの体を覆っていく。
「これは、霊装と同じ・・・・・・?」
拙いと感じたクレアはこれ以上魔力がゴブリンキングに集まらないようにクレアは攻撃を開始する。
「はぁぁぁ!」
クレアの最速の攻撃はゴブリンキングの体にまで届くことは無く、大剣で受け止めていた。
「これは・・・・・・。」
「ナカナカヤルナ・・・・・・。」
鍔競り合いの状態で魔装の意味を理解したクレアは力を振り絞ってゴブリンキングの大剣を押し返す。
「なるほど・・・・・・。魔力の装衣で魔装と言うわけですね・・・・・・。魔力が充満しているこのダンジョンではこちらが不利になりますね。炎刃!」
ゴブリンキングはダンジョンに漂う魔力を媒介にして魔装を使っていることを瞬時に理解したクレアは、霊装を使用できる残り時間を計算し、早々に決着をつける覚悟を決める。
そこからのクレアの動きは速かった。すぐにゴブリンキングとの距離を詰めて斬りかかる。魔装を使用しているゴブリンキングはクレアの動きをしっかり捉えており、クレアの斬撃を軽く往なしてく。
「攻めきれない!ここまで対応なんて!」
斬撃だけでなく、霊術も使用しながらゴブリンキングを追い詰めようとするもゴブリンキングは上手くクレアとの間合い図って全ての攻撃に対応しており、ゴブリンキングがここまで戦えるとはクレアも想像しておらず、驚きを隠せないでいた。
霊装の時間も残り僅かであると感じたクレアは急いでゴブリンキングを仕留めようと動く。
「ウィンドカッター!」
風の刃と共に走っていくクレアは、ゴブリンキングに突っ込んでいく。ゴブリンキングは風の刃を大剣で受け止めると、風の刃の勢いに態勢を崩した。この隙を見逃すことなくクレアは攻めかかる。
「紅蓮・円!」
クレアの武技によって、炎刃の力が増していき、火柱が立った剣で横に薙ぎ払いゴブリンキングの体を両断しようとした。
「ヌォオオオ!」
ゴブリンキングはウィンドカッターで弾かれた勢いを利用して体を捻ってクレアの武技に向けて大剣を振るった。クレアの放った剣術はゴブリンキングの大剣を両断するも、ゴブリンキングまで届くことは無かった。
最後のチャンスと思ったクレアは再度、止めを刺すために脚を動かす。それを見たゴブリンキングは悪あがきをするかのようにクレアに蹴りを入れようとした。
「その程度!・・・・・・っ!?」
ゴブリンキングの蹴りを避けようとしたと同時に体中の力が抜けていき、霊装が解けるのを感じ取った。
クレアは咄嗟に盾を前に出そうとするが、間に合わずゴブリンキングの蹴りを食らって吹き飛ばされてしまう。
「クレア!」
「クッション!」
クレアの体が宙に舞うのを見たクライは叫ぶと同時にカミールは霊術を発動し、クレアが壁にぶつかる衝撃を少しでも小さくするために風の壁を張り巡らせた。
カミールが緩衝用の風の壁をを張ったものの、勢いを殺し切れず、クレアは壁に激突し、そのまま地に臥せってしまった。クライとカミールはクレアに駆け寄り、クレアの状況を確認した。
「良かった!息があるわ!でもこれは・・・・・・。」
「とにかく治癒だ!急げ!」
クレアの体はひどい状況であった。ゴブリンキングの蹴りを盾で受け止めた左腕は完全に折れていた。それに加えて、ゴブリンキングの蹴りで肋骨の骨が折れ、内臓もも損傷している。
「私だけの治癒力じゃ・・・・・・。」
カミールは霊術で治癒を行うも、クレアの体は中々治らないでいる。悲しみに暮れているクライやカミール達を見たゴブリンキングは興味をなくしたように玉座へと戻っていく。すると、待ってましたとばかりにゴブリンナイトは剣を持ち上げてゆっくりとクライ達に歩き出した。
「拙いぞ!」
「分かってるわ!」
「・・・・・・あな・・・・・・た達は、・・・・・・逃げなさい・・・・・・。」
「クレア!」
クレアは朦朧とする頭でクライとカミールに逃げるよう指示する。
「ダメだ!俺達がここに居るのは皆で生き残るためだ!俺が時間を稼ぐ!」
「無茶よ!あなた一人でゴブリンナイトなんて相手できないわ!」
「だとしてもだ!とにかく早くクレアの治療してくれ!」
クライは震える手で剣を持つと、クレア達を庇うように立つ。ゴブリンナイトはクライを見て面白そうにして嗤っている。一体のゴブリンはクライに手招きするようにして指を曲げてクライを挑発した。
「うぉおおおおお!」
「クライ!」
クライは冷静な判断ができず、ゴブリンナイトに向かって突撃した。後ろからカミールの叫び声が上がるがクライには届かない。ゴブリンナイトは薙ぎ払うように剣を一振りすると、クライは呆気なくカミール達がいるところまで吹き飛ばされる。
「クライ!」
「ゴホッ!ゴホッ!」
クライを見て大した傷はなさそうだと安堵したカミールだったが、その安堵も束の間、ゴブリンナイトは眼前にまで来ていた。カミールは終わったと絶望する。
「ごめんクレア・・・・・・。何もできなくて・・・・・・。」
カミールはクレアに一言謝ると同時にゴブリンナイトは剣を振り被った。
ぐっと目を閉じているカミールだったが違和感を感じ、目を開けた。すると、剣を振り被ったままのゴブリンナイトがそこに居た。まるで金縛りに合っているかのように動けないでいる。
「良かった!間に合ったよ!」
読んでいただきありがとうございました




