表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/40

3.恋愛音痴な私の恋愛

 少し私の話をさせてもらおう。

〝恋愛音痴〟と聞いて、どんな人物を思い浮かべるだろうか。

 私がまさに恋愛音痴そのもので、そもそも恋愛に向いていない性格なんだと思う。


 私がそう思うに至ったきっかけは、過去の異性とのお付き合い。

 お付き合いと言っても、少女漫画で見かけるような、「一目見た瞬間に運命を感じた!」的な出会いから始まったものではない。仲の良いの友人に彼氏ができて、暇を持て余していたタイミングで、たまたま告白してきた男性が相手だった。


 一人目は、私が高校三年生の時。いまだに彼氏ができたことがないという状態に少し焦りを感じていた時に、告白をしてきた同じクラスの男の子が、私にとっての初めての彼氏である。

 正直なところ「恋とはなんぞや」といった状態ではあったものの、友達としては好意を抱いていた相手だったので、「まあ何事も経験だ」という考えから交際がスタートした。


 しかし、最初の彼とのお付き合いは、お付き合いの数としてカウントしても良いのかと思うくらいに何もなかった。

 一度だけ「一緒に帰ろう」と誘ったことがあったが、その時は「恥ずかしいから嫌だ」と断られてしまった。まさか断られると思っていなかった私は、衝撃のあまり呆然としたことを覚えている。

 そんな対応をされた私は、彼にどう話し掛ければいいのかわからなくなってしまい、気づいた時には彼とはただのクラスメイトだった時よりも疎遠な関係になってしまっていた。そして、お互いにどうすれば良いのかわからないままに自然消滅した。

 ドラマや漫画なんかで描かれるような交際に、少なからず憧れのあった私は、ただただ虚しい気持ちになったことを覚えている。


 そして二人目。大学二年生の時に付き合うことになった次の彼氏は、一つ年上のサークルの先輩だった。女友達も多く恋愛経験も豊富そうに見える彼となら、一人目の彼とのようにお互いどうすれば良いのかわからない状態には陥らないだろうと思って、告白を受け入れた。


 しかし彼の考え方とのズレに気づいたのは、付き合い始めてすぐのことだった。

「こないだ〇〇と飲んだ時にさー」

 悪びれもなくそう言った彼の口から出たのは、明らかに女性の名前だった。詳しく聞くと、どうやら朝まで二人きりで飲んでいたという。

「後ろ暗いことがないとしてもさ、彼女としては気分が良くないよ? せめて事前に伝えておいてほしかった」

 私が素直にそう告げると、彼は心底うんざりしたという顔で「束縛めんど」と言い放った。


 なるほど、私の考えは〝めんど〟いのか。

 彼からの冷たい声ととりつく島もない態度に衝撃を受けたけれども、「こういう人もいるのか」と思ってできる限りの譲歩はしたつもりだ。

「女性と二人きりで出掛けるのはまだ我慢できる。でも、さすがに夜を明かすのはやめてほしい」

「あなたの行動を制限するつもりはない。ただ、せめて一言連絡がほしい」

 しかし、私のそんな言葉に対して、彼は毎回苦々しげな表情を浮かべるだけだった。

 結局、耐え切れなくなった私が別れを告げることとなり、二人目の彼とも長続きしなかった。


 そして三人目。二人目の彼氏との反省を踏まえて、次に私が付き合ったのは、アルバイト先の一つ年下の後輩だった。

「前の彼氏に〝束縛が面倒くさい〟って言われたんだよね。私、重いタイプなのかも」

 雑談の中でそんなことを言った私に、彼は「僕も重いタイプなんです! 重い同士で相性が良いかもしれませんね!」と言ってきた。

 確かにそうかもしれないな、と思った私は、大学卒業と同時に告白してきたその彼と付き合うことにした。


 最初は上手くいっているように見えた。前の彼氏と違い、彼はいつでも私を優先し、他の女性の影など微塵も感じさせなかった。

 けれども、一見〝理想的な彼氏〟であった彼は、私に自分と同じくらいに一途であることを求めた。

「家族以外の男性の連絡先を消してほしい」

「例え仕事であっても、複数人であっても、男性がいる飲み会には参加しないでほしい」

 その言葉が彼なりの愛情であることは理解していたが、彼の一途さに私はどんどん追い詰められていった。


「え、仕事に行くの? 明日は僕たちが付き合ってちょうど100日の記念日なんだよ?」

 その日の彼との会話は、そんな言葉から始まった。

「そうなの? でも、ついこないだ三ヵ月記念のお祝いをしたばかりだしさ。定時で帰れるようにするから、夜に一緒にケーキでも食べよ?」

 本心を言えば、ケーキもいらないんじゃないかなと思った。もっと言えば、毎月開催される〇ヵ月記念日も、私にとっては負担だったし、そういうのは年に一度くらいでいいんじゃないかなと思っていた。

 しかし、彼にとってはそうではなかったらしい。

「なんでそんなこと言うの!? 仕事と僕、どっちが大事なの!?」

 彼は私の言葉を聞いて、大真面目な顔でそんなことを言った。


 そういうのは、〝瀕死の恋人〟と〝会社の命運がかかった会合〟なんかを天秤に掛けるものなのではないだろうか。少なくとも、〝付き合って100日記念日〟を天秤の片側に乗せるべきではないと思う。

 今にも泣きだしそうな彼には申し訳ないが、入社してまだ三ヵ月しか経っていない私が、「彼氏との記念日なので休みます」と言って直前で欠勤することなどできる訳がない。というか、私がしたくない。

「……ごめんだけど、この場合は仕事だわ」

 そう言った私に、彼は絶望的な表情を浮かべた。


 当然のことながら、三人目の彼ともその後すぐに破局を迎えることとなった。ただし、それまで付き合った相手とは違って揉めに揉めたが。

 メールで別れを告げた私に、彼は「最後に一度会って話がしたい」と言った。その言葉に、「恋人になるまでは良い関係だった訳だし、メールで終わらせるべきではないのかな」と了承した自分に、もっと危機感を持てと言ってやりたい。

 しかし、未来の私のそんな言葉が届く訳もなく、過去の私は話し合いの場に指定された彼の家に、のこのこと一人で行ってしまった。その後家から返してもらえず、警察に頼る羽目になるとも知らずに。


 幸い、事情を聞いた警察がすぐに彼の家に駆けつけてくれ、私は危害を加えられることなく解放されることになった。

 けれどもこの出来事は、私の心に大きなダメージを与えた。本当に、カップルの別れ話なんぞに忙しい警察官の方々を巻き込んでしまうなんて、申し訳なさすぎる。……まあ、そう言えるのも私に実害がなかったからなんだけど。

 とにかく、この時の私は監禁されかけたこと以上に、別れ話すらまともにできない自分に心底失望した。そして、「もう二度と彼氏なんかつくらない!」と心に決めたのだった。


 ……これが恋愛音痴である私が体験した、豊富とは言えないリアルな恋愛の全てである。

ここでは主人公に「カップルの別れ話なんぞに忙しい警察官の方々を巻き込んでしまうなんて」と言わせていますが、(元)恋人から危害を加えられそうになったら迷わず警察に通報してくださいね。

愛ゆえの行動だとしても、三人目の彼氏の行いは犯罪です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