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三好の願い

天文3年(1534年) 七月 摂津・越水城


越水城の北門に、塵ひとつない軍列が堂々と入城してくる。

槍の穂先は揃い、馬はよく調教され、陣羽織には阿波と讃岐の風が吹いていた。


――三好康長、三好長逸。

四国からの援軍、総勢八百。全て三好一族の精鋭である。


城の一室、迎えた長慶は穏やかに頷いた。


「ご苦労だった。四国は安定しているか?」


康長が胸を張る。


「はい。実休様と一存様、お二人の奮励に加え、他の一族の協力もあり、阿波・讃岐・淡路いずれも落ち着いております。今ならば、畿内へ全力を注げましょう。」


「……ありがたい。」


静かに言った長慶に対し、隣で肩をいからせる長逸が、抑えきれぬ感情をそのまま口にする。


「して、いよいよ晴元と政長に矢を向ける時が来たのですな?」


「そうだ。」


「して、長慶様。貴方様は“軽く一当てして講和を”と仰っていたようですが……」

長逸が一歩踏み出し、声を強める。


「その“軽く一当て”で、奴らの首を飛ばしてしまっても……よろしいですかな?」


康長も、笑いながら片眉を上げた。


「仇を目前にして、我ら血の気が多くなっておりますれば、誤って手が滑るやもしれませぬ。」


沈黙。

一瞬、場の空気が凍る。


だが長慶は、唇をわずかに歪めて言った。


「……それほどに弱っているのならば、問題はない。

晴元は名だけの主君、政長はかつての宗家を穢した仇。我らが引導を渡すべき存在だ。」



長慶は、立ち上がる。

背筋は伸び、声にいつも以上の熱が宿っていた。


「八月、出兵する。」


「……!」


「表向きは、本願寺との共闘による“民を守る戦”。

だが、実態は晴元麾下の勢力に我が三好一族の、そして四国の強さを思い出させてやり、隙を見て政長を討つ。」


康長が静かに問う。


「政長を……討つおつもりで?」


「うむ。政長を討てば、かつての三好宗家の威光は畿内に戻る。

義ではなく、実が我らに傾く。

だが、こちらも四国から主力を引き出している。長引けば、地は痩せ、人心は離れる。年内に決着をつける。必ずだ。」


その言葉には、普段の長慶の冷静な論理に加え、

父の仇、宗家再興の宿願――情熱がにじんでいた。


康長は、神妙な面持ちで深く頭を下げた。


「承知つかまつりました。これより三好は、本当に一つになりまする。」


長逸も、嬉々とした顔で「御意」と頭を下げる。



だが、その様子を少し離れて見ていた松永久秀は――

ただ一人、無言で目を細めていた。


(……珍しく、激情を見せられたな、当主様。)


(果たして、“短期決戦での政長の首取り”は本当に可能か。

 あの政長と晴元が、ただで討たれるほど浅はかな者どもか?)


誰よりも冷徹に戦の裏表を読む久秀だけは、

まだ見ぬ「思惑の罠」を警戒していた。

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