1話 動き出した運命
「・・・て・・・さん。兄さん起きて。」
「・・・・・・んぁ。おはよう春奈。」
「おはよう。兄さん。朝ご飯できてるよ。」
起こされたのは神無月秋斗。今は高校三年生の学生だ。秋斗を起こしたのは一つ年下の妹の春奈だ。春奈は挨拶をして秋斗が起きたことを確認するとせっせと部屋を出ていく。秋斗は一度背伸びし、カーテンを開けて太陽の光を軽く浴びた。
「少し冷えるな。」
気持ちの良い朝だったが、季節は冬に差し掛かっており、少し体が冷える。もう一度背伸びをしてから秋斗は部屋を出ると、隣の部屋のドアが開いていたのチラリと部屋の中を見た。すると。
「夏美!早く起きてなさい!いつまで寝てるの!」
「・・・・・・分かってるよぉ・・・・・・もうすぐ起きるから・・・・・・」
隣の部屋にいた夏美を起こす春奈の叫び声が聞こえてきた。まるでお母さんのような起こし方だと思いながら様子を見る。夏美と春奈は双子の姉妹だ。顔は瓜二つのそっくりな双子だが、性格や好きなものとかはまるで似ていない。
春奈は髪を長くしているが、夏美はショートにしていたりだとか、春奈の方が勉強はできるが、スポーツは夏美の方が得意だったりする。性格もしっかりものの春奈とお転婆の夏美であまり似ていない。春奈が寝起きの悪い夏美を起こすのは我が家では恒例のようなものだった。
そんな姿をドア越しにチラリと見た後、秋斗は1階に降りてから洗面台に行って顔を洗うとリビングに向かった。リビングに行くと夏美を起こした春奈が既に1階に降りており、キッチンに立っていた。秋斗は戸棚から皿を三つ取り出してテーブルに置いて席に座った。少ししてから夏美がリビングに目を擦りながら顔を出す。
「兄ちゃん。ぉはよう。」
「おはよう。早く顔を洗ってこい。朝ごはんがもうできるぞ。」
「はぁい。」
眠そうな声で夏美は返事をして、そのまま顔を洗いに洗面台へと向かうと、サラダが入った大皿を持ってきた春奈がキッチンからリビングに来てテーブルの真ん中に置いて席に座った。夏美が顔を洗ってきたリビングに入ってきて、自分の席に座り、皆が揃ったところで手を合わせる。
「「「いただきます。」」」
食事挨拶をしてから三人で食事を始める。家には両親は住んでいない。理由は、父が今年になり海外出張が決まって母も一緒についていったためである。もう高校生なんだから協力すれば何とかなるでしょ。などと言いながら父と一緒に海外へと旅立った。一番張り切っていたのは実は春奈だった。母の代わりに頑張ると言っていた。秋斗や夏美は両親が居ない生活はどんなものだろうとウキウキしたものだ。兄妹だけの生活を半年ほど経っていた。
主に家事やお金の管理は基本的にしっかりものの春奈がしていた。秋斗や夏美は春奈の負担は極力減らすようにして掃除とか買い物係をしていとかをしていたりする。食事の終わり頃、今日の予定を夏美が確認する。
「今日は何時出発だっけ?」
「10時くらいかな?早めに準備しなよ。」
「はーい。」
今日は幼馴染である神代冬馬の墓参りに行く予定だ。冬馬は気がよく虐めとかを許さない正義感溢れるような人間だった。秋斗達とは家族ぐるみで旅行に行っていたりと良好な関係を築いていた。春奈も夏美はお兄ちゃん子であり、秋斗は冬馬が一緒に遊ぶことが多かったため、自然と春奈も夏美も冬馬と遊んでいた。そんなある日常のことである。
いつものように秋斗と冬馬は一緒に学校から帰ろうとしていた。そんな学校の帰り道でボールが公園から道路に向かって転がっていくところが見えた。そのボールを追いかけるように公園から飛び出した子供がいた。
「危ない!」
前方から大型のトラックが走ってくるのも見えた。秋斗の叫び声が出るほんの一瞬先に冬馬は走り出していた。それを追いかけるように秋斗も走り出す。しかし、間に合ったのは冬馬だけだった。トラックのクラクションが鳴り響く中、冬馬は道路へと飛び出して子供の腕を掴んで歩道の方へと投げるように引っ張った。その後、冬馬も歩道へと行こうとしたが、紙一重で間に合わずトラックに轢かれてしまった。すぐに病院に搬送されたが、間に合わずにこの世を去ってしまったのだった。
そんな日から2年と月日が流れ、今日は冬馬の命日で、その墓参りに行く予定となっている。
食事を済ませた秋斗達は少し寛いだ後に墓参りへと行く準備をする。出発の時間となり、出発の準備を済ませた秋斗と春奈は夏美の準備を待っている。
「夏美ー!もう行くよー!」
「ごめーん!今行くー!」
ドタバタと音を立てながら階段を下りてきた。
「お待たせ―!」
「それ。足って寒くないか?」
「大丈夫だよ。慣れてるし。」
秋斗は夏美の寒そうな恰好を見て問いかける。夏美はショートのスカートに太ももまであるハイソックスだ。上はコートを羽織っているから問題は無さそうではある。対して春奈は夏美と同じようにコートを羽織っているが、長ズボンで暖かそうな恰好をしている。
「それじゃ行くか。」
全員の準備ができたのを確認し、秋斗達は出発した。墓のある場所はバスと徒歩で30分ほどした所にある。まずはバスに乗って、最寄りのバス亭で降り、そこから徒歩で15分ほど歩いて行った。お墓の行く前にバケツに水を汲んでから冬馬のお墓へと向かう。お墓の掃除をしてから花を供え、お線香を焚いた。
