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晴元と政長

 京・細川晴元の邸宅・御座の間


「──どうも、若造は都で名を上げる気のようですな。」


三好政長が、低く笑った。


晴元は黙って酒を口にした。

数日前、摂津の越水城が無血で開かれたという報告が入ったばかりだった。


政長は、かつての三好元長によく似ていた。

切れ長の目元、引き締まった口元、すらりとした体つき。

だが、元長と決定的に違ったのはその“目”だ。

その奥底には、抑えきれぬ野心と猜疑心が渦を巻き、光の届かぬ底で燃えていた。

それが皮肉にも、政長を「主君を裏切る男」としてより印象づけていた。


一方の晴元は、紫の直垂ひたたれを纏い、指の所作一つ取っても気品があった。

茶を持ち上げるその指先にすら神経が張り詰めており、

一見して「育ちの良さ」と「極度の警戒心」が同居していることが分かる。

額には見えぬ汗が滲み、心のどこかで常に「誰かに裏切られること」を想像しているようだった。


「長慶は宗家を掲げて、一揆討伐の名目で畿内の豪族と次々と縁を結んでおる。

……晴元様のお膝元も、次第に“奴の色”が濃くなってまいりましたな。」


晴元は、扇をゆっくりと閉じた。


「それを止めるために、お前を呼んでいる。」


「心得ております。──されど、ひとつ確認しておきたい。」


政長は背筋を伸ばし、細い顎をわずかに上げて言った。

その態度には、忠誠の影を纏いながらも、いつ相手の首筋に刃を向けてもおかしくない気配が滲んでいた。


「御屋形様は、三好宗家を残すおつもりですか? それとも……潰すおつもりですか?」


晴元の目が、わずかに細まった。


「宗家は残す。今は“利用”する。だが――」


「その“宗家”に、私が就いても問題はない、ということで?」


沈黙が流れた。


「……ほう。ついに言ったな。」


「最初から隠しておりませぬ。」


政長の目は、冷たく静かだった。


「かつて元長を裏切った私を、長慶が許すはずがない。あの子は私を“父の仇”としている。

今や、奴と私の間に“血縁”は存在しておらぬ。あるのは、断絶だけです。」


「……自ら宗家を名乗るか。」


「違います。“宗家の器”を奪いに参るのです。

父の恨み、家のことわり、三好の未来──何を理由にしても、私はあの若造を許せぬ。」


晴元はしばし黙し、それから口元を歪めた。


「……三好政長。お前は使える。だが危うい。」


「上等です。」


政長は微笑すら浮かべて言った。


「晴元様。貴方が私を使い潰すつもりなら、それでも構わぬ。

ですが、あの長慶という名を、京から消すおつもりなら、私こそが最適でしょう。」


「確かにな……“お前ならば、容赦なく、長慶を討てる”か。」


「はい。いずれ、あの子が“宗家の看板”ごと京を揺らす前に──私の手で、終わらせましょう。」

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