(今年で春奈も夏美も高校生になったよ。お前が居たらもっと楽しい高校生活になったんだろうけど。お前が居なくなってから高校生活はちょっと物足りない感じはあるけど、楽しくやってるよ。まぁお前なら過ぎたことを引き摺るなって言いそうだな。時間もあれだから、また一年後にも来るよ。)
そんな思い出話をしてから別れの挨拶をする。春奈も夏美も挨拶は済んだようで、そろそろ帰るかと話、秋斗達は冬馬のお墓を後にした。
墓参りを済ませた秋斗達はバス亭に向かって歩いていたが夏美が何かを感じ取る。
「何か鐘みたいな音しない?」
「え?」
秋斗と春奈は耳を澄ませて夏美の言う鐘の音を聞き取ろうとした。
・・・・・・ォーン・・・・・・ゴォーン。
まるで除夜の鐘のような音が徐々に大きく聞こえてきた。
「本当だ。」
「今日って何かあったっけ?」
「いや、何もないはずだけど・・・・・・。」
どこからか聞こえてくる鐘の音を聞き入っているといきなり地面が光り出した。
「何これ!?」
「何かやばそうだ!離れよう!」
秋斗は春奈と夏美の腕を掴んで光っている地面から離れようとしたが・・・・・・。
「痛っ!」
光る地面の外に出ようとした瞬間に見えない壁に勢いよくぶつかり、二人の腕を離した秋斗は倒れこんだ。
「大丈夫!?」
「あぁ、大丈夫。」
「見えない壁があるよ?」
ドアをノックするように透明な壁を確かめる夏美。秋斗も立ち上がり壁を触った。
「本当だ・・・・・・。」
「これ光ってるとこ全体に壁があるみたい。」
春奈も同じように見えない壁をペタペタと触り、出口が無いかを探していた。三人で出口を探すも見えない壁に阻まれ逃げ出すことができない。秋斗達が焦っている中、光る地面は徐々に強さを増していき、視界が白く染まる。あまりの眩しさに秋斗達は目を開けていられず、瞼を閉じたのだった。
少しした後、秋斗は目を開けた。
「おぉ・・・・・・。」
目に広がった景色思わず感嘆する。目の前にあるのは、天を穿つほどの大きな巨木があった。辺りにも木々はあったが、自分達の知っている森に生えているような木々であり、目の前にある巨木と比較すると余りにも小さく見える。
「すごっ・・・・・・。」
夏美も目を開け巨木を見て感嘆している。春奈はキョロキョロと辺りを見て、この場所がどこなのかを確認しているようだ。秋斗も辺りを見回すが、木々が生い茂っているだけで他には何もない。
「とりあえず、歩くか。」
「うん・・・・・・。」
「そうだね。」
春奈は恐る恐るとした表情をしているが、逆に夏美はワクワクした表情を浮かべていた。秋斗達は一先ず巨木に向かって歩き出した。10分近く歩いた秋斗達は巨木の近くまで辿り着いた。
「あれ見て。」
何かを発見した春奈が指差した。秋斗と夏美は春奈の指を示した方を見ると、巨木の根本で何やら小さな羽根が生えた生き物が飛んでいる。小さな生き物はこちらに気づくと大きく。手を振ってこちらに向かって何かを叫んでいるように見える。
とりあえず、秋斗達はこちらに向けて手を振っている生き物に向けて歩いていく。小さくて見えなかったが、近づいてい見ると小さな生き物は50センチほどの大きさで人の姿をしており、青く光る綺麗な羽根が背中にあった。
「ようこそ、私はフェアリー。あなた方が選ばれたのですね」
「わぁー!かわいいー!」
「あわわ。ちょっと!!」
「むむっ」
夏美はフェアリーに駆け寄り両手を伸ばして捕まえようとしていた。焦ったフェアリーは夏美に捕まるよりも早く逃げて高い位置で留まり肩をすくめている。逃げられたフェアリーを見ながら夏美は少し悔しげだ。
「全く・・・・・・。お転婆な子ね?もう少し礼儀を弁えなさいな。」
「すみません。僕の名前は神無月秋斗です。こっちは妹の春奈とその隣が夏美です。ここは一体なんですか?それに選ばれたっていうのは?」
「あなたは話し合いができそうですね。実は、あなた達はある世界から召喚されようとしています。その世界に行く前に私が関与してここに招きました。今から行くを簡単に説明しておかないとと思いましたので。」
「待ってください。その召喚とかいうものは拒否できないんですか?」
「できません。召喚の力が働いているので私には何もできません。それにあなた達は、今から行く世界にとっては貴重な存在となっています。あなた達の力で向こうの世界の人々を助けていただきたいのです。これは私にとっても大事なことなのです。」
「どういうことですか?」
「今から行く世界が滅ぶと他の世界にも影響が出てきてしまうのです。そのためにあなた達の力を貸してほしいのです。」
秋斗と春奈は困惑した様子を浮かべているが、夏美だけは違った。何か思いついたようにフェアリーに問いかけている。
「これって異世界召喚ってやつじゃない?だったら何かすごい力をくれたりしないの?」
「既にあなた達は力を持っていますので、それ以上は上げられません。それに力とはいうのは与えられるものではなく、磨き上げるものです。」
「そうなんだ。ラノベのようにはいかないんだね。」
しょんぼりとする夏美を横に、秋斗達の体が光出していた。」
「何これ!」
「兄さん!」
春奈と夏美はそれぞれ秋斗の袖に捕まると、この場所に飛ばされた時と同じように視界が白くなっていく。
「すぐに尋ねなさい!あ・・・・・・ち・・・と・・・・・・ろへ!」
フェアリーが何かを叫んでいたようだが、聞き取れないまま異世界へと飛ばされるのであった。
読んでいただきありがとうございました。